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萌芽 1.
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ウルマン少将の妹、ユーディト嬢が今日のお茶会の主宰者である。
私がこの世界で提供した「アフタヌーンティ」は予想以上に流行してしまったため、いたるところでお茶会が催され、私は山のような招待状を捌くのも一苦労、という毎日だけれど、今日のそれはよほど気楽なほうだと感じている。主催者のユーディトとは、その兄が私の夫の副官、という関係もあるし、なにより、男らしい(女性には失礼な表現かもしれないが)性格の彼女はとても気持ちの良い性格で、同性の友人に苦労した私でも気を許すことのできる貴重な存在なのだ。
ユーディトの屋敷の庭は広さよりもそのしつらえが素晴らしい。
どの時期にきても目を楽しませる花々と、果樹が植えられている。ユーディトいわく「美しいだけでなく口にできるほうが楽しい」ということで、高官の庭らしくもなく四季折々の収穫が楽しめる果樹を植えさせたのだとか。
親衛隊員たちを引き連れ、蔓花を絡みつかせた鉄製のアーチをくぐってゆくと──
「御方様!本日は拙宅にお運び頂きましてこんな嬉しいことはございませんわ!」
青い目を輝かせて、今日の茶会の主宰者、ウルマン少将の妹・ユーディト嬢は言った。
話しぶりも声量も令嬢らしからぬ元気の良さだが見事に優雅な一礼をしてみせる。
それにならい、既に到着していた令嬢たちもそれぞれが腰を折って丁重な礼をとった。
皆、貴族か高位高官の令嬢たちだけあってみごとなカーテシーだ。
あれはけっこう腰とか足にくる。私も習得してはいるが、そこは「公爵夫人」の肩書。王政のないグラディウス公国の頂点にいるから、私がカーテシーを捧げる相手はいない。こういう時だけ、最高位の女性、という身分も悪くはないと思う。
「……ありがとう、ユーディト。ありがとう、皆」
私は軽く会釈を返して、楽にするようにと手を振ってみせた。
皆は姿勢を元に戻しつつ──
私を見た。
いや、見つめた。凝視である。
いつもの光景だが視線が少々怖い。
楽にするように、と応じた私の声を合図に、令嬢たちのテンションは一気に沸点に達する。
令嬢たちは私の親衛隊員たちに咎められる一歩手前の距離まで接近し、身をよじらんばかりに取りすがる。
これもまた、いつもの光景である。
「御方様!ご機嫌麗しく」
「御方様、今日もなんてお美しい……」
「ああもう、眼福でございます」
「御方様、今日はわたくしの手相を観て下さいませ。わたくしのお隣に」
「いえ、今日はわたくしの」
「貴女様は先日お隣に座られましたでしょ」
「そのようなこと」
「──皆様!」
まとめ役のユーディト嬢が声を張った。
さすがに、本来ならば行儀のよい令嬢たちはただの一声でぴたりと口を噤む。
「席順はこちらで決めさせて頂いております。その後、折を見て御方様が席を移動されましたらご自由にということで。よろしゅうございますね?」
「……かしこまりました」
「ご自由に、とは申せ、御方様に見苦しいところをお見せせぬよう。皆様、どうかご自重願いますわ」
「かしこまりました、ユーディト様」
「気遣いありがとう、ユーディト。──まあ、節度を持って、というところかな。今日の女主人の顔を潰さぬように願いたいな」
令嬢たちを前にして、こうして軍服を着ていると、なぜか男言葉になってしまう。決してわざとではないし、逆に男性の武官たちとは普通に話すのだけれど、どうもこう、「男装の麗人」に目をギラギラさせているコたちをみると、引きつつも無意識のサービス精神も発動して男性っぽく話してしまうのだ。
とたんに、きゃあとまたはしゃいだ声が上がる。あとでわたしの隣に、と口々に言い合う令嬢たちに鷹揚なフリをして微笑みかけながら、とりあえずお茶を頂きたいな、喉が渇いた、と、私は腰を下ろした。
──しばらくはひとしきりお茶とお菓子を楽しむことに専念する。
薄緑色のテーブルクロス。白磁に金縁、濃淡をつけた緑の薔薇を描いた茶器。三段構えのティースタンド。色とりどりの小さな生菓子、焼き菓子、飴細工。チーズや、燻製肉を載せたカナッペ。
グラディウスの治世は安定していて、こうして平和にお茶を楽しむ、それを追求する文化がある、というのは喜ばしい限りである。
私が提案したとおりに茶器をあつらえ、何種類ものお茶を整えて、誰も退屈しないように気を配りながら主催者を中心に言葉を交わす。
華やかに着飾った令嬢たちが、今日のお菓子の感想だの、我が家の厨房の新しい創作菓子だの、自家製のお茶の話だの、きゃっきゃとはしゃいでいるのをほのぼのとした気持ちで眺めていると、
「そういえば御方様」
ユーディトが私に話を振ってきた。
優雅な手つきで、私の手元にさきほど出てきたばかりの小菓子の皿を置く。
「なに?ユーディト」
「御方様の教えて下さったお茶の楽しみ方。わたくしどもも夢中になっておりますけれど、今は‘誰の’主催するお茶会に招かれるか、‘誰が’出席するお茶会に参加するか、というのも取り沙汰されているそうですわ」
「ふーん」
社交と言えど上流階級の権力闘争の一種というわけかな。
やだやだ。……ってまあ、私は関係ないけれど。気が向いた人の茶会だけ参加するし、私が主催することはごくごく稀だ。それこそ誰を招くだの招かないだの、話が大きくなりすぎる。
私は生返事とともに、焼きたての小さなガレットを口に運んだ。
ユーディトは気の無さそうな私の返事に気を悪くした様子もなく、濃紺の瞳を細め、得意げに胸を張った。
ふふん、と言う鼻息まで聞こえそうだ。
「もちろん、御方様のお運び下さる茶会が一番ですけれどね!わたくし、鼻が高いのですわ」
「わたくしも!」
令嬢たちは力強く同意した。
「わたくしもですわ。ユーディト様が万事まとめて下さいますし、ユーディト様のお声がけですと……」
「御方様がお越し下さいますもの!その確率が高うございますわ!」
「おっしゃるとおり!!」
そこか。それが重要なのか。
まあ、好かれるのは嬉しいけれどね……
「けれど、皆様。最近、お茶会と一緒にもう一つ流行というか……妙なお話を聞きましたのよ、わたくし」
カサンドラ嬢が声を潜めた。
ユーディトの、いわゆる「お取り巻き」の一人だが、決して意地悪でも阿呆でもない。ユーディトとは幼馴染で、ユーディトが女性としては大柄できりりとした性格だから、どうしてもそばにいる令嬢たちは「取り巻き」と見做されるだけのことだ。今日はみかけないが、もう一人、ちょっと気の弱そうな友人がいつもそばにくっついていたはず。
「何ですの?どんな話」
くいついたのはラリサ嬢。
くるくるしたとび色の巻き毛をハーフアップに結わえたかわいらしい人だ。
「ぜひお伺いしたいわ」
「お聞かせ下さいな。妙なお話?」
わたくしもわたくしも、と令嬢たちが身を乗り出したので、「まあ待て」と私は思わず間に入った。
「私も聞いてみたいが、しかし茶会にふさわしい話かな?」
「!?申し訳、ございません……」
カサンドラはうなだれた。
茶会にふさわしくない話なのだろうか。雰囲気を壊すべきではないとは思ったが、しかしこのまま中断させるほうが皆がもやもやするかもしれない。
しっかり者で私に忠実なユーディトは、軽く眉をひそめて「御方様に妙な話などお耳に入れるなんて」と小言を言っている。カサンドラはますます身を縮めている。
「……まあいい、カサンドラ。私は情報室長、‘妙な話’でも聞いておきたい。皆も聞きたいであろうし。意地の悪いことを言って悪かったな」
「いえ、御方様、そんなことはっ……」
カサンドラは恐縮したようにいったん背を丸めたが、じきに言い出しっぺの使命を思い出したのだろう、背筋をしゃんと伸ばして、「大した話ではないですが、でも本当に奇妙なお話なのです」と切り出した。
「アサド議長のご令嬢のことなのですが」
「エイリス嬢が、どうされたと?」
ユーディトがフラットな顔と声で相槌をうつ。
令嬢たちは一様に微妙な顔つきになった。
そして、微妙な顔つきのまま茶器に手を伸ばしたり菓子を摘まんだりする。
「皆、わざとらしいなあ」
私は思わず噴き出した。
気を遣ってくれているのだろう。でも、令嬢たちは腹芸というものができないらしい。わかりやすすぎて笑ってしまう。
あの女だ。一年近く前の月照祭。私のレオン様にしがみついていたビョーキっぽい無礼者。
エイリス・ルルー・ラ・アサド。
「知っている。私の大切なレオン様に執着したあげく、ろくでもないことをしでかした令嬢だろう?」
「まあ、御方様……」
令嬢たちは明らかにほっとしたように表情を緩めた。
と同時に「私の大切な」をちゃんと聞き取ったらしくくすくすと笑いだす。
「さようでございますわ、御方様。あの女が」
勢いづいたのはカサンドラ嬢だ。
はじめのうちこそお行儀よく「アサド議長のご令嬢」と言っていたのに、私の発言を聞くなり「あの女」呼ばわりである。
「お父上である議長のご身分をふりかざしてあちこちの令嬢方を半ば強引にお茶会に誘っていると聞きますわ」
「知っているよ、カサンドラ嬢」
この程度のことなら私の耳にも入ってくる。
‘影’のみならず、他の高官の世間話で、「議長のご令嬢に当家の娘が招かれてしまいましてな」と、本当は断りたかったんだけどと言外に匂わせて語っていたことを思い出す。
令嬢たちも知っていたらしくまるで驚かない。
それで?と口にはしないままカサンドラ嬢に対して早く言えと無言の圧をかけている。
それこそがカサンドラ嬢の望んでいた反応だ。
彼女は怯むことなく、茶を一口飲んで喉を潤し、
「その彼女。黒に金、または白に金をあしらった軍服を着てもてなすらしいんですのよ!恐れ多くも御方様の真似をしているのですわ!茶会のみならず軍服を着るなどおこがましい!けしからんことですわ!」
と息継ぎなしで言いきって、令嬢らしからぬ荒っぽさでごくごくと残りの茶を飲み干した。
私がこの世界で提供した「アフタヌーンティ」は予想以上に流行してしまったため、いたるところでお茶会が催され、私は山のような招待状を捌くのも一苦労、という毎日だけれど、今日のそれはよほど気楽なほうだと感じている。主催者のユーディトとは、その兄が私の夫の副官、という関係もあるし、なにより、男らしい(女性には失礼な表現かもしれないが)性格の彼女はとても気持ちの良い性格で、同性の友人に苦労した私でも気を許すことのできる貴重な存在なのだ。
ユーディトの屋敷の庭は広さよりもそのしつらえが素晴らしい。
どの時期にきても目を楽しませる花々と、果樹が植えられている。ユーディトいわく「美しいだけでなく口にできるほうが楽しい」ということで、高官の庭らしくもなく四季折々の収穫が楽しめる果樹を植えさせたのだとか。
親衛隊員たちを引き連れ、蔓花を絡みつかせた鉄製のアーチをくぐってゆくと──
「御方様!本日は拙宅にお運び頂きましてこんな嬉しいことはございませんわ!」
青い目を輝かせて、今日の茶会の主宰者、ウルマン少将の妹・ユーディト嬢は言った。
話しぶりも声量も令嬢らしからぬ元気の良さだが見事に優雅な一礼をしてみせる。
それにならい、既に到着していた令嬢たちもそれぞれが腰を折って丁重な礼をとった。
皆、貴族か高位高官の令嬢たちだけあってみごとなカーテシーだ。
あれはけっこう腰とか足にくる。私も習得してはいるが、そこは「公爵夫人」の肩書。王政のないグラディウス公国の頂点にいるから、私がカーテシーを捧げる相手はいない。こういう時だけ、最高位の女性、という身分も悪くはないと思う。
「……ありがとう、ユーディト。ありがとう、皆」
私は軽く会釈を返して、楽にするようにと手を振ってみせた。
皆は姿勢を元に戻しつつ──
私を見た。
いや、見つめた。凝視である。
いつもの光景だが視線が少々怖い。
楽にするように、と応じた私の声を合図に、令嬢たちのテンションは一気に沸点に達する。
令嬢たちは私の親衛隊員たちに咎められる一歩手前の距離まで接近し、身をよじらんばかりに取りすがる。
これもまた、いつもの光景である。
「御方様!ご機嫌麗しく」
「御方様、今日もなんてお美しい……」
「ああもう、眼福でございます」
「御方様、今日はわたくしの手相を観て下さいませ。わたくしのお隣に」
「いえ、今日はわたくしの」
「貴女様は先日お隣に座られましたでしょ」
「そのようなこと」
「──皆様!」
まとめ役のユーディト嬢が声を張った。
さすがに、本来ならば行儀のよい令嬢たちはただの一声でぴたりと口を噤む。
「席順はこちらで決めさせて頂いております。その後、折を見て御方様が席を移動されましたらご自由にということで。よろしゅうございますね?」
「……かしこまりました」
「ご自由に、とは申せ、御方様に見苦しいところをお見せせぬよう。皆様、どうかご自重願いますわ」
「かしこまりました、ユーディト様」
「気遣いありがとう、ユーディト。──まあ、節度を持って、というところかな。今日の女主人の顔を潰さぬように願いたいな」
令嬢たちを前にして、こうして軍服を着ていると、なぜか男言葉になってしまう。決してわざとではないし、逆に男性の武官たちとは普通に話すのだけれど、どうもこう、「男装の麗人」に目をギラギラさせているコたちをみると、引きつつも無意識のサービス精神も発動して男性っぽく話してしまうのだ。
とたんに、きゃあとまたはしゃいだ声が上がる。あとでわたしの隣に、と口々に言い合う令嬢たちに鷹揚なフリをして微笑みかけながら、とりあえずお茶を頂きたいな、喉が渇いた、と、私は腰を下ろした。
──しばらくはひとしきりお茶とお菓子を楽しむことに専念する。
薄緑色のテーブルクロス。白磁に金縁、濃淡をつけた緑の薔薇を描いた茶器。三段構えのティースタンド。色とりどりの小さな生菓子、焼き菓子、飴細工。チーズや、燻製肉を載せたカナッペ。
グラディウスの治世は安定していて、こうして平和にお茶を楽しむ、それを追求する文化がある、というのは喜ばしい限りである。
私が提案したとおりに茶器をあつらえ、何種類ものお茶を整えて、誰も退屈しないように気を配りながら主催者を中心に言葉を交わす。
華やかに着飾った令嬢たちが、今日のお菓子の感想だの、我が家の厨房の新しい創作菓子だの、自家製のお茶の話だの、きゃっきゃとはしゃいでいるのをほのぼのとした気持ちで眺めていると、
「そういえば御方様」
ユーディトが私に話を振ってきた。
優雅な手つきで、私の手元にさきほど出てきたばかりの小菓子の皿を置く。
「なに?ユーディト」
「御方様の教えて下さったお茶の楽しみ方。わたくしどもも夢中になっておりますけれど、今は‘誰の’主催するお茶会に招かれるか、‘誰が’出席するお茶会に参加するか、というのも取り沙汰されているそうですわ」
「ふーん」
社交と言えど上流階級の権力闘争の一種というわけかな。
やだやだ。……ってまあ、私は関係ないけれど。気が向いた人の茶会だけ参加するし、私が主催することはごくごく稀だ。それこそ誰を招くだの招かないだの、話が大きくなりすぎる。
私は生返事とともに、焼きたての小さなガレットを口に運んだ。
ユーディトは気の無さそうな私の返事に気を悪くした様子もなく、濃紺の瞳を細め、得意げに胸を張った。
ふふん、と言う鼻息まで聞こえそうだ。
「もちろん、御方様のお運び下さる茶会が一番ですけれどね!わたくし、鼻が高いのですわ」
「わたくしも!」
令嬢たちは力強く同意した。
「わたくしもですわ。ユーディト様が万事まとめて下さいますし、ユーディト様のお声がけですと……」
「御方様がお越し下さいますもの!その確率が高うございますわ!」
「おっしゃるとおり!!」
そこか。それが重要なのか。
まあ、好かれるのは嬉しいけれどね……
「けれど、皆様。最近、お茶会と一緒にもう一つ流行というか……妙なお話を聞きましたのよ、わたくし」
カサンドラ嬢が声を潜めた。
ユーディトの、いわゆる「お取り巻き」の一人だが、決して意地悪でも阿呆でもない。ユーディトとは幼馴染で、ユーディトが女性としては大柄できりりとした性格だから、どうしてもそばにいる令嬢たちは「取り巻き」と見做されるだけのことだ。今日はみかけないが、もう一人、ちょっと気の弱そうな友人がいつもそばにくっついていたはず。
「何ですの?どんな話」
くいついたのはラリサ嬢。
くるくるしたとび色の巻き毛をハーフアップに結わえたかわいらしい人だ。
「ぜひお伺いしたいわ」
「お聞かせ下さいな。妙なお話?」
わたくしもわたくしも、と令嬢たちが身を乗り出したので、「まあ待て」と私は思わず間に入った。
「私も聞いてみたいが、しかし茶会にふさわしい話かな?」
「!?申し訳、ございません……」
カサンドラはうなだれた。
茶会にふさわしくない話なのだろうか。雰囲気を壊すべきではないとは思ったが、しかしこのまま中断させるほうが皆がもやもやするかもしれない。
しっかり者で私に忠実なユーディトは、軽く眉をひそめて「御方様に妙な話などお耳に入れるなんて」と小言を言っている。カサンドラはますます身を縮めている。
「……まあいい、カサンドラ。私は情報室長、‘妙な話’でも聞いておきたい。皆も聞きたいであろうし。意地の悪いことを言って悪かったな」
「いえ、御方様、そんなことはっ……」
カサンドラは恐縮したようにいったん背を丸めたが、じきに言い出しっぺの使命を思い出したのだろう、背筋をしゃんと伸ばして、「大した話ではないですが、でも本当に奇妙なお話なのです」と切り出した。
「アサド議長のご令嬢のことなのですが」
「エイリス嬢が、どうされたと?」
ユーディトがフラットな顔と声で相槌をうつ。
令嬢たちは一様に微妙な顔つきになった。
そして、微妙な顔つきのまま茶器に手を伸ばしたり菓子を摘まんだりする。
「皆、わざとらしいなあ」
私は思わず噴き出した。
気を遣ってくれているのだろう。でも、令嬢たちは腹芸というものができないらしい。わかりやすすぎて笑ってしまう。
あの女だ。一年近く前の月照祭。私のレオン様にしがみついていたビョーキっぽい無礼者。
エイリス・ルルー・ラ・アサド。
「知っている。私の大切なレオン様に執着したあげく、ろくでもないことをしでかした令嬢だろう?」
「まあ、御方様……」
令嬢たちは明らかにほっとしたように表情を緩めた。
と同時に「私の大切な」をちゃんと聞き取ったらしくくすくすと笑いだす。
「さようでございますわ、御方様。あの女が」
勢いづいたのはカサンドラ嬢だ。
はじめのうちこそお行儀よく「アサド議長のご令嬢」と言っていたのに、私の発言を聞くなり「あの女」呼ばわりである。
「お父上である議長のご身分をふりかざしてあちこちの令嬢方を半ば強引にお茶会に誘っていると聞きますわ」
「知っているよ、カサンドラ嬢」
この程度のことなら私の耳にも入ってくる。
‘影’のみならず、他の高官の世間話で、「議長のご令嬢に当家の娘が招かれてしまいましてな」と、本当は断りたかったんだけどと言外に匂わせて語っていたことを思い出す。
令嬢たちも知っていたらしくまるで驚かない。
それで?と口にはしないままカサンドラ嬢に対して早く言えと無言の圧をかけている。
それこそがカサンドラ嬢の望んでいた反応だ。
彼女は怯むことなく、茶を一口飲んで喉を潤し、
「その彼女。黒に金、または白に金をあしらった軍服を着てもてなすらしいんですのよ!恐れ多くも御方様の真似をしているのですわ!茶会のみならず軍服を着るなどおこがましい!けしからんことですわ!」
と息継ぎなしで言いきって、令嬢らしからぬ荒っぽさでごくごくと残りの茶を飲み干した。
応援ありがとうございます!
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