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番外編『夜光華の回想』──エマ視点──
3.本気にしたの?
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そう……やっぱり、そうだったのね。
まさかとは思っていたのよ、私も。異常に二人とも、仲が良かったし。
おまけにユーヤは、スメルムーンでは、一、二を争う美形だし。
信教の自由度が周辺国よりゆるいから、男色家も相当数いるのがこの国の実情。
ユーヤがそうであっても、不思議はないのかもしれない。
──だけどっ。
こんな話、挙式を目前に控えた花嫁が聞くものじゃないと思うわ、ホント。
「ジーク……結婚しても、俺のこと忘れないでくれよ」
「当たり前だろ。誰が忘れるものか。忘れたくても、忘れられねーよ」
そっ……。
私は言葉を失って、その場に座りこんでしまった。
……そこは、ジークには、絶対に否定して欲しかったのに……。
あまりにも無情なジークの肯定に、身体中から力が抜けてしまっていた。
と、そこへ、キィ……と、ドアが開いた。
「あ、やっぱりいたんだ」
笑い含みな声と共に、部屋のなかからユーヤが私をのぞきこんできた。
私はビクッとして腰を浮かし、後ろへとのけぞってしまった。
「やだな、エマ。本気にしたの?」
くすくすと笑うユーヤの向こう、椅子から立ち上がりもせずに、ジークが言った。
「ったく……誰が忘れるかってんだ。
人が一世一代の王位引き継ぎをやった夜に、こんなくだらないコトをやらせる奴のことなんかっ」
私は、ジークの言葉とユーヤのニコニコ顔に、自分がからかわれていたことに、ようやく気がついた。
反射的に立ち上がって、二人に向かって怒鳴る。
「ひどっ……! こんな手の込んだ、芝居なんかして!」
「ごめん、ごめん。そろそろエマが来る頃だと思ってさ。
まさか、本気にするとは思わなかったよ」
ユーヤの声の調子が高い。
……酔ってるわね。
「そうそう。ひっかかったお前が悪いっ」
ワイングラス片手に、ジークはテーブルに頬づえをついている。
……こっちのほうが、重症ね。
「二人とも、かなり呑んでるでしょ!」
ジークのお酒の強さは並みだけど、ユーヤは顔に似合わず酒豪だ。
酔ってることが私に分かるくらいだもの、呑みすぎてるに違いない。
部屋を見渡せば、空になったビンが、あちらこちらに散らかっている。
男って、嫌ね。
片付けようとも思わないのかしら。
仕方なく、それらを片付け始めたとき、ユーヤが思いだしたように言った。
「そうだ。エマ、君も一杯、呑むだろ?」
「え? ……そうね。いただくわ」
一瞬、この有り様を見て、ためらったけど、ま、お祝いだしね。
「じゃ、もう一度、仕切り直し」
三つのグラスにユーヤがワインを注ぐ。
私は、こっそりジークを見た。
ユーヤはともかく、ジークは呑みすぎてるような気が、するんだけど……。
ふと、ジークと目が合う。
べ、と、ジークが舌を出す。
「そんなに酔ってねーよ」
なによ、分かってるんじゃない。
こっちも負けずに、いーだ、と、顔をしかめてみせた。
そんな私たちのやり取りに、ユーヤが笑いながらグラスを掲げた。
「ジークの王位継承の儀式成功に」
三つのグラスが小気味よい音を立てて、かち合う。
「乾杯!」
三人の声も重なり合い、私たちは笑みを交わした。
「水を差すようだけど」
グラスに口をつける前に口をひらいた私を、彼らが同時に見た。
「これ呑んだら、お開きよ。もう、これ以上、呑んじゃダメ」
ぴしゃりと言いきると、ユーヤがククッと笑った。
「こりゃジークは尻に敷かれるよ」
「……るせぇっ」
ジークはユーヤににらみを利かせると、そのままグラスを呷った。
「ちょっ……言ってるそばから、そういう呑み方」
しないでよね、と、つなげるつもりだった私の言葉は、一瞬後のジークの不自然な動きに、さえぎられた。
「これ……!」
言いかけたジークが、そこでむせ返る。
「ジーク?」
眉を寄せて、彼を見つめた。
ガシャン、と、派手な音を立て、ジークの持っていたグラスが床へと落ちた。
激しく咳き込みながら、ジークは胸の辺りをかきむしる。
「───飲むなっ……!」
お腹の底から絞りだすような声で言って、テーブルの上のワインが半分以上残っていたビンを、片手で払った。
ガラスの破片が、床を跳ねる。
「ジーク!」
手にしたグラスを投げ捨て、ジークの側にかけ寄った。
まさかとは思っていたのよ、私も。異常に二人とも、仲が良かったし。
おまけにユーヤは、スメルムーンでは、一、二を争う美形だし。
信教の自由度が周辺国よりゆるいから、男色家も相当数いるのがこの国の実情。
ユーヤがそうであっても、不思議はないのかもしれない。
──だけどっ。
こんな話、挙式を目前に控えた花嫁が聞くものじゃないと思うわ、ホント。
「ジーク……結婚しても、俺のこと忘れないでくれよ」
「当たり前だろ。誰が忘れるものか。忘れたくても、忘れられねーよ」
そっ……。
私は言葉を失って、その場に座りこんでしまった。
……そこは、ジークには、絶対に否定して欲しかったのに……。
あまりにも無情なジークの肯定に、身体中から力が抜けてしまっていた。
と、そこへ、キィ……と、ドアが開いた。
「あ、やっぱりいたんだ」
笑い含みな声と共に、部屋のなかからユーヤが私をのぞきこんできた。
私はビクッとして腰を浮かし、後ろへとのけぞってしまった。
「やだな、エマ。本気にしたの?」
くすくすと笑うユーヤの向こう、椅子から立ち上がりもせずに、ジークが言った。
「ったく……誰が忘れるかってんだ。
人が一世一代の王位引き継ぎをやった夜に、こんなくだらないコトをやらせる奴のことなんかっ」
私は、ジークの言葉とユーヤのニコニコ顔に、自分がからかわれていたことに、ようやく気がついた。
反射的に立ち上がって、二人に向かって怒鳴る。
「ひどっ……! こんな手の込んだ、芝居なんかして!」
「ごめん、ごめん。そろそろエマが来る頃だと思ってさ。
まさか、本気にするとは思わなかったよ」
ユーヤの声の調子が高い。
……酔ってるわね。
「そうそう。ひっかかったお前が悪いっ」
ワイングラス片手に、ジークはテーブルに頬づえをついている。
……こっちのほうが、重症ね。
「二人とも、かなり呑んでるでしょ!」
ジークのお酒の強さは並みだけど、ユーヤは顔に似合わず酒豪だ。
酔ってることが私に分かるくらいだもの、呑みすぎてるに違いない。
部屋を見渡せば、空になったビンが、あちらこちらに散らかっている。
男って、嫌ね。
片付けようとも思わないのかしら。
仕方なく、それらを片付け始めたとき、ユーヤが思いだしたように言った。
「そうだ。エマ、君も一杯、呑むだろ?」
「え? ……そうね。いただくわ」
一瞬、この有り様を見て、ためらったけど、ま、お祝いだしね。
「じゃ、もう一度、仕切り直し」
三つのグラスにユーヤがワインを注ぐ。
私は、こっそりジークを見た。
ユーヤはともかく、ジークは呑みすぎてるような気が、するんだけど……。
ふと、ジークと目が合う。
べ、と、ジークが舌を出す。
「そんなに酔ってねーよ」
なによ、分かってるんじゃない。
こっちも負けずに、いーだ、と、顔をしかめてみせた。
そんな私たちのやり取りに、ユーヤが笑いながらグラスを掲げた。
「ジークの王位継承の儀式成功に」
三つのグラスが小気味よい音を立てて、かち合う。
「乾杯!」
三人の声も重なり合い、私たちは笑みを交わした。
「水を差すようだけど」
グラスに口をつける前に口をひらいた私を、彼らが同時に見た。
「これ呑んだら、お開きよ。もう、これ以上、呑んじゃダメ」
ぴしゃりと言いきると、ユーヤがククッと笑った。
「こりゃジークは尻に敷かれるよ」
「……るせぇっ」
ジークはユーヤににらみを利かせると、そのままグラスを呷った。
「ちょっ……言ってるそばから、そういう呑み方」
しないでよね、と、つなげるつもりだった私の言葉は、一瞬後のジークの不自然な動きに、さえぎられた。
「これ……!」
言いかけたジークが、そこでむせ返る。
「ジーク?」
眉を寄せて、彼を見つめた。
ガシャン、と、派手な音を立て、ジークの持っていたグラスが床へと落ちた。
激しく咳き込みながら、ジークは胸の辺りをかきむしる。
「───飲むなっ……!」
お腹の底から絞りだすような声で言って、テーブルの上のワインが半分以上残っていたビンを、片手で払った。
ガラスの破片が、床を跳ねる。
「ジーク!」
手にしたグラスを投げ捨て、ジークの側にかけ寄った。
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