悪女と言うのは自由ですけど、双子のどちらか見分けられるようになってから悲劇のヒロインごっこをしてもらってもいいですか!?

Ray

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第三話

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 真実の愛に目覚めた恋人の片方が、クリム様? クリム様とルーチェの仲は冷めているけれど、だからと言ってルーチェも入学することが分かりきっている魔法学院で恋人なんて……。皇族の婚約者なのに。

「皇族の婚約者だからこそ、好いてもいない奴と結婚させられるからせめて学院にいる間だけでも好きにしたいってやつだとは思いますよ」

 周りは身分違いの恋と言うものに浮かれ、二人は愛し合っていると言うのに皇族との婚約のせいで結ばれることのない悲劇の恋人として見ているらしい。そして、クリム様の婚約者であるルーチェは、そんな二人を引き裂く悪女……。

「は? こっちが何度も言ってるのに破棄しないのあいつの家なのにこっちのせいにしないで欲しいんだけど。あんなゴミ願い下げよ」

 ルーチェは大変お怒りの様子で、普段抑えている魔力が溢れて周囲の気温が急激に低下し、窓ガラスが凍りつきます。ルーチェの魔法属性は【水】。特にルーチェは魔力で水を生み出したり、水の温度の上げ下げが得意で、熱湯を作ることから氷を作ることまでできます。ルーチェは怒ると無差別に凍らせるので、気をつけないとです。

「ルーチェ!」

 オルコス卿に下がるように言われるけれど、それを無視してルーチェに抱きつきます。ルーチェと私の魔力は双子なのもあり、とても馴染みやすいです。人それぞれ魔力は異なり、相性によっては反発して相手を傷つけることもありますが、さすが双子と言うべきか、驚くほど反発が起きません。昔は魔力が暴走しがちだった私にルーチェがやってくれてたので、やり方は分かってます。

「……ごめんなさい。つい」
「落ち着いた……?」

 私たち以外に人が居なくてよかったです。そうでなければ、入学早々に問題が起きるところでした。……まあ、こちらが起こさなくてもクリム様が起こしているようですが、あの方はあれです。ノーカン、と言うやつにしましょう。どうやらずいぶんと長いこと好き勝手してルーチェの評判を下げているようですしね。

「歓迎会が、始めるのは、いつ頃ですか?」
「十六時頃ですので、後四時間ほどあります」

 四時間もあるのなら、学院を見て回ることはできそうですね。魔法学院の歓迎会は基本的に制服だと言う話なので、ドレスに着替える必要もありません。学院のある程度の大きさや建物の位置を今日のうちに確認してしまいましょう。
 ルーチェはどうするか尋ねれば、暇だから付いてくるようです。学院は第一学年棟、第二学年棟、第三学年棟に分けられており、移動にはまあまあ時間がかかります。他には中庭、食堂、部室棟、図書館などがあり、全部を把握して覚えるのは時間がかかりそうです。図書館は旧図書館もあるようですが、敷地の端にあり、現在人は立ち入らないようです。そう言う人が立ち入らない旧い場所にこそお宝が眠っていると言うもの。魔法研究をしている端くれとして、非常に興味があります。大抵は私の見たいところを三人が付いてきてくれて、見たい場所、把握しておきたい場所はあらかた確認ができました。
 学院を回っているとあっという間に時間になり、そろそろパーティー会場に向かわなければいけません。三人を見てみると、オルコス卿は大丈夫そうですが、ルーチェとアイト卿は退屈そうにしています。二人とも、静かに見ているのは好きではないですもんね。私のしたいことに付き合わせてしまって申し訳ないです。そう言えば、シグニは大丈夫でしょうか。何度か準備をしている生徒の方は見ましたが、シグニは見てません。裏で仕事をしているんですかね?

「ルーチェ、ルシア」

 パーティー会場の入り口まで行けば、そこには約一年半ぶりに会うお兄様が居ました。歓迎会には顔を出すだろうと思っていましたが、まさかもう来ているとは。それに、何故入り口で待っているのでしょうか。中に入ってもいいはずでは。

「お久しぶりです。お兄様」
「お久しぶり、です……」

 急いで頭を下げれば、固くならなくて良いと言われます。顔を上げて、お兄様の方を見ると、オルコス卿とアイト卿と何やら話しています。はっきりと目の前で話していると言うのに聞こえない。アイト卿の魔法ですね。アイト卿の魔法属性は【風】。私たちの間に薄い風の壁を作り、音が漏れないようにしているのでしょう。
 それにしても、お兄様は相変わらず美形と言いますか、令嬢たちから大変人気なようです。周りにいる令嬢たちが見惚れています。カラスの羽のようにしっとりと艶のある黒色の長い髪を緩く一つにまとめており、瞳は漆を塗ったように黒く光沢があります。暗い中では見えにくいはずだと言うのに、お兄様の綺麗な黒ははっきりと映り、そこに居るのだとはっきりと分かるほどです。

「……セフィド公子が来たら入ろう」
「お兄様はご令嬢のエスコートはなさらないのですか?」
「問題ない。それに、エスコート相手ならばお前がいるだろう」

 お兄様は、クリム様のことを当然ですが知っておられるのですね。それなのにあえて放置していた。ルーチェがどう出るかを確かめたいのでしょう。少しすればシグニも来て、私はシグニと、ルーチェはお兄様と入場します。オルコス卿とアイト卿も護衛のため入るので、好奇心を孕んだ周囲の目がさらに集まります。耳を澄ませて見れば、「皇太子殿下が来るなんて」「この機会にお近づきになりたい」など、お兄様に関してが九割ほどです。やはりお兄様は人気です。残り一割はルーチェと私について。中でも気になるのは「あれが皇室の悪女?」「ヴェルメリオ様とペルクシム男爵令嬢を引き離そうとしてる」など、ルーチェに対するもの。誰も事実を確認しようともせず、ルーチェを悪と決めつけています。それに、ルーチェは皇族です。いくら聞こえないと思っていたとしても、大勢の人がいる場で話す内容ではありません。そもそもで他者を侮辱するなどもっての外ですが。
 
「ルシア、大丈夫?」
「……うん。大丈夫」

 人が多い場所に慣れていないので、まだ何もしていないと言うのに少し気分が悪いですが、この程度で終わらしてはダメです。ちゃんと、皇族としての仕事をしなければいけません。甘えてばかりでは、何もできない自分のままですから。


    
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