真実の愛を見つけたから婚約破棄をしたい?どうぞご自由になさってください。ところで公爵様、どうして私にかまうんですか?

ルー

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「初めまして、今日からリリアナ様にお仕えするフィネ・レイエスと申します。」

面接から一週間が経過し、最初の勤務日を迎えたフィネは主であるリリアナ、そして上司となる侍女長アリス、先輩となる侍女たちに頭を下げた。

「久しぶりね、フィネさん。いえ、ここではフィネと呼ぶわ。これからよろしくお願いするわ。」

「はい!リリアナ様!」

リリアナが言うとフィネは大きくうなづいた。

「侍女長様、なんともお淑やかさに欠ける子ですね。」

その後ろで一人の侍女がアリスにそう耳打ちした。

「あら、リズベットあなたもそうだったじゃない。フィネに限った話ではないわ。それにフィネのそういう所も私は好きよ。」

しっかりと声が聞こえていたリリアナは半身で振り返って言う。

「リリアナ様!そ、そんな好きだなんて!」

フィネは感激したように手で口を覆う。

「そ、そうでした。申し訳ございませんでした、リリアナ様、フィネさん。」

一方の侍女リズベットは以前の自分を思い出し、恥ずかしい思いに震えていた。

「フィネ、これだけは言っておくわ。ここで働くためにはまずこれを知っていて欲しいの。」

リリアナはフィネを見つめる。

「はい、何でしょうか?」

「ここで働いている子たちはみんながみんな貴族というわけではないのよ。」

リリアナの言葉にフィネは目を丸くする。

「え、でも皆さんとっても綺麗な所作です。平民には見えません。」

「ええ、そうでしょう。皆私に仕えるにふさわしい所作を独学で身に着けたのよ。私は別にいいと言っているのに。」

リリアナは振り返るとリズベットを手招きする。

「リズベットなんてその筆頭よ。平民出身でありながら貴族令嬢さながらの所作を半年で身に着けたのよ。さすがの私も驚いたわね。」

「そ、それは!リリアナ様の侍女として、リリアナ様の名を落とさないようにするためです。侍女が教育できているかどうか、それはすべて主であるリリアナ様の責任になってしまうのです。私のせいでリリアナ様が良縁を掴めなかったらと思うと心苦しくて。」

一般的に一国の姫の縁談を破談にしたら心苦しいではすまなくなる。

リズベットは恥ずかしそうに言った。

その様子をフィネはじ~っと見ていた。















「フィネさん、フィネさん。聞いてる?」

リリアナ専属の侍女と一口に言ってもその中には階級がある。

当然ながらそこに貴族だ、平民だという隔たりはないわけで。

侍女長含む上級侍女五名がリリアナの身の回りの世話をする。

中級侍女七名はリリアナが部屋にいない時間帯に部屋の掃除をする。

フィネを含む下級侍女九名はリリアナが住まう秋の宮全体を掃除する。

リリアナの部屋から退室したフィネと同僚となった先輩侍女リズベットは秋の宮の廊下を掃除道具を持って歩いていた。

「あ、ごめんなさいリズベットさん。聞いてませんでした。」

フィネは素直にリズベットに謝る。

「ほんと、フィネさんって素直だよね~。まあ、そういう所、貴族らしくないけど、侍女として勤めるならその性格は長所と言ってもいいと思う。」

リズベットの言葉にフィネはぱあっと笑顔になる。

「ほんとですか!?」

「その口調も。フィネさんって本当に貴族だったのか疑わせる言動が多いよね。」

「そう・・・ですか?あんまり意識したことはないです。私の祖国はそういうマナーにはあまりうるさくない国だったんです。」

「いい国なんですね。」

ふとフィネが立ち止まった。

「フィネさん?」

「あの、お願いがあって・・・。」

フィネがおずおずと言う。

「なんですか?」

振り返ったリズベットは首を傾げる。

「二つ・・・ほど。その、よかったら私に所作を教えてくれませんか!」

フィネは周りに響き渡る大声で言った。

何事かとリリアナの護衛騎士サーシャがやって来る。

「あ、サーシャ様。」

「今、リリアナ様は本を読んでいらっしゃいます。邪魔にならないよう小声で話してください。」

サーシャが来たことに気づいたリズベットは慌てて頭を下げる。

リズベットにならってフィネも頭を下げた。

「すみませんでした。」

「以後気をつければそれでいいです。」

サーシャは身をひるがえすとリリアナの部屋に戻っていく。

「それで、所作を教えて欲しいっていう話についてだけど・・・。」

「駄目・・・ですか?」

「私・・・駄目とは言ってないでしょ・・・?」

心配そうな表情をするフィネにリズベットは苦笑いをした。

「じゃ、じゃあ!」

ぱっと表情を変えたフィネにリズベットは言った。

「もちろん、可愛い後輩のお願いだもの。聞かない理由はないわ。いつにする?」

「そう・・・ですね。リズベット先輩が良ければ休憩時間とかに少しづつ・・・。」

「やる気満々ね。いいよ、それで。」

「ありがとうございます。」

フィネはペコリと頭を下げた。

「それで、もう一つって?」

「ええと、その。敬語をやめていいですか?私、あまり社交とか出たことないので敬語とか苦手なんです。それになんかちょっと・・・。」

「なんかちょっと?なぁに?」

「えっと・・・黙秘します。」

答えに詰まりフィネは黙秘を宣言した。

「ふふ、冗談だって。」

リズベットはクスクスと笑う。

「いいよ。私もその方が楽だし。じゃあ、フィネの担当のところに案内するね。」

リズベットはフィネを連れて、秋の宮のはじっこに連れて来た。

「ここって・・・?」

「ここは秋の宮の最東端のエリア『居住区』よ。リリアナ様に仕える侍女や侍従が住まうところよ。」

いくつもの扉がある。

「あなたの仕事はここの廊下を掃除すること。それが終わったら客間の掃除をするの。掃除の仕方はわかるよね?」

「はい。」

「じゃあさっき言った二つの掃除が終わったら玄関ホールに来て。お客様をお出迎えするときの作法を教えるから。」

リズベットはそう言うとその場をフィネに任せて去って行く。

「よーし、やるぞ!」

フィネは家具の埃をとり、廊下をほうきで掃き、花瓶の水を取り替えた。

廊下の掃除を終えるとフィネは客間に移動する。

客間は大体の場合建物の一階の玄関ホール付近にあることが多い。

「ええと、ここだよね・・・。」

フィネが客間に入ろうとして、そこで誰かに声をかけられた。

「そこの君、ちょっといいかな?」

玄関ホールの方から1人の貴族の男性がやって来る。

フィネはきょろきょろした後、そのまま客間に入ろうとする。

「いや、君だって。侍女の君。」

男性はフィネの腕を掴む。

「へっ!私ですか!?」

「いや、君以外にいないでしょ。」

驚くフィネに男性は呆れたような表情をした。

「リリアナ様今、部屋にいるかな?」

「えーと・・・い、いると思いますけど・・・。あなたはリリアナ様とどういう関係なんですか?」

フィネの警戒したような表情に気づいたのか男性の顔が強張った。

「え、君、もしかして僕のこと知らない?」

「はい、知るわけがないですね。私はリリアナ様一筋なので!」

自慢げに言ったフィネに男性は困惑気味に言った。

「ええと、君、この国の貴族だよね?黒髪は珍しいと思うんだけど。」

「私はアスタリカ皇国のレイエス伯爵家の娘です。」

「ああ、アスタリカ皇国の・・・。それなら知らなくても仕方がないね。」

男性は一つうなづくと自己紹介した。

「初めましてレディ、フィネ。私はアーサー・ルネ・フィオレンス。よろしくね。」

「あ、フィオレンス公爵家の現当主様!?」

今更気づきフィネは慌てて頭を下げた。

「名前と顔が一致せず誠に申し訳ありませんでした。」

「それってつまり名前は知ってるけど顔は知りませんよってことだよね。」

「・・・まさか!」

フィネはあははと笑った。

「それで、リリアナ様は今自室にいらっしゃるかな?」

気を取り直してアーサーは尋ねた。

「申し訳ありませんが、事前にお知らせ等されていますか?」

「うーん、昨日の夜侍従を通してしたはずなんだけど、伝わってなかったかな?」

「私は本日からリリアナ様にお仕えすることになった侍女ですのでそういう話は耳に入ってこないのです。ですので侍女長様に確認してまいりますので客間でお待ちください。」

一礼するとフィネは侍女長アリスの部屋がある一階の最東端に歩みを進めようとした。

「あ、待って待って。冗談だから。話はつけてないから。確認しに行かなくて結構だよ。それで、話を伝えに行ってくれるかな?」

慌ててアーサーはフィネを止めた。

「・・・私はしがない下級侍女でございますので公爵様のお言葉をお伝えすることは恐れ多いことでございますので辞退させていただきます。公爵様には必要ないかもしれませんがおひとつご忠告を。」

「・・・何かな?」

「リリアナ様はきざなセリフを言うような貴族令息が何よりも嫌いだそうですよ。」

「え・・・?」

固まったアーサーをおいて、一礼したフィネはそそくさと客間に入って行ってしまった。














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