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第三章 奪われた未来

15.ユーヤとの対峙

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その言い方に気分を害しながらも、オレは一応、うなずいた。

後ろに飛び退いて、そのまま腰をかがめる。
それから、パチンと指を鳴らした。

ふっ……と、床に現れたスメルムーンの剣に感心した。

本当に、すげー仕組みだな。

鞘を払いながら、思わずつぶやいてしまう。

引き抜いたそばから、刀身に、月の光のような輝きが浮かぶ。

立ち上がって、剣を両手に持ち、目の前で構えてみた。

なれ親しんだバットよりも随分と重いけど、そうすると、バッターボックスに立った時の緊張感が思いだされた。

同点で迎えた九回裏、ツーアウトランナーなし。

カウント、ツーストライク、スリーボール。

自分が置かれた状況は、いま、そんな気分。

無心で、次に投げ込まれるボールに、食らいつくのみ。

やってやるぜ!
……と、気分が高揚していくオレの前で、ユーヤもおもむろに立ち上がり、右腕を振った。

予想通り、ユーヤの手に剣が握られている。

「君の───」

自分の剣を確認したあと、ユーヤがオレのもつスメルムーンの剣に目を止めた。

「君が持っているのは……スメルムーンの剣だな。
どこで、手に入れたのかな?」

口調は落ち着いていたけど、軽く伏せられたまつげが、かすかに震えていた。

なんだろ……この動揺のわけって……。

不審には思ったけど、オレはつっけんどんに応えた。

「そんなこと、どうでもいいだろ」
「そうだな」

あっさりとしたユーヤの受け応えに、眉を上げた。

こいつって、淡白だな。

「では、始めようか」

無駄のない動きで、ユーヤが剣を構える。

う、なんか、かなりやりそう……。

ジリジリとユーヤとの間合いを計りながら、内心オレは焦っていた。

そういえば、エマが言ってたよな、ユーヤは凄腕だって。

───あれ?
いままでユーヤと会えたことに驚いて忘れてたけど、エマやギルは、どうしたんだろう……。

確か……ユーヤが最初、岩石の仕掛けがどうとか、言ってたよな。

エマ達は、そのせいでオレとは違う場所にいるんだろうか……?

そんなことを思った瞬間、ユーヤの剣が、斜めにオレを襲った。

わっ……。
はらり、と、一房、オレの前髪が床に落ちた。

息をのんで、オレはユーヤを見返した。
目もとがかすかに笑っている。

───あいさつってコトかよ……。

くそっ。
いまはエマ達を心配するより、自分の身の心配だなっ。

舌打ちして、剣を横に寝かせて、ユーヤを一刀両断!

……してはみたけど、ユーヤは軽々とそれを飛び越え、ついでに、振り上げた剣を、オレに向かって叩き下ろしてきた。

うわっ……。

キン、と、初めて部屋に、金属音が響く。

ユーヤの剣を受け止めたオレの剣が、押される。

なんのっ、とばかりに力を込め返し、互いの剣を挟んで、至近距離でユーヤとにらみ合った。

とたん、ユーヤは剣に込めた力を、ふっと抜き、後ろに飛び退いた。

バランスをくずされたオレは、ふらつきながら、息を吐く。

体勢立て直しだな……。
ユーヤを視線で牽制する。

───ってぇ……。

身体中の関節がギシギシ痛み、無意識のうちに、口からうめき声が出てしまった。

こりゃ、どこかにぶつけたんだな。

つっ……と、脂汗が鼻筋を伝う。

ユーヤはかなりの腕をもつようだけど、オレときたらあちこち痛めているうえに、剣の扱いにあまり慣れていない。

やっぱ、バットを持つようにはいかないよな。

ユーヤの動きを窺いながら、そんな弱気が胸のうちに宿った自分に、苦笑いした。

───馬鹿か、オレは。
そんなの、百も承知でここに来たはずだろ?

自分のできる限りで、最善を尽くす。
それが、オレの当たり前だろーがっ……!

すっ……と。ユーヤがこちらに足を踏みだし、剣を振る。
それは、オレの頬の辺りをかすめた。

避けたつもりが避けきれず、左の頬から生暖かいものが流れ落ちる。

他の部分がひどく痛むせいか、痛みはあまりないけど……これって、血、だよな?

ぞくっとした。

オレ、自分が刃物を握っているっていう自覚が、あまりなかったんだな。

ごく当たり前のことに、いまさら驚いてるなんて。

オレが手にしている物は、まぎれもなく武器で、人を傷つけることも殺すことも可能なんだって、やっと心の底から理解できたんだ。

自分が傷つけられてから気づくなんて、オレってまぬけ……。

そうあざわらっている間にも、ユーヤとの剣のやり取りは続いていた。

なんとかスメルムーンの剣でかわしはしたけど、こっちから攻撃にうっては出られなかった。

今頃になって、疲れが足にでてくる。

やばっ……。

ふらつきかけたオレを、ユーヤが見逃してくれるはずがなかった。

直後、左腕に衝撃を受けた。

くっ……!



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