婚約破棄のお返しはお礼の手紙で

王子に届いた手紙 sideパトリクス

「パトリクス殿下、失礼いたします。」

私が執務室で執務をしていると突然扉が叩かれた。

なんと無礼な、と怒鳴りたいのを我慢して、侍従に目配せした。

頭を恭しく下げたその侍従は父上付きの侍従だった。

「父上のところの侍従だな？なんの用だ。」

侍従は無表情で持っていた手紙を渡してきた。

ダンプート侯爵家の家紋が入った手紙。

まさか、婚約破棄をなかったことにしようというのではないだろうな。

「パトリクス殿下、そちらはレイナ様からのお手紙です。陛下が中を拝見し、そのうえで殿下に必ず読ませろ、とのことですので。今、ここでお読みください。」

父上の命令なら仕方がない。

私は仕方なく封を開けた。

手紙は確かにレイナの字だった。


　パトリクス・テルラジア第一王子殿下
パトリクス殿下、お元気にしていますか？
夏が近づいてきましたね。
そちらの気候はいかがですか？
先日の婚約破棄の件、かしこまりました旨をお伝えしたくて手紙を出させていただきました。
口約束では心もとないでしょうから。
後のことはお父様がやってくださいます。
パトリクス殿下は心配せずにミルア様と愛を育んでください。
お二人がこれからもずっと幸せでありますよう願っておりますわ。
さて、私はお礼をしたいのです。
パトリクス殿下は真実の愛を見つけました。
とても素晴らしいことです。
喜ばしいことです。
ですが、私との婚約を破棄したためにあなたはきっと国王にはなれないでしょう。
ミルア様と結婚は出来ても想像していた生活とは程遠いのでは？
私は申し上げましたよ。
本当に国外追放してよろしいのですか、と。
かまわないとおっしゃったのはパトリクス殿下です。
あなたとの婚約が破棄されたおかげで私は自由の身になることができました。
パトリクス殿下、あなたはご存じでしたか？
私には恋人がいたのです。
平民の恋人が。
ご存じなかったでしょう？
あなたとの婚約が決まったおかげで、私と彼は別れなくてはいけなくなりました。
その時はどれほどあなた様のことを恨んだことでしょう。
ですけど、こうして婚約破棄してくださったおかげで私は彼と結ばれることができました。
お礼を申し上げます。
誠にありがとうございました。
どうかパトリクス殿下もお幸せに。                                                            　　　　
　　　　レイナ・ダンプート



なんだ、これは・・・。

どういうことだ？

あいつは私のことが、好きだから、だから側妃に迎えて王妃の仕事をやらせようと思っていたのになんだ、これは・・・。

「読み終わりましたか？」

「なんだ！いったいこの手紙はなんだ！？」

「なんだとはどういう意味ですか？そちらの手紙はレイナ様直筆ですよ。よかったですね、レイナ様は殿下の幸せとやらを祈っているそうですよ。優しい方ですね。殿下にあんなことをいわれたというのに。」

従者がため息をつく。

無礼者と怒鳴ろうとしたその瞬間、従者が言った。

「国王陛下がお呼びです。身なりはよいのでついてきてください。」