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第二章 異世界への扉
1.ティアの噂話と金の卵
しおりを挟む知っているか……?
ダラス家の長男に仕えている、あのティアという名の娘。あやつの流す涙は“スメルムーンの涙”となるのだそうだ。
では、あのティアという娘の腹を捌けば、なかからザクザクと“スメルムーンの涙”が出てくるのだろうな。
なるほど、わざわざ涙を流させる必要もないな。
ぜひ、捌いてみたいものだな。
あぁ、ぜひ……。
ハッとして目を覚ました。
嫌な夢だな……。
額に片手を当て、天井を見つめる。
くそ、エマがあんなこと言うから、こんな夢みたんだ!
◆ ◆ ◆
カミューラとのことがあった翌日。
夕食のあと部屋に戻ったオレは、ずっと気になっていたエマ達の食事のことを尋ねた。
ティアは、
「あたし、食事ってよく分からないわ。
物を口に入れるって感覚が、よく解らないの」
と言い、エマは、
「いらぬ」
ひとことで、片付けられてしまった。
「いらぬ、じゃなくてさー、エマ。
ティアはなんとなく分かるけど、エマは宝石食うんだろ? おととい食ったきりなんじゃないか?」
「あぁ、そのことか」
立てたひざ上に肘をのせて座っていたエマは、その手でくしゃっと前髪をかきあげた。
「おれが先日食したのは、何だった?」
「サファイア、か?」
思いだしながら言うと、エマは軽くうなずいた。
「そうだ。サファイアは、スメルムーンでは特に貴重でな。ひとつぶ食すだけで、約三ヶ月は何も口にせずに済む。
ちなみに、ダイヤは『カス』だ。三日ともたない。
せいぜいもって、ひとつぶで一日だ。おまけに硬い。よってダイヤは、スメルムーンでは喜ばれない」
へぇ……。
いいなぁ、ひとつぶ食っただけで、三ヶ月ももったらさ。
あ、でもその分、食べる楽しみは減るよな。
うーん。
感心しまくっていると、エマが唇をゆがめて笑った。
「ついでだ。面白い話を聞かせてやろう」
それでオレは、妙に気が重くなった。
こんな笑い方をして、しかもエマが、面白い話だって? きっと、ろくでもない話だぜ。聞きたくないなぁ。
と思っているオレの耳に、エマは容赦なく話を吹きこんでくる。
「スメルムーンの一部住人たちの噂にのぼっているのだが───」
そこまで言い、エマはふっと口をつぐんだ。
ふい、と、ティアに視線を移す。
「今、アサクラの親父殿が、ティアを呼んでいたぞ」
「え、本当?」
窓の外を眺めていたティアが、驚いたようにこちらを振り返る。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
言うなり猫に変身し、オレにドアを開けるようにうながしてきた。
開けてやると、小さな足でトコトコと親父の部屋に歩いて行った。
「……親父、呼んでたか?」
ティアが行ったのを確認し、ドアを閉めてエマを見る。
「いや」
難しい問題を抱えたように、エマは深く息をついた。
「ティアに聞かせたくない話なのかよ?」
「あまりな。……いい内容ではない」
やっぱり、な。エマって性悪だな。
ティアに聞かせたくない話を、堂々とオレには聞かせるだなんてさ。
不愉快に思ったものの、話を聞き終えた時には、エマがティアを部屋から追いやるようにした理由に、納得がいった。
───エマの話は、こうだった。
「先程も言ったが、これは噂であって、事実ではないのだ。が、噂が噂を呼び、人々の間で、それは真実となってしまった。
その噂とは───ティアの腹を裂くと、中から“スメルムーンの涙”が山ほど出てくる……そんな内容だ」
「なんだよ、それ!」
思わずエマに怒鳴ってしまった。
言ったあと、例によってエマからにらまれてしまったけど、そんなの無視だ。
だって、腹切ってなかから宝石が出てくるなんて、そんなバカなこと、どうして思いつくんだよ!?
金の卵を産む鶏の腹を切ったら、金の卵が出てくるだろうって考えた奴と、一緒じゃないか。
ティアが聞いたら、卒倒するよ。
自分の腹を切ったら、宝石が出てくると思っているヤツがいると思うと、ゾッとするもんな。
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