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一周目の時間軸では(3)side皇太子シオン
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それからすぐルディリーナ公爵家の人たちがやってきた。
皆一様にやつれていた。
特に夫人であるエヴィルナ・ルディリーナは泣きはらした目でうつむいている。
「この度はまことに申し訳ありませんでした。」
開口一番、母上が深々と頭を下げ、父上が慌ててそれに続いた。
「・・・シオン。」
小声で母上促され僕はしぶしぶ頭を下げた。
皇族がそんな安易に頭を下げるものではない。
「・・・皇后陛下。お久しぶりでございます。」
夫人が震える声で言い、礼をする。
しかし、その声はどこか他人行儀であった。
「皇后陛下。妻から詳細は聞きました。皇后陛下は何一つ悪くなかったことも。どうか頭を上げてください。」
公爵の言葉に母上は涙した。
「本当にごめんなさい。それでも陛下と息子が行ったことの責任は私もとらなくてはいけないわ。なにか要望があるのならなんでも言ってちょうだい。」
「それでは僭越ながら二つほどお願いがございます。」
「何かしら?」
母上の問いに答えたのは夫人だった。
「一つ目は、あの子の、娘の遺体は皇族専用の墓地に埋葬しないでください。娘の遺体は公爵家の方で埋葬しますので娘の遺体を引き渡してほしいのです。」
「ええ、かまわないわ。すぐにでも引き渡しましょう。二つ目の願いは何ですの?」
母上は迷うことなくうなづく。
「このような皇太子殿下が国を治められるとは到底思えません。ですので国のためにも、どうかシオン殿下を廃太子してください。」
その公爵の言葉に固まった。
は?
廃太子、だと?
ふざけてるのか!?
僕は皇家の一人息子。
継げる人はどこにもいない。
なのに、公爵は、なんていうことを!!
考えなしにもほどがある!!
僕が怒りに震えていると、ほんの少し考え込んでいた母上が悲しそうな顔でうなづいた。
「ええ、そうするしかないのでしょうね。」
母上!?
「母上!?なぜですか!?皇家には僕以外の後継者はいません!」
「だから、ですのよ。簡単に浮気するあなたには国は任せられません。かといってもこの国に皇帝の座を継げるものはいない。」
「ですから!!」
「人の話を最後まで聞きなさい!!」
母上に怒鳴られて、初めて気づいた。
公爵一家の私を見る目を。
後悔と怒りと憎しみに苛まれたその目を見て、初めて、自分がこんなに恨まれていたことを知った。
「この国に継げるものがいない以上、もう仕方がありません。サザランド帝国に全ての事情を話し、サザランド帝国の皇帝陛下に助けを求めるしかありませんわ。その結果、この国がサザランド帝国の支配下おかれてしまってもそれはもう仕方がありませんわ。」
母上の判断に僕が異を唱えることは許されない。父上も諦めたような表情で母上を見ていた。
「ナディア。何か願いがあるのなら、言ってちょうだい。親友としての最後の優しさよ。公爵家の総力を挙げて、その願いをかなえてあげるわ。」
夫人は最後、母上に親友として接した。
「お願い・・・。」
母上はほんの一瞬目を閉じるとすぐに目をあけ、決意の灯った瞳ではっきりと言った。
「私は陛下と離婚したいわ。そして我儘を言うなら、実家には戻らず、他国でのんびりと過ごしたいわ。」
その願いを口に出すほど、母上は疲れていたのか?
普段は弱音一つ吐かない母上が・・・?
「わかったわ、ナディア。私たちに、任せて。」
夫人は微笑み、そして公爵一家は去って行った。
「・・・ナディアよ。考え直してはくれぬか?どうか、どうか。」
「いいえ。もう、私は決めたのです。」
父上の懇願さえ母上は無視した。
母上の瞳から涙が零れ落ちるのを見た。
「愛していました、ルーカス。」
それだけ言うと、母上は謁見の間から出て行った。
そして、もう二度と会うことはなかった。
母上と父上はルディリーナ公爵家の取り計らいで一週間後には離婚し、母上はその日のうちに出て行った。
そして、ルディリーナ公爵家の連絡を受けてやってきたサザランド帝国の皇帝陛下から告げられた我が国の処遇は残酷なものだった。
「私の弟にこの国を任せよう。」
善政で知られる皇帝陛下と比べ、弟の方は領地での圧政が目立つ悪徳領主。
母上が言った言葉の意味がやっと分かった。
父上が皇帝の位を退くと同時に皇帝の座にその弟殿下がついた。
すぐに父上は毒殺され、僕はリーシャの男爵家に婿入りすることになった。
国は圧政によりどんどん荒れて行った。
それから三年後、この国は滅びた。
皆一様にやつれていた。
特に夫人であるエヴィルナ・ルディリーナは泣きはらした目でうつむいている。
「この度はまことに申し訳ありませんでした。」
開口一番、母上が深々と頭を下げ、父上が慌ててそれに続いた。
「・・・シオン。」
小声で母上促され僕はしぶしぶ頭を下げた。
皇族がそんな安易に頭を下げるものではない。
「・・・皇后陛下。お久しぶりでございます。」
夫人が震える声で言い、礼をする。
しかし、その声はどこか他人行儀であった。
「皇后陛下。妻から詳細は聞きました。皇后陛下は何一つ悪くなかったことも。どうか頭を上げてください。」
公爵の言葉に母上は涙した。
「本当にごめんなさい。それでも陛下と息子が行ったことの責任は私もとらなくてはいけないわ。なにか要望があるのならなんでも言ってちょうだい。」
「それでは僭越ながら二つほどお願いがございます。」
「何かしら?」
母上の問いに答えたのは夫人だった。
「一つ目は、あの子の、娘の遺体は皇族専用の墓地に埋葬しないでください。娘の遺体は公爵家の方で埋葬しますので娘の遺体を引き渡してほしいのです。」
「ええ、かまわないわ。すぐにでも引き渡しましょう。二つ目の願いは何ですの?」
母上は迷うことなくうなづく。
「このような皇太子殿下が国を治められるとは到底思えません。ですので国のためにも、どうかシオン殿下を廃太子してください。」
その公爵の言葉に固まった。
は?
廃太子、だと?
ふざけてるのか!?
僕は皇家の一人息子。
継げる人はどこにもいない。
なのに、公爵は、なんていうことを!!
考えなしにもほどがある!!
僕が怒りに震えていると、ほんの少し考え込んでいた母上が悲しそうな顔でうなづいた。
「ええ、そうするしかないのでしょうね。」
母上!?
「母上!?なぜですか!?皇家には僕以外の後継者はいません!」
「だから、ですのよ。簡単に浮気するあなたには国は任せられません。かといってもこの国に皇帝の座を継げるものはいない。」
「ですから!!」
「人の話を最後まで聞きなさい!!」
母上に怒鳴られて、初めて気づいた。
公爵一家の私を見る目を。
後悔と怒りと憎しみに苛まれたその目を見て、初めて、自分がこんなに恨まれていたことを知った。
「この国に継げるものがいない以上、もう仕方がありません。サザランド帝国に全ての事情を話し、サザランド帝国の皇帝陛下に助けを求めるしかありませんわ。その結果、この国がサザランド帝国の支配下おかれてしまってもそれはもう仕方がありませんわ。」
母上の判断に僕が異を唱えることは許されない。父上も諦めたような表情で母上を見ていた。
「ナディア。何か願いがあるのなら、言ってちょうだい。親友としての最後の優しさよ。公爵家の総力を挙げて、その願いをかなえてあげるわ。」
夫人は最後、母上に親友として接した。
「お願い・・・。」
母上はほんの一瞬目を閉じるとすぐに目をあけ、決意の灯った瞳ではっきりと言った。
「私は陛下と離婚したいわ。そして我儘を言うなら、実家には戻らず、他国でのんびりと過ごしたいわ。」
その願いを口に出すほど、母上は疲れていたのか?
普段は弱音一つ吐かない母上が・・・?
「わかったわ、ナディア。私たちに、任せて。」
夫人は微笑み、そして公爵一家は去って行った。
「・・・ナディアよ。考え直してはくれぬか?どうか、どうか。」
「いいえ。もう、私は決めたのです。」
父上の懇願さえ母上は無視した。
母上の瞳から涙が零れ落ちるのを見た。
「愛していました、ルーカス。」
それだけ言うと、母上は謁見の間から出て行った。
そして、もう二度と会うことはなかった。
母上と父上はルディリーナ公爵家の取り計らいで一週間後には離婚し、母上はその日のうちに出て行った。
そして、ルディリーナ公爵家の連絡を受けてやってきたサザランド帝国の皇帝陛下から告げられた我が国の処遇は残酷なものだった。
「私の弟にこの国を任せよう。」
善政で知られる皇帝陛下と比べ、弟の方は領地での圧政が目立つ悪徳領主。
母上が言った言葉の意味がやっと分かった。
父上が皇帝の位を退くと同時に皇帝の座にその弟殿下がついた。
すぐに父上は毒殺され、僕はリーシャの男爵家に婿入りすることになった。
国は圧政によりどんどん荒れて行った。
それから三年後、この国は滅びた。
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