「錬金術師の母、異世界育児日記」

第2話: 「錬金術でご飯を作ろう！」

異世界に転生してから数日が経った。
リナ――今はエレナとして生きる彼女は、徐々にこの世界での生活に慣れ始めていた。しかし、母親としての役割にはまだ不安を抱えていた。3人の子供、フィン、カリーナ、そしてルーカスを守り、育てるという責任は、科学者だった彼女にとってあまりに重いものだったからだ。
「さて、今日も頑張らないとね……」
彼女は朝早く目を覚ますと、薄明かりの差し込むキッチンに立った。前世では朝食など手早く済ませ、仕事に向かうのが常だった。しかし、この世界では一日の始まりがとても大切だ。子供たちの健康を考えた食事を用意しなければならないというプレッシャーがリナにのしかかる。
「エレナの記憶を頼りにするしかないか……」
エレナとしての記憶は少しずつリナに馴染んできていた。錬金術師であるエレナは、基本的な料理や生活に関する知識を持っていた。しかし、リナ自身が料理に長けているわけではなく、現代の科学者としては即席食品や栄養ドリンクに頼る生活をしていた。ここにはそんな便利なものは存在しない。
「フィン、カリーナ、ルーカス……」
彼らの無邪気な顔が脳裏に浮かぶたびに、リナは心の中で決意を新たにした。自分がこの子供たちを守り、育てなければならないのだ、と。

リナはキッチンの棚を開けて、エレナの遺した食材を見渡した。見たこともない野菜や果物が並んでいる。リナはため息をつきながら、一つ一つ手に取って確認する。
「この世界の食材は……何が栄養になるのか、全然分からないわね。」
そこで、リナはふと思いついた。錬金術と現代科学の知識を融合させることで、この世界の食材の栄養素を分析できるかもしれない。彼女は急いで研究室――錬金術の作業場に足を運び、錬金術の道具を取り出した。
「まずは基本の錬金術から。エレナの記憶を活用して、食材の分析を試みましょう。」
リナは、エレナの知識に基づいた錬金術を使い、いくつかの野菜と果物を魔法のように細かく分解していった。錬金術の知識だけでは曖昧だった情報も、リナの科学的な視点で分析することでより正確なデータを得ることができた。
「これで、この食材がどれだけ栄養豊富なのか分かる。」
リナは満足げに頷き、子供たちに栄養のバランスが取れた朝食を作るための計画を立て始めた。

その頃、フィンとカリーナはリナが朝食の準備をしている間、リビングで遊んでいた。フィンはリナのことを「ママ」として受け入れていたが、どこか以前とは違う様子に気づいていた。
「ねぇ、カリーナ。ママ、最近ちょっと変わったと思わない？」
カリーナは小さく頷いた。
「うん。前はもっとお疲れの顔してたけど、今は少し元気になった気がする。でも、なんか……ママがママじゃないみたい。」
フィンもその違和感を感じていたが、それが何なのかは分からなかった。ただ、一つだけ言えることは、彼らがどんなに心配しても、リナ――彼らの母親は自分たちのために一生懸命頑張っているということだった。

キッチンでリナが料理に奮闘している頃、次男のルーカスが目を覚ました。まだ幼い彼は、寝ぼけ眼でリナの元へやってきて、彼女の足にしがみついた。
「ママ……お腹すいた……」
リナは笑顔でルーカスの頭を撫でた。
「もうすぐご飯ができるから、もうちょっと待ってね。」
ルーカスの無邪気な笑顔を見て、リナの心の中にある「母親としての不安」は少しだけ和らいだ。自分がどんなに不安でも、この子供たちの笑顔を見ると、それが報われるような気がする。

しばらくして、リナはついに朝食を完成させた。錬金術を駆使して栄養バランスを整えた食材を使い、シンプルだが美味しそうな料理が並んでいる。彼女は子供たちを呼んでテーブルに着かせた。
「さあ、みんな。今日の朝ご飯よ。」
フィン、カリーナ、そしてルーカスは一斉に歓声を上げた。フィンが最初にフォークを手に取り、料理を一口食べた。
「……美味しい！」
その一言に、リナの胸はじんと熱くなった。彼女はまだ「完璧な母親」ではないかもしれないが、こうして少しずつ母親らしくなっていくことができるのだと、希望を抱くことができた。

食事が終わった後、リナは錬金術師としての仕事を再開する準備を始めた。エレナとしての役割は、村の人々のために薬や道具を作ること。リナは前世の知識を活かし、現代科学の技術を応用した新しい錬金術の開発を試みようとしていた。
「今日はどんな実験をしようかしら……」
彼女は小さな笑みを浮かべながら、研究室に向かった。