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第五章 嫁入り支度は慌ただしく

家族からの集中砲火

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 これは、既に光の国の王からも許可を得た話で。
 いにしえの決まり事は、例え公爵家でもそうそう断れはしないのに、男爵家風情が断れるはずもなくて。

 お父様は「はい」とだけ答えた。

 「詳しい話は明日、また参ります。今日は家族水入らずでお過ごし下さい」

 「え、フィリップ大臣、お宿は……?」
 「この街に入ったところにあった宿屋に泊まりますよ」
 「え……」

 確かに、彼の言った場所に宿屋はある。ある……が、あれは完全に平民の、それも中流階級向けの宿屋で、闇の国の上級貴族が泊まるような宿では決してない。

 「分かっておりますよ。何、アスモは軍の者ですから野営とて平気な男。それに我らはこう言う事もあると理解した上で仕事を引き受けてきたのです。問題はありませんよ」

 そう言って屋敷をあとにした。

 ……フィリップ様、セリフはかっこいいんだけど。今は置いていかないで欲しかった。

 当然家族は何処へも帰ったりはしない。だってここが家だから。

 「エルシエル、何がどうしてこうなったのかきちんと説明してくれるかなぁ?」
  わー、お兄様の背後にブリザードが見えるぅ……。

 「そうね。……断れはしないと分かっていても、まさか本当に貴女が選ばれるなんて……このガサツ娘の何処が良くてこんな事に――」
 お母様、流石にそれは私に対して失礼が過ぎませんかねぇ?

 「うっうっ、まさか娘が外国に嫁ぐことになるなんて……グスッ」
 お父様は泣かないで下さいよ。

 「いや……その、危うく死ぬところだったのを助けてもらったし……研究続けて良いって言ってくれたし……。それに何よりイケメンだし、笑ったときはちょっと可愛かったし、話してて楽しいし……それに……」

 家族が納得出来なくても私が嫁ぐ事は決定事項なんだけど、やっぱり出来るなら家族に祝福されたい。そう思ったから必死に説得を試みようと、羞恥に赤くなるのを自覚しつつ、陛下の良い所アピールを続ける。

 「え……誰、コレ。本当にエルシエルなの?」
 「こんな女の子らしいエルシエル、私も初めて見たわ。闇の国で偽物とすり替えられたんじゃ……」
 「む、娘が……娘がぁぁ……(泣)」
 「お嬢様が見事な恋する乙女に……。闇の竜王陛下、凄いです。隅に置けませんね」

 家族にカレンまで! ヒドい!

 けど、お陰で何とか説得に成功した。

 「まさかエルシエルに好きな男が出来るなんてね。……それも闇の国の竜王陛下とは――」
 「無茶苦茶な娘だと思っていましたが、こんな事まで無茶苦茶で無くとも良いでしょうに……」

 諦められた、とも言うかもしれないが。

 日が暮れる頃には何とか開放され、私は自室へと戻る事が許された。
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