【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

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第二章 ひとりぼっちのシュークリーム

ぜいたくな溜息【1】

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そうして小一時間くらい、大地の背をなでたり、髪を指でいてやったりした。

その間、時々身体の位置を変えるだけで……饒舌じょうぜつな大地にしては、めずらしく口を開かなかった。

「ありがとう、まいさん。もう、大丈夫だよ」

にっこり笑って、大地が身を起こす。私もホッとして、大地に微笑み返した。

「そう? 良かった」
「うん。だから、お礼させてね」

言うなり、唇が奪われて、パジャマの上から身体をなでられた。
───あの……やっぱり、お礼って……コレ、なの……?

「───……大地……ねぇ、大地。ちょっと聞いて」
「……何?」

重ねられた唇を懸命に外して、同時に、背中をなで伝う手指をつかんだ。大地の瞳を、のぞきこむ。

「ねぇ、ホントに意味解ってるの? 半分とはいえ、血の繋がった姉弟で、こういうことする意味」
「……近親相姦……正しくは、近親姦ってことだよね?」

おおげさに溜息をついてみせる。どうでもいいと、言わんばかりに。

「解ってるのに、どうして……」
「じゃあくけど、なんで血が繋がっていると、セックスしちゃいけないの?」
「は?」

あまりにもストレートな問いかけに、開いた口がふさがらない。
そんな私の前で、大地は、いつになく真面目な顔で持論を展開した。

「モラルだっていうのなら、僕は本当は、この世には存在してはいけないはずだよね?
だって、僕の母親は、奥さんのいる相手ひととセックスしたんだ。だから、僕は、ここにいる。
法律や倫理に背いて……そうして、僕は生まれたんだ」

血を吐くような、苦しげなうめきだった。大地の心痛を思うと、言葉が見つからなかった。

だけど私は、あえて口を開いた。

「大地……それとこれとは、違うんじゃない?
父さんは……まぁ確かに抜けててアレだけど。でも、大地のお母さんのこと、好きだったと思うし……」
「好きなら、ゆるされてしまうの?」
「いや、赦す赦さないの問題じゃなくて……。
あー、もうっ。とにかく、話は別だよ。少なくとも父さん達は、血は繋がってないでしょ?」
「違わない。同じだよ。どっちも、社会的にも倫理的にもタブーだっていうのが、社会通念だもの。赦されない、ことなんだ。
その結果として僕がいるのに……そういう理由で僕を拒むのは、僕の存在自体を拒絶してるのと、同じだよ。
だったら、僕を……僕自身を嫌いだって、言ってよ。姉弟だからダメだなんて言わないで、僕のことが好みじゃないからイヤなんだって……そう、言ってよ……!!」
「大地……」

さっきの痛々しい表情かおをした大地を抱きしめて、今の大地を受け入れてあげないのは矛盾しているのだろうか。
あの抱擁ほうようは、ただの同情で、ほどこしだって。

だから、身体を求められても……愛情を求められても困るって、そう言えば、良いの? ───本当に?

子供っぽいのに、妙に大人で。甘えた口調のわりに、言っていることは、嫌になるほど正論で。
いつも楽しそうに笑っているのに、底知れぬ……何か、暗いものを抱えている。

そんな大地に、惹かれている自分に、気づいてしまった。

最初のキスやその直後の行為は、確かに情欲に流されていたんだと思う。だけど……さっきのベランダでのキスは───。

ふいに大地が指を上げ、私の頬に触れた。

……いま、この時が、大地を拒む唯一のチャンスかもしれない。たとえそれが、見え透いた嘘だとしても。
嫌いだから触るなと言えば、大地はきっと、二度と私に触れなくなるだろう。

感覚的なものでしかないけど……大地は、私が嫌がることは『本当にしない』気がした。
私は……大地が『そういう奴』だと解っているのに───言えなかった。

……言いたく、なかった。

真っすぐに私を見て、思いつめたようにかすれた声で、大地は言った。

「僕は、まいさんが好きなんだ。初めて会った時から、ずっと。
まいさんは覚えてないだろうけど、小学生の頃から何度か、まいさんのお店に、僕は行っていたんだよ? シュークリームや、ケーキを買いに。
いつも親切にしてくれて、優しく笑いかけてくれて。……あの人から、まいさんが半分だけ血の繋がったお姉さんだって聞いてからも……ずっと、好きだった」

私は人の顔をきちんと覚える方ではなかった。だから、大地にそんなことを言われても、ピンとこなかった。

例えば、いつも同じ時間に来店されるお客様や、同じ物を注文されるお客様というのは覚える気がなくとも、自然と記憶に残ることはあったけど。

どんなお客様にしろ、丁寧に接するのも笑顔を向けるのも、仕事としてやっていた。
そこに『心』がないかといえば、そうではなく、よほど非常識な言動をされない限りは、誠心誠意を尽くすように心がけている。
プロとしてお金を頂戴している以上、当然の接客態度だと思うからだ。

「それがまいさんの仕事だって、いまならちゃんと、解ってる。
でも、少ない小遣いで買った、一個だけのシュークリームでも……まいさんの優しい笑顔を思いだして食べると、一人の夜でも寂しくなかった。
僕には、まいさんっていう素敵なお姉さんがいる、一人ぼっちなんかじゃないんだって、そう、思えたから」

小さく笑ってみせる。せつなくなるほどの優しい眼差しに、胸がつまった。

こらえきれずに、私の頬に触れた大地の指を、つかんだ。
わずかに震えが伝わってきた指を、そのまま自分の頬に押さえこみ、私は目を閉じた。

何がいけなくて、何が悪いんだろう?
私も、いま、目の前にいる大地に、愛しさが募っている。
抱きしめて、抱きしめられたい。

いつの間に……こんなに───。
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