訳アリ令嬢は家出します

ルー

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プロローグ

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ぎぃと嫌な音をたてて開いた扉を一瞥し、ハルは当主の私室に入る。
ハルのことを嫌っている父、グリーグがハルを執務室に呼ぶことはあっても私室に呼ぶことはなかった。
最後に執務室を訪れたのは半年前の春のある日だった。
そこで、ハルは、妹のアネッサと婚約者だった第二王子のランドルフに謂れのない罪で婚約破棄されたのだった。
その時のことを思いだし、かすかに痛んだ頭をふりハルは目の前のソファーでふんぞり返っている父、グリーグにカーテシーをした。
「お久しぶりです、お父様。お父様が私を呼ぶだな
 んていったい何事ですか?」
グリーグは立ったままのハルに一枚の紙を手渡した。
「!?」
その紙に目を通したハルの顔に驚きの感情がはしる。
勢いよく顔をあげたハルは、グリーグに詰め寄る。
「お父様っ!?どういうことですか?」
「なに、書いてある通りだ。お前はルッローラン男
 爵に嫁ぐことになった。あとはお前がサインすれ
 ばいい。」
グリーグはこともなげに言う。
「サインすればいいって。私はあの豚男爵に嫁ぐ気
 はありませんからね!」
目の色を変えて叫ぶハルにグリーグは冷笑する。
「さっきは、お前がサインすればいいと言ったが、
  お前がサインしなくても、この婚姻は決まったこ
 とだ。ルッローラン男爵とも話し合った上で合意
 した。お前に拒否権はない。」
ハルの目が見開かれ、唇がワナワナとふるえる。
「どうして本人がいないときに勝手に人の人生を決
 めてくれるんですか!」
「お前が怒るのを見るのは初めてだな。婚約者を奪
 われた時でさえ顔色ひとつ変えなかったお前が。
 自分の人生には真剣になるんだな。」
グリーグは下卑た笑みを浮かべた。
「とにかく、明日の朝一番にルッローラン男爵が迎
 えに来る。着替えをして部屋で待っていろ。」
「分かりました。」
これ以上反抗しても無駄だと悟ったハルは素直に頷き、頭をさげてグリーグの私室を出た。

ハルは屋敷の一番奥にあるこじんまりとした部屋に入った。
「こんな家族大嫌い。」
ハルは目の端に浮かんだ涙をハンカチでぬぐった。
部屋はこれが侯爵令嬢の住む場所かと疑うほどにほこりで汚れていた。
ただ、ベットと勉強机の二つのみが綺麗にほこりもとってあった。
ハルには専属の侍女はついていないので、自分のことは自分でやらなくてはいけなかった。
だから、ベットメイキングをしたのも、机を磨いたのもハルなのだ。
ハルは、机の上に置かれた写真立てを見た。
そこには、金髪の美しい女性が写っており、その横には、ハルとアネッサが笑顔で写っている。
ハルはその写真を寂しげに見つめた。
「もう、私たち、戻れないのかな?」
ハルは写真から目を離し、タンスの一番したの段を開けた。
ハルはそこから、平民用の簡素な服を取り出して着替えた。
ハルはタンスの側に置いてあったキャリーバッグを開き、タンスの中身をつめた。
そして全てつめ終わったハルは、タンスを閉じて、その足で窓を開いた。
ハルの部屋は一階にあるので、部屋から外に出ることなど容易なのだ。
ハルは窓枠を跨いで夕方の庭に出た。
侯爵家は財政難で門兵を雇うお金がない。
ハルはそれを利用して、開きっぱの門から侯爵邸を出て、夕方の街へと消えていった。
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