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レイナの幸せ
しおりを挟むこうしてひと悶着あったものの自由を手に入れたレイナは遠く離れた国に来ていた。
家を出る直前に信頼できる侍女に託した手紙の行方を思いながら、レイナは海を一望できるカフェのテラス席で紅茶を飲んでいた。
向かい側に座るのは美しい黒髪の男性。
薄い緑色の瞳が特徴的だ。
「レイナ、今、何を考えていたかあててみせようか?」
男性に視線を戻したレイナは言った。
「ええ、そうね。」
男性はくすっと笑う。
「どうせ、あの手紙について考えていたんでしょ。」
「あら、バレちゃった。」
レイナは微笑む。
「嫉妬しちゃうな。」
「手紙に嫉妬してどうするのよ。」
男性の言葉にレイナは呆れる。
不意に男性が横を向いた。
「・・・どうしたの、ユウ?」
レイナが男性、ユウの視線の先を追う。
「なにも、ないけど・・・。」
レイナは首をかしげる。
「ああ、ごめん。何でもないよ。ただ、幸せだなって思って。」
ユウは懐かしそうにレイナの顔を見る。
「もう、結婚してから一ヵ月!一ヵ月がたったのよ。」
レイナは気恥ずかし気にそっぽを向く。
「お二人さん、今日もラブラブだね。」
店の中からユウのおかわりの紅茶を持ってきた男性店員がにこやかに話しかける。
「ああ、ルイ。ありがとう。」
ユウは目の前に置かれた紅茶を一口飲む。
「それにしても聞いた?あの話。」
ルイが言う。
「あの話?」
レイナが聞き返すとルイはうなづいた。
「そっかー。レイナちゃんとユウは北区の方に住んでるからまだ知らないのか。」
そしてルイは続けて言う。
「それがね、テルラジア王国の第一王子、パトリクス・テルラジアがね、元婚約者の家に乗りこんで復縁を迫ろうとしたらしいよ。件の令嬢は侯爵家からは除籍されていて、行方知れずだって。」
「そ、それで、パトリクス殿下はどうしたの?」
レイナが身を乗り出す。
「それが、侯爵と侯爵夫人に追い返されたって。そのことがテルラジア王国の国王にばれて即幽閉確定だってさ。」
ルイはいい気味だねと言う。
レイナはどこか悲しそうな表情でうつむいた。
「あ、怖い話しちゃったね。ごめんね!レイナちゃん。じゃ、おれそろそろ仕事終わるからじゃ!」
ルイは慌てて店内に戻っていく。
「・・・レイナ。後悔、してるのか?」
ユウがレイナに尋ねる。
「いいえ、それはないの。ただ、あの人は変わらなかったんだなって思って。」
レイナは勢いよく首をふる。
「彼は自己中心的な人だったからね。そもそも変化の可能性も薄かったよ。」
ユウは言う。
「うん、分かってた。でも。私、あの人に変わって欲しかった。本当に国王になりたいなら変わらなきゃ駄目だったのに。」
「廃嫡されている時点でアウトだと思うけど、国王も挽回のチャンスはあげてたしね。そこは馬鹿としか言いようがないよ。」
「うん、分かってる。」
うつむいたままレイナは返事する。不意にレイナは顔をあげた。
「ユウ、私、今ね、すっごく幸せ。」
レイナの笑みにユウは破顔した。
「ああ、レイナ。俺も。俺も幸せだ。」
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