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第一章 真夜中の訪問者
3.白猫が美少女だった件
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……にしてもコイツ、こんな真夜中に、何が悲しくて人ん家にあがりこんで、手品披露したりしてるんだよ。
親が知ったら、泣くぞ。
「───どうやら、おれの言っていることが信じられぬようだな」
エマはそこでニヒルに笑い、机の上に置かれた数学の教科書を取り上げた。
オレの見ている前で放り投げると、手にした剣を素早く二三度、振った。
パラパラと音を立て、数学の教科書は無惨にも紙切れと化し、カーペットの上に落ちた。
「お、お前っ、なんてことするんだっ。
オレ、オレはなぁっ、物を大切にする主義なんだぞっ!
おまけに教科書は、オレが愛読している週刊のマンガ雑誌より、定価が高いんだぞぉっ」
見事に真っ二つになった方程式やら放物線やらを思い、ひざまずいて、十字を切った。
成仏しろよ、お前たち。
しかし……それにしても。
ふざけてる場合ではない、ということに気づいたのは、両ひざをついていたオレをさげすむように見下ろすエマと、目が合った時だった。
スッとオレの鼻先に、細長い剣の切っ先が突き付けられる。
「貴様も同じような目に遭わされたくはなかろう? 正直に申せば、痛い思いはしなくて済む。……おれは気が短いぞ?」
つん、と、鼻の頭に剣先が当たる。
ひやりとした感覚が全身を駆け抜け、オレは身震いした。
息をのむ。背中を、いやな汗が伝っていく。
耳鳴りがしそうなほど辺りは静かで。
オレは、身体の内側に力をためこむようにして、目を閉じた。
意を決して、口を開く。
「知らねーものは、知らねーよ!!」
のどの奥で言いきってから、エマをにらみ上げた。
「お前さぁ、世の中は自分中心に回ってると勘違いしてないか?
てめぇの気に入らねーヤツは、殺っちまえばそれで済むと思ってるだろ。
そんな考えは、大間違いなんだよっ! なんの解決にもならないんだっ!!」
息をきらして言い終えると、興奮のあまり身を乗りだしたせいで鼻の頭に、チクッと痛みが走った。
げっ、切れた……。
くっとエマが笑いを漏らした。
剣を下ろし、唇をゆがめてオレを見る。
「言いたいことは、それだけか。
まずは、その右腕から貰おう。貴様は何処まで我慢強いかな?」
剣を両手に持ち直すと、エマは上段に構えた。
ちくしょう、なんでオレ、こんな目に遭ってるんだ!?
めちゃくちゃリアリティーのある悪夢を見ているだけじゃないのか?
ぐっと奥歯を噛みしめた。
次の瞬間、ひとつの高い声が、オレ達の間を割って入った。
「待って、エマ。あたしなら、ここにいるわ。お願い、剣を下げて!」
その声には、確かに聞き覚えがあった。
ゆうべ夢のなかで、ティアと名乗った女の子と同じだ!
じゃあ、あの夢は、オレが夢だと思いこんでいただけで、全部現実だったってことかよ……!?
驚きながらも声のした方向、ベッドの下へ目をやった。そこにはもちろん……白猫のティアがいた。
白猫は、ふうっとゆっくり、昨晩オレが見たままの白金髪のティアに変わった。
なっ……。
信じられない思いでいると、ティアがターコイズ・ブルーの瞳を悲しげに瞬かせた。
「ごめんね、君。迷惑かけて」
う、オレ、頭がおかしくなりそう……。
頭を抱えこみたくなるオレの前で、ティアはエマに向き直った。
「エマ……聞いて。あたし、あの国にいるのが苦痛なの。もう、あそこへは帰りたくないわ。
お願い、解って……」
エマは無表情のまま、ティアを見つめ返した。
それから左手を、今度は右手首までスッと移動させた。すると、剣はたちまち消え失せてしまった。
うーん、どういう仕掛けになってるんだろ。
興味津々とその手もとを見ていると、エマは小さく息をついた。
「───もっとよく、話を聞きたい。貴様を連れて帰るのは、それまで保留にしてやろう」
親が知ったら、泣くぞ。
「───どうやら、おれの言っていることが信じられぬようだな」
エマはそこでニヒルに笑い、机の上に置かれた数学の教科書を取り上げた。
オレの見ている前で放り投げると、手にした剣を素早く二三度、振った。
パラパラと音を立て、数学の教科書は無惨にも紙切れと化し、カーペットの上に落ちた。
「お、お前っ、なんてことするんだっ。
オレ、オレはなぁっ、物を大切にする主義なんだぞっ!
おまけに教科書は、オレが愛読している週刊のマンガ雑誌より、定価が高いんだぞぉっ」
見事に真っ二つになった方程式やら放物線やらを思い、ひざまずいて、十字を切った。
成仏しろよ、お前たち。
しかし……それにしても。
ふざけてる場合ではない、ということに気づいたのは、両ひざをついていたオレをさげすむように見下ろすエマと、目が合った時だった。
スッとオレの鼻先に、細長い剣の切っ先が突き付けられる。
「貴様も同じような目に遭わされたくはなかろう? 正直に申せば、痛い思いはしなくて済む。……おれは気が短いぞ?」
つん、と、鼻の頭に剣先が当たる。
ひやりとした感覚が全身を駆け抜け、オレは身震いした。
息をのむ。背中を、いやな汗が伝っていく。
耳鳴りがしそうなほど辺りは静かで。
オレは、身体の内側に力をためこむようにして、目を閉じた。
意を決して、口を開く。
「知らねーものは、知らねーよ!!」
のどの奥で言いきってから、エマをにらみ上げた。
「お前さぁ、世の中は自分中心に回ってると勘違いしてないか?
てめぇの気に入らねーヤツは、殺っちまえばそれで済むと思ってるだろ。
そんな考えは、大間違いなんだよっ! なんの解決にもならないんだっ!!」
息をきらして言い終えると、興奮のあまり身を乗りだしたせいで鼻の頭に、チクッと痛みが走った。
げっ、切れた……。
くっとエマが笑いを漏らした。
剣を下ろし、唇をゆがめてオレを見る。
「言いたいことは、それだけか。
まずは、その右腕から貰おう。貴様は何処まで我慢強いかな?」
剣を両手に持ち直すと、エマは上段に構えた。
ちくしょう、なんでオレ、こんな目に遭ってるんだ!?
めちゃくちゃリアリティーのある悪夢を見ているだけじゃないのか?
ぐっと奥歯を噛みしめた。
次の瞬間、ひとつの高い声が、オレ達の間を割って入った。
「待って、エマ。あたしなら、ここにいるわ。お願い、剣を下げて!」
その声には、確かに聞き覚えがあった。
ゆうべ夢のなかで、ティアと名乗った女の子と同じだ!
じゃあ、あの夢は、オレが夢だと思いこんでいただけで、全部現実だったってことかよ……!?
驚きながらも声のした方向、ベッドの下へ目をやった。そこにはもちろん……白猫のティアがいた。
白猫は、ふうっとゆっくり、昨晩オレが見たままの白金髪のティアに変わった。
なっ……。
信じられない思いでいると、ティアがターコイズ・ブルーの瞳を悲しげに瞬かせた。
「ごめんね、君。迷惑かけて」
う、オレ、頭がおかしくなりそう……。
頭を抱えこみたくなるオレの前で、ティアはエマに向き直った。
「エマ……聞いて。あたし、あの国にいるのが苦痛なの。もう、あそこへは帰りたくないわ。
お願い、解って……」
エマは無表情のまま、ティアを見つめ返した。
それから左手を、今度は右手首までスッと移動させた。すると、剣はたちまち消え失せてしまった。
うーん、どういう仕掛けになってるんだろ。
興味津々とその手もとを見ていると、エマは小さく息をついた。
「───もっとよく、話を聞きたい。貴様を連れて帰るのは、それまで保留にしてやろう」
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