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掬い上げた蒼 義兄弟 執着

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掬い上げた蒼




好きな人と大切な弟みたいな親友が、目の前で抱き合っていたらどうすればいいだろうか?

「桐、大好き」
「あぁ、俺も好きだ」

親友の瑠璃が頬を染めて桐の胸にもたれ掛かった。
愛おしむように髪に自身の指を絡めながら桐が瑠璃の綺麗な茶色の髪を撫で上げた。
全寮制の男子高で、愛に飢えた少年達は身近な対象でその空洞を埋めようとする。
俺も例外ではなく、平凡な外見の俺を好きだと言ってくれる桐と付き合っていた。
桐はこの学園でも人気者で、弓道部の部員だ。綺麗に黒髪に切れ長の目をした美形だった。鋭い眼差しは笑うと目尻が下がり、大分印象が柔らかくなる。
かたや瑠璃はハーフのため色の白い肌に金に近い茶色の髪と緑の瞳。
穏やかな性格で誰にでも平等な態度から、マリア様なんて言われていて、桐と同じく人気者だった。

恋人の桐とは彼のファンに目を付けられないように内緒で付き合っていた。
ここでは俺のような平凡な奴が美形の近くにいるだけで、周囲の嫉みを買うのだ。

だから、ただでさえ瑠璃と仲の良い俺は、 やっかみを受けて嫌がらせを受けていた。その元凶である人間達は気が付いてはいないようだけれども。

「桐も言って……?」
「瑠璃、愛してるよ」

前から二人はお似合いだと言われていたんだ。
そっと頬を包み込んで、顔を近付けていく二人から、俺は顔を背けてそっと立ち去っていった。









要らない子


浮いた存在


俺はどこに行っても弾かれた。


俺は小さい頃、子供が中々出来ないという資産家に引き取られた。
施設でも何故かいつも一人でいて、何かと他の子供達と喧嘩をして問題を起こす俺を引き取ってくれるという事に施設は大変喜んだらしい。
夫妻は俺を一二年は可愛がってくれた。そして色々な勉強を学ばせて、将来の跡取りとして育てようとした。




しかし、俺は彼らの期待には答えられなかった。





どんなに頑張っても学園の初等部での成績は真ん中。運動も対して得意ではない。
そんな夫妻は俺とは別に新しい養子を引き取った。
今度のは施設の子供ではなく、親戚の子供を養子にしたらしい。
新しい養子は期待に答え、俺より二つ下という義弟は夫妻の自慢の息子となった。
反対に用済みとなった俺は、一度引き取った手前、世間体を気にした夫妻は仕方なくそのままにして、最初の可愛がり方が嘘のようになかったものとして扱い始めた。
元々俺はそんな扱いには慣れていたために何の反応もしめさなかった。
逆に、夫妻の期待に答えられなかった事に申し訳なさを覚えていたから、少しだけほっとした。
だけどそのままそっとしておいてくれるはずもなく、俺は親戚中から、得体の知れない血だの、出来損ない等言われた。
勿論夫妻が庇ってくれるはずもなく、俺は針の筵状態だった。
そして義弟は俺が気に食わなかったのか暇潰しと称して殴る蹴るの暴行を加えて来た。上手い具合に顔ではなく身体の目立たない所を中心に義弟は狙ってきた。
まだ子供でもあった俺はさすがにそれには耐え切れず、夫妻に縋ろうとしたが、煩わしそうに腕を振り払われ逆に頬を叩かれた。
いわく、
『役に立たないのならば、それくらい我慢しろ』
と。
それからも義弟からの暴力は止まず、ならばと中等部の頃、他の学校に行き、一人暮らしをして生きて行こうと決心した。
夫妻も了承してくれた。
しかし、それを何処から聞き付けたのか義弟が知り、何故か憤激した義弟に監禁された。

『玩具が何処へ行こうっていうんだよ』

監禁された部屋でベッドに俺は両腕をシーツに縫い付けられた。

『ねぇ、雫義兄さん』

嘲笑を浮かべ、俺の耳元に楽しそうに囁いた。

『アンタは一生僕の玩具でいればいいんだよ』

そういって、義弟に身体を無理矢理抱かれた。
数週間にも及ぶ監禁により、俺は義弟の玩具になる事を心のすみで、受諾した。
人の心や、今までの誇りなんてもはや残ってなんていなかった。











寮に帰ると自分の部屋に荷物を置くと、俺は食堂に向かおうとして再び部屋から出て玄関に向かうと、不意に腕を掴まれた。

「義兄さん、どこへいくの?せっかく帰って来たのにさ」
「優羅(ゆら)……帰っていたのか」
「そうだよ。久しぶりに義兄さんを可愛がってあげようと思ってね、待っていてあげたんだよ」

歪んだ笑みが俺を見つめてくる。
髪の毛を無造作に捕まれ、床にたたき付けられる。
前回やられた所がまだ痛みが引いておらず、しかも俺は運悪く1番痛い場所を下に床に倒れてしまい、新たな痛みに低く呻いた。

「まだ何もしてないのに、何痛がってるの?下手な芝居は止めてよね」

虫ずが走るから
優羅に俺の懇願は笑いの一つらしく、何度止めてくれと頼んでもとても楽しそうにするだけだった。
散々殴られて、蹴られた後は何故か優羅は俺を激しく抱いた。
これがいつも義弟が俺にしてくる、ストレス発散。



吐き出されるのは自分の信じたくはない程の高い声と優羅の熱を受け入れている下部から聞こえる水音。
耳を塞ぎたくても、本能はすでに快楽を求めてしまい、優羅の背中に腕を回していた。



汚い俺

いらないこ

誰も俺を

いらないこ


誰も、そう誰も、


『義兄さんを、僕以外誰が見てあげるっていうの?』

『母様達だって言ってたじゃないか、義兄さんは要らないって』


俺なんて必要ない



誰も俺を見てくれないんだ

だって

『だって、』

俺は

『義兄さんは』

実の親にも捨てられた子何だから

『本当の母親にも捨てられたんでしょ?』











痛みに軋む身体をいつものように堪えて、昼休みは一人静かな所で過ごすのが常になっていた。
前まで使っていた場所は、桐と瑠璃がいる可能性もあるから、もう使うのは止める事にした。
噂では最近よく一緒にいるらしい。俺はあの二人を避けているから、桐からの別れ話も受けていないし、瑠璃とも話をしていなかった。
桐とはもうこのまま自然消滅でいいかもしれない。
はっきり言われたら、きっと俺は壊れてしまうだろうから。

俺はそう考えて微笑を浮かべながら、温室の1番奥の方へと向かった。
最近気が付いたのだが、ここは中々の穴場で人は滅多に来ない。

屋根のガラスから日の光りが入り、優しく観葉植物を包みこんでいた。
そんな中俺はもそもそと購買で買ったパンを食べ始めた。
美味しいと評判の焼きそばパンを今回買って見たのだが、普通だ。ただパンに焼きそばがはさまっているだけ。
どうして評判になったのか俺は首を傾げながら焼きそばパンを平らげて、他のパンも同じように平らげた。
お腹が満たされると、昨日は眠れなかったせいか、急に眠気が襲い、仰向けになり目を閉じると、すぐに眠りに入ってしまった。





***






「おい、起きろ」
「ん……?」
「お前、この場所は立入禁止だぞ」

ゆさゆさと揺さぶられて、ぼやける視界と怠惰感に包まれながら、目の前を見つめた。

「空……?」

視界をうめたのは真っ青な蒼。
俺はしばし、その蒼に目を奪われていたが、しだいに目の前にあるのが、空ではなく人である事に気が付いた。

「あ……人?」
「寝ぼけてんのか、お前?ここは立入禁止だ。学年と名前を言え」
「そう言う貴方も立入禁止のここに入ってますよね?」

真っ青な頭をした人物を、俺は身を起こしながら見つめた。
そして働いてきた頭の中で俺はこの人物がこの学園の生徒会長だと気が付いた。
俺からしてみれば怖い外見の不良にしか見えないのだが、その鋭い眼光と筋の通った鼻。いつも支配者としての微笑がカッコイイと人気だった。
確か、この学園で二番目に人気ではないだろうか。

「周藤竜巳生徒会長こそ、いけないんじゃないんですか?」
「……生意気だな、お前。つうか、俺はいいんだよ。ここの水やりとかやってんだからよ」

意外な言葉に目を見張る。怖い外見から何だか偏見な目で見ていた自分が恥ずかしくなった。
そういえば、この人は入学式や始業式もきちんと会長の役割をこなしていた事を思い出した。
俺はせっかくいい所を見つけたのにと、少々残念に思いながら立ち上がった。

「おい、どこ行くんだ。名前は?」
「立入禁止なんでしょう?もう立入りしません。だから見逃して下さい」
「別に咎めたりはしねぇよ。ただ、ここにきてぇなら水やりを手伝って貰おうと思ってな」
「水やり……でも立入禁止って」
「本当はな。ま、俺も例外だしな。お前も例外にしてやるよ。んで、お前の名前は?」

にこやかに笑う会長に、そんなんでいいのかと思いながら、しかし温室に入る条件を提示してくれた事に感謝した。

「伊王杜(いおず)雫です」
「……お前が伊王杜の長男か」
「知ってらっしゃるんですね」

口にするのに抵抗を覚えながらも、俺は彼に自分の名前を告げた。
すると今度は彼が驚いた顔をした。
きっと自分の色々な噂が流れているんだろう。

綺麗な友人をもち、眉目秀麗な義理の弟。そんな中に凡庸な自分がいるのだ。更には養子である事もかっこうの噂のネタとされていた。

「あぁ、弟やあの華奢な片岡瑠璃にまで守られている囲われ姫なんてあだ名で俺達の間じゃ有名だな。……成る程、お前がそうか。いや、どんな美人かと思えば、噂もあてになんねぇな」

暗に容姿が平凡だといわれているのだが、それも本当の事なので黙っていた。
とりあえず居場所が確保出来た事に息をはき、俺は笑みを浮かべた。

「噂の真相、分かって良かったですね。それより水やりってどうするんですか?」
「ん?ああ、あそこに水道と長いホースがあれからな、それを使え。俺は月曜と水曜に水やりをやるから、お前はその他の曜日をやれよ」
「だいぶ俺の曜日が多いですね」
「そりゃ、俺はここを使ってるっても生徒会であんまりこねぇしな」

肩を竦める先輩に、俺は分かりましたと答えた。
それから昼休みももうすぐ終わるので、先輩はまだ生徒会の仕事があるとかで、立ち去っていった。
どうやら、休憩しに来たらしい。
意外と緑が好きなんだなと変な関心を抱いていた俺も、次の授業に遅れないようにと、温室を後にしたのだった。




***




「雫、どこにいたの?一緒に食べようと思ってたのに」
「ちょっとね」

にこやかに話しかけてくる瑠璃に、俺は曖昧に笑い返しながら、ちらりと桐の方に視線を向けた。しかし他のクラスメイトと楽しそうに会話をしていて、恋人であるはずの俺を気にしている様子はなかった。
でも、当たり前だ。桐はもう、俺なんていらないのだから。
午後の授業が終われば真っ直ぐに寮に帰る。
たまに図書館にも通うが、それ以外はすべて部屋で勉強をしている。
でないと、愚図な俺はすぐに勉強が追い付かなくなるのだ。
とはいえ、俺の将来はすでに養父によって、決められている。
役に立たない俺は、高校を卒業したと同時に、適当に用意された会社のポストに入れられる。
それか政略結婚の道具だ。
でも、俺は高校を卒業したらあの夫婦の元から去ろうと決心していた。
きっと、俺にとっても、優羅にとっても、あの夫婦にとっても、俺が出ていった方が幸せ何だと、気がついたからだ。

寮に帰る途中、弓道道場に寄って行った。
周りは桐に憧れを持つ子や、他の容姿がいい先輩達目当ての子達で、溢れていた。
本当は入学当初弓道部をやってみたかったのだが、優羅に部活動や委員会は一切禁止されていた。
だから、遠くから眺めているだけ。 
楽しそうに話し合う彼等に羨ましい眼差しを向けてしまうのは仕方がない。
真剣な表情で的を見つめ、弓を引く姿。
桐は、一時とはいえ、こんな俺の何処を好きになってくれたんだろう。

何の価値もない俺を……。

……考えたって、その疑問は桐以外は分からない答えだ。それに今の俺達には必要ない疑問だろう。
もう、桐は俺をいらないのだから。
早く、別れて上げないといけない。
だけど昨日の今日じゃ、まだそんな事はできない。
すぐに、俺から開放してあげられたらいいのに、それが、出来ない。
三日。
三日したら、桐と別れてあげよう。
俺は、桐に申し訳なさと寂しさを抱きながら今度こそ寮に帰る事にした。



「義兄さん?」
「……何?」
「何だか上の空だったから、随分余裕だなって思ってね」
「そんな、ことな、んっぁ……」

勉強をしていると、帰ってきた優羅が部屋に入って来て俺の髪を無造作に掴むと、そのまま床にたたき付けられた。
傍にはベッドがあるというのに、何をいらついていたのか優羅は床で、俺を貪り始めた。

慣らさずに優羅の猛る熱を受け止めて、気の済むまで突き上げられる。
何回かお互いに絶頂を迎えた後で、優羅は俺の様子に不満を持ったようだ。
未だに俺の中に入ったままの優羅の熱を動かされて声が漏れる。

「今日は沢山、義兄さんを可愛がってあげるからね」

甘い口調のあと、腹を殴られて息をつめるが、優羅はそれすら楽しそうに笑みを浮かべると、体中に痕をつけていく。

「楽しませてよ、義兄さん。それしか義兄さんには価値がないんだから」

そう囁く優羅に、ただ俺はされるがまま喘ぐだけだった。








三日経った。
まだ嫌だったけど仕方がない。
朝早く俺は避けていた桐の所まで向かった。
毎日彼は真面目に弓道道場に通い、練習を欠かさなかった。
誰もいない、しんとした空間に俺と桐の二人だけ。
初めて踏みいる神聖さすら感じる場所に、酷く自分がいてはならないのだと錯覚してしまいそうだった。

「なんか緊張するな」
「そうか?まぁ、俺も最初緊張したけどな」

桐は俺を見て苦笑した。袴姿が凛々しく移り、目が奪われる。

「あのさ、桐。俺好きな人が出来たんだ」

桐はいい奴だから、自分からは中々言い出さないだろうという俺の配慮。
嘘。
本当は自分を保つため。

「だから、別れよーぜ」

俺の言葉に桐は一瞬瞳に陰りを浮かべたが、静かに視線を合わせてきた。
僅かな沈黙に息がつまりそえだった。
求めていたものを、1番始めにくれた桐を、自ら手放さなければいけない現実。
でも、必ずくる別れを、桐から言われるよりは、俺が言った方が何倍もましだと思った。

「……好きな奴は誰なんだ」
「言わなくちゃ駄目か?」
「ああ……」
「俺ね、絶対に叶わない人に恋してるんだ。遠くて、遠くて……」
「だから、誰なんだとっ…………!!」
「竜巳生徒会長。諦めようってずっと思ってたんだけど、最近あの人と初めて会話してやっぱり諦め切れなかった」

よく、すらすらと嘘が言えるな、俺。
何だか自分自身を褒めてやりたくなった。
それと同時に目頭が熱くなって来る。

「それに瑠璃はお前の事が好きなんだ。ちょうどいいじゃん。だから、さよなら。桐」

用事はそれだけだよと俺は笑顔で桐に別れを告げる事が出来た。もしかしたら、少し引き攣っていたかもしれないけど、それでも上出来だ。
俺はそのまま教室には向かわずに、温室に向かい走り出した。
もう、我慢が出来なくなっていたから。

自分で言って傷付いた。
俺は温室の隅にうずくまり、先ほどの事を何度も何度も思い返していた。

やっぱり、桐は引き止めてはくれなかった。
何にも言ってくれなかった。
別れる事を告げても、平然としていた。

捨てられる前に捨てる事が出来て良かった。

いらないこ

いつも言われ続けた言葉。
いらない
いらない
いらない


君は、いらない


込み上げてきた涙は拭いもせず、ただ膝に押し付ける。制服が涙をいくつも吸い取り、次第に冷たくなる面積を増やしていった。

「何やってんだ?お前」

唐突に声をかけられて、上を見上げれば空色の髪を持つ男。
怪訝そうにこちらを見下ろしてきて、俺の目から涙が流れていることに一瞬驚きの表情を浮かべた。
空色の髪を揺らしながらしゃがみ込んで、俺の頭をくしゃりと撫でながら顔を覗き込んでくる。
その瞳もカラーコンタクトをしているのか空色をしていて、綺麗だとしばし見とれていた。

「お前どうして泣いてんだよ。誰かに泣かされたのか?」
「生徒会長……」
「おい、質問に答えろ」
「……別に、俺が泣いていたって貴方には関係ないでしょう」
「だからって、目の前で泣いてたら気になんだろ」

優しく撫でられて、俺は思わず縋りそうになったが、踏み止まった。
まだ二回しか会ったことがない人間に、ただ辛いというだけで縋っては、後々後悔する。
そうならないように、自分に内心叱咤しながら、たった今恋人と別れてきた。そう簡単に小さな声で呟いた。
すると、会長はため息をついた。

「んだ、振られたのか?俺だって何度も振られてんぜ」
「……まさか、会長モテそうなのに……親衛隊とかもあるし」
「最初に言っておくけどな、俺はノーマルだ。ここの親衛隊とか気色悪いだけだ。つうかな、付き合う女ども皆俺に愛情は感じられないとかあたしだけを見てくれないとか言って別れんだよなー」

がくりと肩を情けなく落とす会長に、なんだかおかしくてくすりと笑ってしまった。
するとぎろりと睨まれて、びくりと肩を揺らした。

「てめぇ、さっきまで泣いてやがったくせに……」
「すみません、顔のいい会長も大変だなと思って」
「まぁな」

未だに笑う俺に諦めた態度の会長は、じっとこちらを見つめていたので、何だろうと首を傾げた。
会長は髪の毛を撫でていた手をするりと俺の頬へと下げて、何かを確かめるように触れてきた。

「なんか、俺は相手がお前なら男に走っても構わねー気がすんな」

泣き顔とかそそるしよ。
ぽつりと呟かれた言葉に驚き、俺は会長の方へ視線を向けた。
冗談かと思い、苦笑が零れそうになるが、存外に強い瞳に出会い、冗談ではないと気が付いた。

「別れたなんてちょうどいい。試しに俺と付き合ってみねぇか?」
「男に興味が出て来たんですか?」
「ああ、まぁな。やっぱ遊び感覚は嫌か?」
「いいえ、別に。今は真面目にする気もないですし、いいですよ。会長と付き合ってみても」

会長もただ、この学園の風習に漸く興味をもったのだろう。
それに俺にとっても願ったり叶ったりだ。桐との別れの理由にも都合がいい。
俺は、会長の言葉に軽い気持ちで頷いたのだった。

「じゃあ、今からお前は俺の恋人だ。俺の事は竜巳って呼べよ」
「ええ、今日から宜しくお願いします。竜巳さん」

まるで共犯者のような笑みをお互いに浮かべて、朝礼ギリギリの時間まで過ごしたのだった。

竜巳さんと付き合い出して、俺は何故か前よりも落ち着いていた。
これがお遊びの恋愛ごっこだからなのかもしれないし、竜巳さんが俺以外の男と身体の関係を持っているからなのかもしれない。
一度俺の体調が万全の時に身体を重ねたきりだったが、優羅に傷付けられたあざや、傷を見られるよりは誰かと身体を重ねてくれた方がいい。
竜巳さんは男は本当に初めてだったらしく、俺と繋がる時何度も痛くはないかと尋ねて来た。
かなり笑える。
だって俺と身体を重ねて来た奴らはそんな事一度も聞いてきたりはしなかった。

優しいあの人は、俺に同情して恋人ごっこをしてくれているんだ。
だから、形ばかりとは恋人である竜巳さんが、俺以外を抱こうと、咎める気持ちはいっさいなかった。

昼休みや放課後は温室にいる事が多くなった。昼休みは竜巳さんとの時間で、放課後は一人で水やりをしている。
ガラスごしから見える空を眺めながら、ずっとこのままでいられたらな……そんな考えが過ぎってしまう。
桐はあれから正式に瑠璃と付き合う事にしたらしく、今では校内でもお似合いのカップルと言われていた。
綺麗に微笑みながら桐に寄り添う瑠璃と、それを愛おしみながら抱き寄せる桐の姿は、眼福と言われる程だった。
ふと、人の気配がして放課後なのに竜巳さんが珍しく来たのかと、俺は視線を向けて顔を青ざめた。

「雫義兄さん、最近どこにいってるのかと思ったらこんな所にいたんだね」
「優羅……」
「いいね、ここ。誰も来なくて」

何故ここに義弟がいるのか、俺は上手く息が吸えず、口を金魚のようにしていた。
周りが美しい笑みだと称賛するその笑いに恐怖を抱いていた。

「たまたま義兄さんを見かけて付いていったら…………本当、義兄さんからは目が離せないな。僕の許可なく動くんだから」

乱暴に優羅に押し倒され、そして思いきり首筋を強く掴まれた。
笑いながら言っているはずなのに、目は怒りに満ち溢れていた。

「ちょっとお仕置きが必要だよね」

そう言いながら自分のネクタイを抜き取ると、俺の手を縛り上げて、歪んだ表情を浮かべた。
シャツを引き裂いて、胸の突起を執拗に舌でなぶる度に俺は声を上げる。
慣らされた感度はもはやどうしようもなかった。

「義兄さんて本当いやらしい。乳首もここも起てちゃってさ」

悪戯に甘噛みされ、するりと優羅の手が俺の立ち上がった熱に触れてびくんと腰が跳ねた。
掠れただけでも酷く感じてしまう自分が今更ながら恥ずかしくて唇を噛み締めた。

「ああ、まだ全然触ってないのにその反応。淫乱だね、雫義兄さん」

ズボンのチャックを開けられて、パンツごしから何度も何度も撫でるように触られた。
くすくす笑いながら優羅は俺の下着もすべて膝まで下げて、双丘を曝した。

「そうそう、雫義兄さんが気持ちよくちゃ意味ないから前戯はここまでだよ」

そう言うないなや、急に圧迫した質量のものが無理矢理俺の中へ押しいってきた。
ぐっと押し込められた熱は熱く、俺は心とは裏腹に、その熱を内壁で締め付ける程喜んで難無く受け入れていた。
優羅は満足そうに笑うと腰を動かし始めた。
強く貫かれる度に嬌声が漏れ、俺は白濁を吐き出した。
止めて欲しいと願いながら、この快楽をねだる自分がいて悲しくなった。
何度イッタのか分からない程俺と優羅は行為を続けた。

「雫義兄さん……」

嬉しそうに名前を呼びながら、キスをしてこようとする優羅を見つめていたら、僅かな音がした。
そしてふと視線を反らした先には竜巳さんが眼を見開いてこちらを見ていた。
それに俺は血の気が下がる。唇は塞がれていて何も言葉は紡げなかった。

優羅を一瞬見ると猫のような眼をして、この行為自体がわざと何だと今頃気がついた。
ゆっくりと唇を離した優羅は、優雅に竜巳さんに向かって話しかけた。

「僕の義兄さんが大変お世話になりました。でも今後一切義兄さんに近付かないで下さい」
「お前が優羅か…………」
「えぇ、竜巳先輩。僕が優羅ですが?」
「…………雫を離せ!!」

そこで漸く固まっていた俺の現状を思い出した。
まだ埋め込まれたままの優羅のもの。
にやりと優羅は竜巳さんの言葉に笑い、何を思ったのか思いきり突き上げてきて、俺は思わず声を上げた。
こんな姿を仮にも恋人の竜巳さんに見られるなんて……。
嫌だと涙が込み上げてきた。



嫌だ。
汚い俺を見られたくない。



「残念ですが、義兄さんは僕のものです」 
「やぁ、いやぁ!竜巳さ……みなっ……で!見ないで……!」

涙を零しながら叫ぶ俺と、突き上げ続ける優羅。
異様な程に哀しくて、俺は頭を振った。

「……っ!お前、それでも兄弟か?無理矢理兄貴を組み敷いて楽しいか?雫が嫌がってるじゃねぇか!」

竜巳さんが怒鳴りながら優羅を殴り、そして物凄い力で俺と引き離した。
ずるりと熱が抜けて、中から優羅の白濁が零れ落ちてくる。
ただ俺は立ち上がる事も出来ず、二人を見上げた。
優羅の胸倉を掴んで竜巳さんは睨み付けるが、当人は怯む様子はなかった。

「血が繋がらないのに兄弟?僕は一度もこの人を兄弟だなんて思った事はない。それに、義兄さんは僕に抱かれて喜んでるよ?」
「ついさっき嫌がってたじゃねぇか」
「恥ずかしがり屋なんだよ、義兄さんは。だっていつも僕にしがみついてくるし……まぁ、貴方には関係ない事でしょうけど」
「俺は雫の恋人だ。雫が好きなんだよ。だから関係なくなんかねぇ!!」
「恋人ねぇ…………目障りだね。あの永宮桐といい、僕の義兄さんに手を出そうとするなんて。身の程を知りなよ」

優羅が竜巳さんの腹を力強く殴りつけた。
不意をつかれたためか、一瞬怯み、竜巳さんの手が優羅から離れた。
追い撃ちをかけるように優羅は更に容赦なく竜巳さんの脇腹に蹴りを喰らわせた。
優羅は護身術として小さい頃から色々習っているから腕は強い。
冷ややかに片膝を着いた竜巳さんを見つめ、優羅はまた俺に近づいてきた。
屈んで俺の腕を掴み、立ち上がらせた。

「義兄さん、部屋に帰ろう。邪魔が入ったからね…………そうそう生徒会長、今後僕の義兄さんに近付いたらただじゃおきませんよ」

ぞっとするような笑みを浮かべ、優羅は気が付いたように俺に制服の上着を着せた。
このまま帰ったらきっと酷い目に合うのは分かっていたが、俺は抵抗もせずにそのまま歩いていった。


「っ……!」

部屋に帰り、ソファーの上にたたき付けられた。
次に来るのは何かと思い、目をつぶるが、いくら待っても何の衝撃もなかった。
どうしたのだろうかと恐々と目を開けると、じっと優羅はこちらを見つめていた。
俺は今までにない反応に戸惑いながら見つめ返した。
沈黙が怖い。
今日もまた何をされるのか、俺は弟の顔色を何とかして伺おうと必死だった。
数秒後、優羅は口を開いた。

「義兄さん、何度言えば分かるの?俺が必要としてあげているのに…………もういいよ」

本当に欝陶しそうに、そして忌ま忌ましいと言うように吐き捨てられた。

「俺も義兄さんなんていらない」

何度も言われ慣れている言葉だから、今更傷付くなんてない。
それなのに、無性に悔しくて目頭が熱くなるのはどうしてなんだろうか。
一度もこちらを向くわけでもなく、自分の部屋に入る優羅を俺は無言で見つめた。


俺は優羅に依存していたのだろうか?
それとも好きだったのだろうか?
ただ、酷い仕打ちをされたとしても、突き放されてばかりだった俺を、優羅は自分の傍においていた。
それに俺は慣れていって、好きとか愛だとかを諦める事にしたんだ。
そんな俺に告白して来たのが、桐で誰にも必要とされなかった俺でも好きになってくれるのかと嬉しかった。

桐と一緒にいるようになって、瑠璃という仲の良い友達も出来た。

一緒にいれば暗い俺なんかよりも、桐が綺麗で明るい瑠璃に惹かれて好きになるのは分かるし、優しい桐を瑠璃が好きになるのも分かる。だから二人が付き合いだすために、俺は桐に別れを告げた。
その方が桐にとってもいいだろうから。
その証拠に今は同じ教室にいてもあまり話をしていない。
周りも桐と瑠璃のカップルを邪魔しないようにと俺に忠告してきた。

それに今は竜巳さんが恋人としている。
俺の汚い部分を見られて、もうその関係も無くなるだろうけど、大分心の支えとなった。

この学園でもう俺を気にかけてくれる人間なんていないだろう。
本当にちょうどいい。
これで、この学園を卒業したら、心置きなく独り立ちできる。
養父の名も捨てて、人生をやり直すんだ。

だから、この涙の意味もきっと優羅から逃れる事が出来て嬉しいからなんだ。

そう納得させ、俺は自分の部屋に入り眠りにつくことにした。








***






優羅が俺をいらないと言ってから、一週間。
あれから予想通り竜巳さんとも会わず、独りで過ごしていた。

4時間目、授業を受けるのも馬鹿らしくて屋上に向かった。
当たり前だが、誰もいなくて、俺はフェンスごしからグラウンドを見下ろした。
どこかのクラスがサッカーをしている。
俺はそれを見て元気だなと思いながらコンクリートに腰をおろした。

先ほど三時間目が終わるとすぐに担任に呼ばれた。
どうやら急に養父から俺宛てで学園の電話にかかって来たそうだ。
何事だろうと思いながら職員室に行き、その電話を受けると内容は残酷なものだった。

ようは、優羅が俺に構わなくなった事が養父の耳に入り、俺をいらなくなったと判断した養父は情けとして学園の卒業までは面倒を見るが、それ以降は一人で生きていけと言われた。
手切れ金と言えば聞こえは悪いが多少のお金も渡してくれるということだ。
俺は今二年だから、あと一年とちょっと。
そうしたら苦しい生活が終わるんだ。
何もかも忘れて、新たな人生を……。
不意に笑いが込み上げて、狂ったかのように笑うと、今度は涙が込み上げて来た。

やっぱり、俺はいらないんだ。



うずくまって泣いても何の意味もない。
自分を悲劇のヒロインになんてぶりたくはないけど、悲しいんだから仕方がない。

「……雫」

涙が止まらず、そのまま泣いていると屋上に誰かが入って来た。
顔を上げると、そこには桐が立っていた。
俺の涙を見て一瞬見開いたが、すぐに無表情になり、俺を抱きしめてきた。


「何で泣いてるんだ……どうしたんだ……」
「別に……桐こそどうして……サボるなんて珍しい」
「最近お前の様子がおかしかったから心配して探しに来たんだ」
「そんな……俺はいつも通りだ」
「嘘をつくな!ずっと俺はお前を見てきたんだ!!」

声を張り上げて、桐は抱きしめる腕が強くなり、痛みに眉を潜めた。
今更そんな事を言われても仕方がない。
第一、今は桐にはまったく関係ないのに、どうしてこんなに必至なんだろうかと、何処か他人事のように彼を見つめていた。

「お前が何かを悩んでいて、負担にならないようにお前の言う事はすべて聞いてやろうと思っていたんだが、やはりお前と別れるなんて嫌だ。お前が俺を頼ってくれるまで待つつもりだったんだ……だけどお前は俺から避けるばかりで……どうしたら俺を頼ってくれるんだ……」
「き、り……」

悲しむ元恋人に、俺は罪悪感を覚えた。
一度として誰かに頼らず、自分の中で自己完結してきた。

桐は色々待っていてくれていたんだと思う。

「ごめん、桐……ただ目にゴミが入って中々取れなくてさ。俺はいいから教室戻れよ。瑠璃も心配する。恋人のお前が不安にさせたら駄目だろ」

やんわりと桐を押しやり、どうにか俺は笑みを浮かべた。
しかし、桐は不審そうな顔を浮かべながらも俺をようやく離した。
そして首を傾げながら信じられない言葉をつげた。

「俺と瑠璃は恋人じゃない。そう言った噂があるようだが……」
「桐、ここにいたんだ」
「瑠璃、どうしてここに」

桐がなおも言い募ろうとすると、瑠璃が花が咲いたような笑みを浮かべながらはいってきた。
どうやら彼は桐を探しに来たらしい。
皆授業をさぼっているなと思いながら、そこで思考は中断された。

「……何で、雫が桐と一緒にいるの?」

先ほどまでの笑顔が嘘のように、歪んだ表情をした瑠璃がこちらに近づいて来た。
少しずつ近付いて来る人物が、普段自分が知っている人間ではなくて、恐怖を覚えた。
何故なら、今や花の美貌はなりを潜め、狂気を孕んでいた。その瑠璃の荒んだ瞳に見覚えがあったから。

そう、それは弟のものととても酷似していて…………

「何で、雫なんだろ?そんな平凡で、何の価値もない人間がどうしてこうも身分不相応に生きてるんだろう」

ぽつりぽつりと呟かれる言葉は静かに俺の胸に突き刺さって来た。

「桐も優羅くんも、雫の何処がそんなにいいの?僕の方が勝っているのに、何がいけないっていうんだ!!」

瑠璃の異変に桐も俺を抱き込み、緊張した面持ちで見つめていた。
じりじりと近づいて来た瑠璃は、最初から用意していたのか、いつの間にかカッターの刃を取り出してチキチキと最大限に出し切り、うっとりとした様子でその刃を眺めた。

「目障りで目障りで仕方がないんだよね」

今まで友人だと、まるで、優羅よりも本当の弟のような感覚で付き合っていた人物にそこまで疎まれていたいたのかと、再び涙が溢れ出て来た。

「涙なんか流して、何?同情引こうとしてるわけ?」
「瑠璃、お前……」
「桐こそ、どうしてそんな奴を庇おうとしてるのさ。僕がこんなに苦しんでるのに……!」
「……何をやっているんだ、てめぇら」
「会長……」

突如乱入してきた竜巳さんに、瑠璃は驚いたような顔をしてから、すぐに笑みを作り、竜巳さんの側に擦り寄った。

「実は……僕、友達だと思っていた人に好きな人を盗られちゃったんです」
「お前は確か……雫と一緒にいる……っ、何しやがる?!」
「また雫!?」

竜巳さんにしなを作っていたのも数秒で、俺の名前がでるや、持っていたカッターで竜巳さんに切り掛かった。
咄嗟の事とはいえ、何とか避けれた竜巳さんは、腕に切り傷を作るだけですんだのだが、目の前の瑠璃の豹変に驚きを隠せないようだった。

「もう死ねばいいよ、雫なんか」
「あんたが死ねよ」
「優羅くん!」

直接的には言われた事のない言葉を初めて言われて、俺は衝撃を受けた。
誰にも言われなかった最悪の選択肢。
それはとても俺には甘い一言に思えた。
しかし、やけに冷ややかな声がその考えをすぐに打ち消した。
死ぬのは駄目だと。
まだ、希望はあるはずだと。
何故、優羅が現れて希望なのかは分からなかったが、恐怖しかなかった俺に、僅かな安堵を与えた。

「瑠璃でしたっけ?ちょっと騒がれているからって調子に乗るのはどうかと思いますよ」
「何で?優羅くんは俺を好きだって、抱いてくれたじゃないか。キスだって……」
「あんた誰にだってねだってるでしょ。本当はあんたなんか相手するのも虫酸が走るのに。そもそも義兄さんに気持ち悪い妄想な嫉妬を向けさせないためにしてやったんだよ」

縋る口調の瑠璃にすげなく返す優羅は、呆然としている俺と桐に近付いて、引きはがした。
それから俺を自分の腕に閉じ込めると、ほっと息をついた。

「やっぱり落ち着く」
「あ……優羅」
「何?義兄さん」
「俺はいらないって……」
「うん、いらない。僕に怯える義兄さんも、僕の顔色を伺う義兄さんもいらない」

耳元で甘い口調で囁きながら優しく髪を撫でられて、俺は信じられないような心境で聞いていた。

「僕に普段他の人達と話すように会話して欲しいし、僕に笑いかけて貰いたいし、愛させて欲しい」
「優羅……」

甘い言葉に俺は何故か驚くのと半面、喜ぶ自分がいて戸惑いながらも、まさか、なんて頭の隅で考えて勇気を振り絞って聞こうとした瞬間、気を抜いていたためか瑠璃がカッターを振りかざしてきたのに気付かず、俺を庇った優羅の肩に突き刺さった。
あまりにも強い力で突き刺したのか、瑠璃の手が離れても肩にカッターが刺さったままだった。
優羅は鈍い痛みに顔を歪めながら、血で滲み始めた白いワイシャツを見て、瑠璃に鋭い視線を向けた。
瑠璃本人も優羅を傷つけてしまったことに、顔を青ざめて地面にへたりこんだ。

竜巳さんは無言で俺達に近付いて、まずは俺に怪我がないか確かめてから、優羅の腕にの状態を見ようとしていた。
桐も顔色が悪く、少し心配だった。

「何で、何で……!?どうして僕じゃないの?なんで雫なの?僕の方が勝っているのに、秀でてるのに、そんな、そんな屑が!!」
「おい、お前。それ以上雫をけなすなら、黙っちゃいねぇぞ」
「瑠璃、人は優劣で恋に落ちるんじゃない。お前はいつも自身に見合う人間を決めて、己に驕っていた。そんな上辺だけの人間が愛されようなんて無理な話しだ」

竜巳さんは低く唸るように言葉を放ち、桐は悲しそうな面持ちで告げた。
わなわなと震える瑠璃を、桐が屋上の入口まで連れていき、竜巳さんもそれについていった。
それを見送り、優羅はそのままだったカッターを抜きとった。
それから俺達はすぐに保健室に向かい、止血してから包帯を優羅の腕にまいた。
その間始終無言で、ちらりと優羅を見ると、あっちも見ていたのか視線が絡み合った。
先ほどの事を聞こうとしても、さっきとは違い勢いも何もない。
視線も何故か外せなくて、俺はどうしようかと慌てていた。

「義兄さん、今までしてきた事が許されるとは思ってない。こんなことを聞かれるなんて不愉快かもしれないけど、聞いて欲しい……」

真摯な瞳が俺を見つめてきた。
今まで見たことがない表情に、困惑しながらも黙って頷いた。

「僕はね、あの家に引き取られた時、凄く嫌だったんだ。僕の親戚筋に当たるし、本当の両親が僕を養子に出す時喜々として差し出したって聞いたよ。あの家で頂点に立てるんだから幸せだろうって。僕もね、結局両親に捨てられたんだ」

あまりの告白に息を呑む自分を、他人事のように思いながら、悲しそうに顔をふせた。

「だから、同じような境遇の義兄さんをもう一人の自分みたいに重ねて、いらついたんだ。全然違うのにね。本当は、義兄さんを見た時嬉しかったんだよ?血は繋がらないけど兄弟が出来るからさ。けど、僕が来た途端に義兄さんはほったらかしで、僕にばかりあの人達は構うようになって、まるで僕が義兄さんから奪ったように感じちゃって、そうしたら、義兄さんに見られるたび責められているように思うようになったんだ……」
「別に、俺は責めてない……!」
「うん、分かってる。僕の被害妄想だって。でも義兄さんは僕を避けてたから尚更感じたんだ。ねぇ、義兄さん」
「何、優羅……」
「覚えてる?僕達が会った日、澄み渡る蒼い空に綺麗な虹が出ていたんだよ。にわか雨があった後でさ」
「……覚えてるよ、あれから俺は蒼い空が好きになったんだから……初めて会ったからお互い緊張してたんだよな。ずっと虹が綺麗だ綺麗だって言ってたんだよな」

あまりのぎこちなさに、お互い何を話したらいいのか分からなくて、綺麗な空と綺麗な虹の話をずぅっとしていたんだ。
俺が微かに笑うと優羅も嬉しそうに笑ってくれて、あの後二人で手を繋いで帰ったんだ。

それがどこを間違ったのか捻れた関係に陥るなんて、その時は考えもつかなかった。

「僕に目が向けられる分、僕があの人達の代わりに義兄さんを愛してあげたかったんだ」

整った容貌から涙が零れた。
小さく小さく呟かれたごめんなさいという言葉は俺の傷付いていた心を少しだけ温かい気持ちにさせた。
そっと初めて自分から優羅を抱きしめた。
びくりと震える弟に、俺は笑みを零した。
俺も優羅も愛しかたも本当に愛され方も知らないから、仕方がないのかも知れない。
優羅はけしてしては行けないことをしたんだろうけれど、俺は目の前の人物に無性に許して上げたい衝動に駆られた。

「好きだったんだ。義兄さんが……」

縋る優羅の頭を優しく撫でて、俺はただ相槌をうっていた。

「なぁ、俺達やり直せないかな。お互いにちゃんと愛が与えあえるように」

俺がそう言うと、優羅は顔を上げてこちらを見てきた。

「義兄さん……」
「知らない者同士、欲しい事は分かってるんだからさ、その愛して欲しかった事をお互いにしあってみようよ」
「いいの?僕を許してくれるの?」
「何がいいかなんてまだ俺達には分からないだろう?許すも許さないも、これからだよ、優羅」
「義兄さん!義兄さん!」
「いた、痛いよ優羅」

強く抱き着いてくる優羅に俺は苦笑を浮かべた。

少しずつ愛を学んでいけばいいんだ。

二人で歩んでいけばいいんだ。


「優羅、俺もお前が好きだよ」



まずは、ちゃんと相手に伝える事が俺達の第一歩。









END





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