【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

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第五章 絆をつなぐ碧色のマフラー

姉弟の絆

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DNA鑑定をしてくれるところなんて、限られているとは思っていたけど───案の定、数は少なかった。

もちろん、ネットを通じての簡易な鑑定などもあったようだけど、父さんは、やるからには精確を期したいと、知り合いのつてを頼った。
最寄りの駅から電車で片道二時間ほどかかる場所にある、大学病院に依頼することにしたのだ。

大地は親子鑑定をあっさり承諾しただけあって、父さんと二人、話がでた日の翌週末には、鑑定を受けに行ってしまった。
……結果は、二週間後に出るという。

「僕よりまいさんのほうが、鑑定結果、気にしてるよね」

映画を観て帰る、というのを父さんへの口実にしての、何度目かの夜のドライブ中。
車窓に流れる景色を見ながら、大地がぽつりと言った。

「まいさんにしたら、僕と血が繋がってない方が良いんだよね? 最初の頃、姉弟でエッチするの嫌がってたし」
「あ、当たり前じゃない!」

つまらなそうに言う大地に、強く抗議の声をあげる。

どこの世界の人間が、自ら進んで姉弟で肉体関係もちたがるっていうのよ。あんたぐらいなものよっ。

「……あんたは、私と血が繋がっている方が良いんだ? こんな関係になっても」

厭味いやみのつもりだった。
否定して欲しくて、でてきた言葉。

───惰性で走らせた車は、目的地に着いていた。
夏には、避暑に来る人々でにぎわうリゾート地。けれども、シーズンオフのいまは、ただの奥深い山中だった。
わずかに窓を開けると、うるさいくらいに、秋の虫達の大合唱が入りこんできた。それ以外は、何も聞こえてこなかった。

エンジンを切って、助手席の大地を見る。

「うん。僕は……それでも、まいさんの弟でいたい」

嘘のない瞳。
後悔も罪悪感も、そこからは伝わってこない。
ただ愛おしむような穏やかな微笑を浮かべ、大地は私を見つめ返してきた。

そんな風に私を見て、なのに、なんて罪深い告白をするんだろう。
───ヤな奴……。

きゅっと唇をひき結ぶ。

───父さんがDNA鑑定をもちだしたことによって、気づかされたことがある。

私は……大地との血縁関係を、無意識下で否定していた。

姉弟でなければ、大地に対していだく恋情や情欲を、素直に肯定できるからだ。

でも、姉弟である以上、今まで……二十九年間生きてきたなかでの社会規範や一般的な倫理観からぬけだして、肯定的に二人の関係を受け入れることなんて、できなかった。

だからこそ私は、大地との血の繋がりを無意識のうちに否定して、その事実にふれることなく……向き合うことなく、恋愛関係を結んでいられたのかもしれない。

一緒に育つことも暮らすこともなかっただけに、たやすくそんなごまかしができたのだ……。

「でもね」

黙ったままでいる私の手を、大地が握ってきた。

───こんな気分の時に、さわらないでよ、ばか。
理性でいくら否定しても、感情が……心が、大地を求めてしまっているのが解って、つらいんだから。

「僕と同じようにまいさんが考える必要は、ないと思うよ? だから、そんな顔しないで。
……それでも僕のこと、好きでいてくれるんでしょう?」

私は大地の手のひらを返した。逆手に持ちかえて、大地を彼が背にしたシートに押さえつけ、唇を奪った。

「……っ……びっくり、した……」
「……いい歳して、カッコ悪い……」

目じりに涙がにじんだ。
……何やってんだ、私。

自分に突っ込みながら、もう一度、改めて大地にキスをした。

シートが倒されて、大地の上に馬乗りになった。
大地の頬に、しずくが落ちる。あわてて指を伸ばして、その頬をぬぐった。

「ごめん……」
「いいけど……もう終わり? せっかく、初めてまいさんの方から攻めてくれたから、ドキドキしてたのに」

大地の指が、私の目元を優しくなでた。ふふっと、いつものように大地が笑う。

「この角度で見るまいさんも、いいね。泣き顔も、すごくセクシーだし」

大地の腕が背中にまわされて、壊れものをあつかうように、そっと抱きしめられた。

「なのに……なんでだろう。胸が、苦しいよ……」

抑揚のない大地のささやきに、私はこらえきれずに泣きだした。

「───ねぇ、まいさん? 星が、すごく綺麗だよ。
まいさんのさっきの涙も、光のつぶが落ちてきたみたいで綺麗だったけど……こんなに苦しくなるなら、もう二度と、見たくないな」

やわらかく澄んだ優しい声音を聞きながら、私は、大地の肩口を涙で濡らしていた。


*****


鑑定結果は、封書で送られてくることになっていた。

「……あんたは、それ、もう読んだのね?」

ギフト包装の注文を中年女性から受けた時、視界に大地の姿が入っていた。

落ち着かない気分で作業をこなし、お客様が立ち去ったあと、話のしやすいシュークリーム売り場の渡し口へと移動したのだった。

大地は、書留で送られてきた封筒を、胸の高さに上げてみせた。

「うん。内容には全部、目を通した」
「父さんに……伝えた?」
「うん。さっき、電話したよ」
「そう……」

のどが渇いて、言葉が続かない。聞くべき結果を、訊く勇気がない。

『姉弟』であるか否かを目に見える形で表されるのを、こんなに怖いと思うなんて……。

「……その。結果は、やっぱり……?」

すみませーん、と、若い女性の声が、ケーキ売り場の方でした。

大地が、ちょっと笑った。

「《お姉さん》。お仕事、しなきゃ。
……いつも通り、待っているから」

呼びかけが、決定的だった。
私はうなずいて、大地に背を向け、仕事へと戻った。


*****


姉弟だという事実を、私は自然に受け入れていた。
考えてみれば私たちの前提は、初めから『姉弟』であったのだから……。

実感のないまま、肉体の欲望にのまれて。
恋愛の手順さえ誤って。
けれども、心はすでに、離れられないほどに繋がっていた。
それが『姉弟の絆』だというのなら、愛情の形を問うのは馬鹿げている気がした。

───あぁ、そうか。
大地。
あんたが言っていたこと、いまなら解るよ───。

自分の思いつきに自嘲的に笑って、私はロッカーの扉を閉めた。

「お先に失礼します」
「お疲れさまです。……デートですか? いいな、楽しそうで」

少し離れた位置で着替えていたバーガーショップの子が、冷やかしまじりに声をかけてきた。

私はただ笑って、お疲れさまです、と、彼女に返した。



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