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狐々堂シリーズ 望まない住人
しおりを挟む望まない住人
「兄さん、兄さんお客さんだよ」
弟の恵太に呼ばれ、咲はふと自分がまどろんどいたことに気がついた。
袖を引かれ、目を開くと目の前に顔なじみが立っていた。この狐々堂(こんこんどう)は小さな小物を扱っている。しかしそれは表の姿で、実際は故あって妖等のお困り相談所だ。
だがそれを弟の恵太は知らない。
意図的に隠しているのも第一にあるが、恵太は普通の子であるはずだから、妖などと聞くと怖がってしまうだろう。
「よぉ、久しぶりだな咲。見ない内に腑抜けになりやがったな」
「何だ、翡翠か。何かようか」
古い付き合いである翡翠は、実はあまり咲は好きではない。すきあらば自分の命を狙い、さらには大切な恵太にまで手を出そうとしている不埒な輩である。だいたいに恵太は己の者であるというに、それを知りながらちょっかいかけるのが許せない。
「何だとはなんだ。せっかく俺様が直々に可愛い恵太を謀った奴を捕まえて来たというに」
「何?それを早く言え。それで、そいつはどこにいるんだい?」
「そこ」
指さした先にぐったりとした黒猫がいた。咲はどうしてやろうかと私案している最中に、何を思ったか、恵太がその黒猫に近寄った。くたりとして動く気配はなく、愛しげに抱き上げて撫でやる恵太に、咲は嫉妬を覚えた。
もはやあの黒猫はぎたぎたに切り裂くのは決定したも同然だった。
「兄さん。この黒猫飼おうよ。ねぇ、いいでしょう?」
とてとてと可愛いらしい音を立てながら黒猫を抱いたまま、近づいてくる恵太に、咲は顔を引き攣らせた。しかし、可愛い可愛い恵太のお願いを断れるわけがない。
甘い甘い咲は弟の我が儘を聞いたことがなかった。
だから思わず頷いた途端はっと気がついた時には遅かった。
喜ぶ恵太を尻目に、苦々しい表情を浮かべた。その隣でくつくつと笑いを堪える翡翠を八つ当たりとばかりに睨み付けた。
「何故人型で連れてこなかった。そうすれば……」
「八つ当たりは寄せよ。それより、恋敵がまた増えちまうかもなぁ。まあ、俺も恵太を諦めるつもりはないけどな。……それじゃ俺はもう行くぜ」
じゃあなと翡翠はそのまま店を出ていった。
かくして狐々堂に新しい住人ができた。黒猫が目を覚ましたとき、調度恵太が店番をしていて、こってりその家主に絞られたのは言うまでもない。
終幕。
後書き
狐々堂シリーズ第二段
2008.2.10
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