天界送りのサルティエラ

いわみね

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第二章

30話 知りたくない

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『ヤン!』
 少し独特の甲高い鳴き声をあげながら、ハッサクが銀色の小さな体をピョン、ピョンと跳ねさせて小さな精霊たちを追いかけて遊んでいる。

 ここ天界に跳ばされたことを受け入れられず、情緒が安定しないパルガムに状況を把握させなければならない。
 俺たちはひとまずパルガムを座らせた。
 (放っておいて、のたれ消滅したところで構うわけでもない気もするが、それをやるとジルや他の精霊たちが煩そうだ。それにしても──)

『だからね、キミがいた魔界につながる狭間は、ボクたちには開けないんだよ』
 “何度も説明してるのー”
 “なり”
「なら、ミミルさまがきっと助けに」
『……言いにくいことだけど、その“ミミルさま”が狭間にキミを放り込んだ張本人だから、それは無理なんじゃないかなあ?』

 ジルが申し訳なさそうにしてはいながらも、ハッキリ言った。
 何度説明してもわからないようなので、仕方がなかったんだろう。
 パルガムが泣きそうな顔から、キッと表情を引き締めると言った。
「ボクを苦しめようと、そんなウソをついてもムダだ!この邪悪な天使たちめが!」
 “我らは精霊なり”
「じゃ、邪悪な精霊どもめ!」

 言い直すのか。
 ウドンの訂正に反応するあたり、魔界人っぽくないやつだな。

『嘘じゃない。魔界と天界をつなぐ場を開くには、イルミナさまだけじゃなくて、魔界の側からも許可が要るんだよ。片方からだけで簡単に開くと混乱するから、ずっと昔にそう取り決められたんだ。知らないの?』
 パルガムが目を大きく見開いて、声を出さずに口だけを動かす。動揺して声が出ないらしい。
 ──さすがに現実を見るか。

「わかった!そういうことか。わかったぞ!」
 パルガムがさも閃いたという顔で叫んだ。
「これは陰謀だ!!」
『何?』
 “どういうことなのー”
 “なり?”
 ジルたちの疑問にパルガムが拳を握って言った。
「これはボクとミミルさまの睦まじさに嫉妬した、天界の神と、他の魔界王が仕組んだ汚い陰謀なんだ」

『……狭間にキミを放り込んだのは“ミミルさま”なんだよね』

「そこが思考の罠なんだ。崖から突き落とされはしたけれど、狭間に放り込まれたりしてない」
 レミーが小さな両手を顔にあてる。
 ジルたちが全員言葉を話すのを止めた。
 
『ヤン!』
 ハッサクの甲高い鳴き声があたりに響いた。
 俺もジルもすぐに何を言うべきか思い付かない。

『ボクたちは人じゃないけど。例えば地上で人が崖から突き落とされたらただじゃすまないって言うのは、キミわかる?』
 ジルが静かに。さっきよりも申し訳なさそうに言った。

 だがパルガムは怯まなかった。
 鋼もビックリ、魔鉄鋼の精神で言い放つ。
 パルガムが確信めいて、自分の両の手をぎゅっと重ね合わせてポーズをつけ言った。
「何か深いご事情が、ミミルさまにはあったに違いない!きっとそうだ」

 (こいつのミミルに対する異常な信頼はどこから……)
 俺が思ったのと同時に精霊たちも同じことを思ったらしい。
 赤いルビーのような精霊レミーが言った。
 “どうしてそんなに〈ミミルさま〉を信じるなの”

 レミーの質問にパルガムは迷いなど一切見せず、薔薇色の微笑みで言い放った言葉は、ある意味想定内だったものの、戸惑わせるにも十分なものだった。
「ボクとミミルさまは愛し合っているんだ!信じるのは当然じゃないか!」
 ミミルがなぜ、こいつパルガムをこちらに跳ばしたのか、イルミナがなぜ受け入れたのか。
 説明も追求も不要だと思った。
 さてどうしたものか。
 放置が良いのだろうか。
『ヤン!ヤン!』
 ハッサクが足元でじゃれつきながら転がりはじめた。

『パルガムさん、キミのことはしばらくエリヤが面倒見るから、安心するんだよ』
 ジルたちが憐れむようにパルガムを見つめ、それぞれの色の光で優しくパルガムを照らした。
 天界の光にあてられ、パルガムが少し眩しそうに目を背けた。

「ミミルさま!待っていてください……!」
『ヤン!』
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