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第八章 エルシエルの冒険

まずは基本のキから

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 丸一日歩いて、ようやく川に辿り着いた。
 川があって良かった! これで渇き死には免れた!

 けど、流石に生水そのまま飲むのが良くないのは分かる。

 煮沸消毒はしなくちゃね。

 え、道具? 大丈夫、ちゃんと持ってるから。
 ……影の長さんが私にって専用の作ってもらって、前回の教訓から今度は自分で手渡しに来たから。
 全部ドレスに仕込めるタイプのコンパクトな奴だけど。

 まずその辺に転がってる石を集めて輪の形に並べます。
 その輪の中央に火の魔術を仕込んだ石を置きます。
 するとあら不思議、燃料もなく火が出ます……ウソですゴメンナサイ、石に込められた魔力を燃料に燃えてます。

 その上に折りたたんだ紙鍋をセットします。
 長持ちはしませんが、水を沸騰させる間くらいは普通に保ちます。

 沸騰した湯を飲むとかありえないんで、火を消してしばし待ちます。
 その間に魔石をお片付けして、お湯を飲みます。

 ちょっと体が冷えてたので有り難い。

 さてお次。
 喉の渇きが癒やされたのは幸いだけど、喉が渇くのは何も人ばかりじゃないって事だ。
 小動物なら良いけど、人喰いの猛獣なんかでたら即アウトだ。

 薬も仕込んであるけど、あれはあくまでヒト用だから、猛獣にどこまで効くか分からない。
 下手に手負いにするのは避けたい。……死亡フラグ過ぎるから。

 けど、川にぶち当たったことで、多少今いる場所が絞り込めた。
 まだそれらしい候補はごまんとあるけど、全く手がかりなしだったさっきまでとは心持ちが違う。

 「取り敢えず流れに沿って歩くか」

 だけどその前に。
 今度は結界の魔術を仕込んだ石を出す。

 今日は既に丸一日歩き通しで疲れているからね。
 寝ないと確実に明日に響く。
 体力的にも判断力にも。

 だから、燃料の量に制限があるの分かっててもここは安眠の為に遠慮なく使う。

 「陛下、お休みなさい」

 フォンセ様に貰った首飾りに触れながら呟く。

 昨日まで陛下に抱っこされて寝てたのが恥ずかしくてたまらなかったのに、こうして無くなったら寂しいと思ってしまうなんて……。
 恥ずかしいけど、何だかんだで陛下の側は安心できる。

 早くあの人の所へ帰りたい。

 エルシエルは草原に横になって目を閉じた。



 「――エルシエル」
 「……陛下」

 その頃、地の国の貴人牢では……

 「鱗に触れたんだろうな。エルシエルの思念が朧気ながら伝わってくる」
 一先ず彼女の無事が確認されて一同は僅かながらにホッとしていた。

 「嬉しそうですね、陛下」
 「不謹慎だとは思うが……こんな時でもエルシエルが私を慕ってくれていると、こう直に感じられるからな」

 エルシエル様。大変とは思いますが……どうかそのまま無事でいて下さい。
 宰相は静かに祈った。
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