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「ただいま帰りましたわお父様、お母様。お兄様方、お姉様方。」
リリアナは卒業パーティーが終わり、せめて今日だけでも泊まらないかと誘うティンゼル国王を無視して、一晩中馬車を走らせ、翌朝八時にルディスラ帝国皇宮に着いた。
「ああ、リリアナ。お帰り。サーシャから話は聞いた。」
到着し、馬車から降りて優雅なカーテシーをするリリアナを皇帝アイザック・フィルア・ルディスラは優しく抱きしめた。
「まあ、どのようなお話ですか?」
リリアナは嫌な予感がしながらも父に尋ねた。
「はは、それはリリアナも分かっているだろう。昨日の卒業パーティーであんの馬鹿王子・・・ゴホン、お頭の弱い廃嫡王子が真実の愛とかほざいて婚約破棄した件についてだ。」
「ご存じだったのですね。」
リリアナが苦笑する。
「当然だ。昨日夜中に帰って来たサーシャが血相変えて報告してくれたよ。」
「サーシャから話を聞いたということは私が国王に出した条件はご存じですよね?」
「ああ、一通りな。」
後ろに控えていた第一皇子シスム・フィルア・ルディスラが、昨日サーシャから報告された内容がまとめてあると思われる紙をアイザックに手渡す。
「同盟破棄にならないように私にリリアナが口添えする。その代わり、お頭の弱い廃嫡王子を平民にしないことを約束せよ。・・・だったか?」
「ご存じならば話が速いですわ。同盟が破棄にだけはならないようにしてくださいね、お父様。」
「破棄にしてはいけないということはわかった。だがこちらに何も旨味がないな。」
渋るアイザックにリリアナは悪戯っ子のような笑みを向けた。
「その点はご安心ください。相手方は同盟破棄にさえならなければいいと言ってきたのです。つまり不公平な取引でも飲んでくださるということでしょう?」
「リリアナはずる賢いな。」
「頭が良いと言ってくださる?」
長兄シオンの言葉にリリアナは頬を膨らませて抗議した。
「それで、だ。平民にしないで欲しいと言った理由は?夢見が悪いだなんて理由になってない。」
アイザックが尋ねた。
「秘密、ですわ。敵をだますにはまず味方からというではありませんか。」
リリアナはふんわりと笑うとはぐらかす。
「そんな言葉どこで覚えたんだ?」
「私の友人の中に東の国から来ている令嬢がいましたの。その方に教えてもらいましたわ。」
「ちなみに名前は?」
シスムが興味津々に尋ねる。
「フィネ・レイエス伯爵令嬢ですわ。」
「レイエス伯爵家ね。知ってるよ。兄君のレイは皇宮で文官として働いているし。会うことはあると思うよ。」
シスムが納得したようにうなづいた。
「フィネさんったら将来はここで侍女として働きたいと言っていたのですわ。冗談ですわよね。遠く離れた東の国の伯爵家令嬢が大国とはいえど遠く離れた国に来るだなんて。」
リリアナは笑い飛ばす。
しかしシスムは真剣な表情で言った。
「もしかしたら本当に来るかもよ。その遠く離れた国に兄のレイが来ているんだから。」
リリアナは何も言えなかった。
そして、シスムの予想が的中していたことを知ったのは一週間後だった。
リリアナの新しい侍女の面接にフィネが来ていたのだ。
「では、次の方入ってください。」
リリアナ付きの侍女長アリスが促す。
「失礼します!」
今までの面接者とは違く、まったく緊張していない元気いっぱいの声でフィネは入室した。
「フィネ!?」
入って来た黒髪黒目のドレスを着たフィネ・レイエスにリリアナは驚き、声をあげた。
「リリアナ様、お知合いですか?」
リリアナの横に座っているアリスが尋ねた。
「ええ、学園でお友達だったのよ。」
「そうなのですね。」
うなづいたアリスはフィネを見た。
「それでは、まずは自己紹介をお願いします。」
「私はフィネ・レイエスと申します。東国アスタリカ皇国のレイエス伯爵家の長女です。母、父、兄、そして私の四人家族です。」
「次にどうしてリリアナ様の侍女になりたいのか、志望理由を教えてください。」
「私の家は貧乏で、兄は学園を卒業するやいなやお金を稼ぐために帝国の皇宮で働き始めました。兄は月に一度帰ってきて、その時に毎回皇宮での日々を話してくれるのです。私はその話を聞くたびになんて素晴らしい場所なんだろうと憧れを抱きました。最初はただ皇宮で侍女になる、それが目標でした。けれど、兄が貯めたお金で学園に入った私はそこでリリアナ様に出会いました。とても優しく、友達思いで、どんな身分の方にも分け隔てなく接するところにとても惹かれました。そして学園で学ぶうちに、侍女になるならリリアナ様の侍女がいい、と思うようになりました。そして、今回貴族令嬢限定で募集しているのを見て、応募しました!」
「とても素晴らしい志望理由ですね。では次に自分の長所だと思うことを教えてください。」
「はい!私の長所は元気なところ、一つのことに集中して取り組むこと、我慢強いことです。」
「最後の質問です。フィネさん、あなたはリリアナ様に何を望みますか?」
この質問が合否を分けると言っても過言ではない。
「私は、私はリリアナ様に侍女として平均的な部屋、家具、そしてお給料を望みます。あとは、リリアナ様の幸せを望みます。」
フィネは元気よく言う。
「面接はこれで終了です。合否は後程お知らせいたしますので控室でしばらくお待ちください。」
アリスが言うとフィネはばッと頭を下げた。
「面接ありがとうございました!失礼しました!」
フィネが元気よく言って体質する。
それからあと三人面接して、最後に誰にするかリリアナとその侍女たちで話し合う。
「一番やる気と熱意を感じたのはフィネさんでした。」
アリスが言う。
すると他の侍女たちもうんうんとうなづく。
「ほかの方は受かることだけを考えているみたいですね。リリアナ様に気に入ってもらおうと無欲なふりをしていましたね。それと比べればフィネさんはちゃんと自分の要望を伝えることができた。高く評価してよいと思います。」
アリスは黙って聞いていたリリアナに言う。
「ええ、アリスの言う通りに。では、今回雇用するのがフィネでよろしいかしら?異議のある方は挙手してくださる?」
リリアナが全員に問う。
全員首を振ってフィネ雇用案に賛成を示した。
「それでは、皆さまに伝えてまいりますね。」
アリスは席をたつと、控室で待っているフィネ達のもとに行った。
リリアナは卒業パーティーが終わり、せめて今日だけでも泊まらないかと誘うティンゼル国王を無視して、一晩中馬車を走らせ、翌朝八時にルディスラ帝国皇宮に着いた。
「ああ、リリアナ。お帰り。サーシャから話は聞いた。」
到着し、馬車から降りて優雅なカーテシーをするリリアナを皇帝アイザック・フィルア・ルディスラは優しく抱きしめた。
「まあ、どのようなお話ですか?」
リリアナは嫌な予感がしながらも父に尋ねた。
「はは、それはリリアナも分かっているだろう。昨日の卒業パーティーであんの馬鹿王子・・・ゴホン、お頭の弱い廃嫡王子が真実の愛とかほざいて婚約破棄した件についてだ。」
「ご存じだったのですね。」
リリアナが苦笑する。
「当然だ。昨日夜中に帰って来たサーシャが血相変えて報告してくれたよ。」
「サーシャから話を聞いたということは私が国王に出した条件はご存じですよね?」
「ああ、一通りな。」
後ろに控えていた第一皇子シスム・フィルア・ルディスラが、昨日サーシャから報告された内容がまとめてあると思われる紙をアイザックに手渡す。
「同盟破棄にならないように私にリリアナが口添えする。その代わり、お頭の弱い廃嫡王子を平民にしないことを約束せよ。・・・だったか?」
「ご存じならば話が速いですわ。同盟が破棄にだけはならないようにしてくださいね、お父様。」
「破棄にしてはいけないということはわかった。だがこちらに何も旨味がないな。」
渋るアイザックにリリアナは悪戯っ子のような笑みを向けた。
「その点はご安心ください。相手方は同盟破棄にさえならなければいいと言ってきたのです。つまり不公平な取引でも飲んでくださるということでしょう?」
「リリアナはずる賢いな。」
「頭が良いと言ってくださる?」
長兄シオンの言葉にリリアナは頬を膨らませて抗議した。
「それで、だ。平民にしないで欲しいと言った理由は?夢見が悪いだなんて理由になってない。」
アイザックが尋ねた。
「秘密、ですわ。敵をだますにはまず味方からというではありませんか。」
リリアナはふんわりと笑うとはぐらかす。
「そんな言葉どこで覚えたんだ?」
「私の友人の中に東の国から来ている令嬢がいましたの。その方に教えてもらいましたわ。」
「ちなみに名前は?」
シスムが興味津々に尋ねる。
「フィネ・レイエス伯爵令嬢ですわ。」
「レイエス伯爵家ね。知ってるよ。兄君のレイは皇宮で文官として働いているし。会うことはあると思うよ。」
シスムが納得したようにうなづいた。
「フィネさんったら将来はここで侍女として働きたいと言っていたのですわ。冗談ですわよね。遠く離れた東の国の伯爵家令嬢が大国とはいえど遠く離れた国に来るだなんて。」
リリアナは笑い飛ばす。
しかしシスムは真剣な表情で言った。
「もしかしたら本当に来るかもよ。その遠く離れた国に兄のレイが来ているんだから。」
リリアナは何も言えなかった。
そして、シスムの予想が的中していたことを知ったのは一週間後だった。
リリアナの新しい侍女の面接にフィネが来ていたのだ。
「では、次の方入ってください。」
リリアナ付きの侍女長アリスが促す。
「失礼します!」
今までの面接者とは違く、まったく緊張していない元気いっぱいの声でフィネは入室した。
「フィネ!?」
入って来た黒髪黒目のドレスを着たフィネ・レイエスにリリアナは驚き、声をあげた。
「リリアナ様、お知合いですか?」
リリアナの横に座っているアリスが尋ねた。
「ええ、学園でお友達だったのよ。」
「そうなのですね。」
うなづいたアリスはフィネを見た。
「それでは、まずは自己紹介をお願いします。」
「私はフィネ・レイエスと申します。東国アスタリカ皇国のレイエス伯爵家の長女です。母、父、兄、そして私の四人家族です。」
「次にどうしてリリアナ様の侍女になりたいのか、志望理由を教えてください。」
「私の家は貧乏で、兄は学園を卒業するやいなやお金を稼ぐために帝国の皇宮で働き始めました。兄は月に一度帰ってきて、その時に毎回皇宮での日々を話してくれるのです。私はその話を聞くたびになんて素晴らしい場所なんだろうと憧れを抱きました。最初はただ皇宮で侍女になる、それが目標でした。けれど、兄が貯めたお金で学園に入った私はそこでリリアナ様に出会いました。とても優しく、友達思いで、どんな身分の方にも分け隔てなく接するところにとても惹かれました。そして学園で学ぶうちに、侍女になるならリリアナ様の侍女がいい、と思うようになりました。そして、今回貴族令嬢限定で募集しているのを見て、応募しました!」
「とても素晴らしい志望理由ですね。では次に自分の長所だと思うことを教えてください。」
「はい!私の長所は元気なところ、一つのことに集中して取り組むこと、我慢強いことです。」
「最後の質問です。フィネさん、あなたはリリアナ様に何を望みますか?」
この質問が合否を分けると言っても過言ではない。
「私は、私はリリアナ様に侍女として平均的な部屋、家具、そしてお給料を望みます。あとは、リリアナ様の幸せを望みます。」
フィネは元気よく言う。
「面接はこれで終了です。合否は後程お知らせいたしますので控室でしばらくお待ちください。」
アリスが言うとフィネはばッと頭を下げた。
「面接ありがとうございました!失礼しました!」
フィネが元気よく言って体質する。
それからあと三人面接して、最後に誰にするかリリアナとその侍女たちで話し合う。
「一番やる気と熱意を感じたのはフィネさんでした。」
アリスが言う。
すると他の侍女たちもうんうんとうなづく。
「ほかの方は受かることだけを考えているみたいですね。リリアナ様に気に入ってもらおうと無欲なふりをしていましたね。それと比べればフィネさんはちゃんと自分の要望を伝えることができた。高く評価してよいと思います。」
アリスは黙って聞いていたリリアナに言う。
「ええ、アリスの言う通りに。では、今回雇用するのがフィネでよろしいかしら?異議のある方は挙手してくださる?」
リリアナが全員に問う。
全員首を振ってフィネ雇用案に賛成を示した。
「それでは、皆さまに伝えてまいりますね。」
アリスは席をたつと、控室で待っているフィネ達のもとに行った。
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