婚約破棄のお返しはお礼の手紙で

ルー

文字の大きさ
2 / 3

レイナの幸せ

しおりを挟む

こうしてひと悶着あったものの自由を手に入れたレイナは遠く離れた国に来ていた。

家を出る直前に信頼できる侍女に託した手紙の行方を思いながら、レイナは海を一望できるカフェのテラス席で紅茶を飲んでいた。

向かい側に座るのは美しい黒髪の男性。

薄い緑色の瞳が特徴的だ。

「レイナ、今、何を考えていたかあててみせようか?」

男性に視線を戻したレイナは言った。

「ええ、そうね。」

男性はくすっと笑う。

「どうせ、あの手紙について考えていたんでしょ。」

「あら、バレちゃった。」

レイナは微笑む。

「嫉妬しちゃうな。」

「手紙に嫉妬してどうするのよ。」

男性の言葉にレイナは呆れる。

不意に男性が横を向いた。

「・・・どうしたの、ユウ?」

レイナが男性、ユウの視線の先を追う。

「なにも、ないけど・・・。」

レイナは首をかしげる。

「ああ、ごめん。何でもないよ。ただ、幸せだなって思って。」

ユウは懐かしそうにレイナの顔を見る。

「もう、結婚してから一ヵ月!一ヵ月がたったのよ。」

レイナは気恥ずかし気にそっぽを向く。

「お二人さん、今日もラブラブだね。」

店の中からユウのおかわりの紅茶を持ってきた男性店員がにこやかに話しかける。

「ああ、ルイ。ありがとう。」

ユウは目の前に置かれた紅茶を一口飲む。

「それにしても聞いた?あの話。」

ルイが言う。

「あの話?」

レイナが聞き返すとルイはうなづいた。

「そっかー。レイナちゃんとユウは北区の方に住んでるからまだ知らないのか。」

そしてルイは続けて言う。

「それがね、テルラジア王国の第一王子、パトリクス・テルラジアがね、元婚約者の家に乗りこんで復縁を迫ろうとしたらしいよ。件の令嬢は侯爵家からは除籍されていて、行方知れずだって。」

「そ、それで、パトリクス殿下はどうしたの?」

レイナが身を乗り出す。

「それが、侯爵と侯爵夫人に追い返されたって。そのことがテルラジア王国の国王にばれて即幽閉確定だってさ。」

ルイはいい気味だねと言う。

レイナはどこか悲しそうな表情でうつむいた。

「あ、怖い話しちゃったね。ごめんね!レイナちゃん。じゃ、おれそろそろ仕事終わるからじゃ!」

ルイは慌てて店内に戻っていく。

「・・・レイナ。後悔、してるのか?」

ユウがレイナに尋ねる。

「いいえ、それはないの。ただ、あの人は変わらなかったんだなって思って。」

レイナは勢いよく首をふる。

「彼は自己中心的な人だったからね。そもそも変化の可能性も薄かったよ。」

ユウは言う。

「うん、分かってた。でも。私、あの人に変わって欲しかった。本当に国王になりたいなら変わらなきゃ駄目だったのに。」

「廃嫡されている時点でアウトだと思うけど、国王も挽回のチャンスはあげてたしね。そこは馬鹿としか言いようがないよ。」

「うん、分かってる。」

うつむいたままレイナは返事する。不意にレイナは顔をあげた。

「ユウ、私、今ね、すっごく幸せ。」

レイナの笑みにユウは破顔した。

「ああ、レイナ。俺も。俺も幸せだ。」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

まさか、私があなたのことを愛していると、本気で思っていらっしゃったんですか?

ぴぴみ
恋愛
ルナ・リンゼンは婚約者である王子から『もう近づくな』と言われたが…。

【完】お望み通り婚約解消してあげたわ

さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。 愛する女性と出会ったから、だと言う。 そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。 ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

あなたの思い通りにはならない

木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。 しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。 *後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。

ある愚かな婚約破棄の結末

オレンジ方解石
恋愛
 セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。  王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。 ※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

裏切られた令嬢は婚約者を捨てる

恋愛
婚約者の裏切りを知り周りの力を借りて婚約者と婚約破棄をする。 令嬢は幸せを掴む事が出来るのだろうか。

処理中です...