1 / 7
01
しおりを挟む緑豊かな大国エングストランド王国において、建国から続く歴史あるヴァレニウス公爵家。
大きな権力も豊かな資産も併せ持つ公爵家は、当然の事ながら筆頭公爵家を任されおり、その地位は揺るぎない。
過去幾度か王女を娶った事もあり、王族の血も混じっている。
先々代の当主が王女を娶った事もあり、血を薄める為に先代と今代は王族の血は入れない事としている。
次代をどうするか…であるが、今代の当主自身が政略の為の婚約にあまり乗り気でない為、王族と縁付く事は無さそうだ。
代々宰相職を務めるヴァレニウス公爵家、今代の当主も現宰相だ。
地位も権力も備えている為、これ以上を欲してないと語っているそうだ。
「お断りを。それに我が家が今代でまた王族と縁づくと、他家が黙っていないのではないですかな?」
「我が家もこの国の長い歴史の分ずっと身を粉にして宰相職を務めて参りましたが・・・
他家にも優秀な人材はおりますしね・・・寄る年波には勝てないのでしょうね、そろそろ引退の文字が頭を過ることも、あるかもしれません」
と不敵な微笑みを浮かべ王を権勢したという。
まだ三十代になったばかりの男盛りの年齢のヴァレニウス公爵が・・・? 絶対わざと言っている。
そこでひとつ信憑性の高い噂がある。
宰相である公爵が王を牽制したのは、第一王子の婚約者に公爵の娘をと望まれたからではないかと。
第一王女であれば「検討します」と言ったのではないかと言われていた。
ヴァレニウス公爵家の掌中の珠、宰相の最愛の娘を望んだ為に王は優秀な宰相の虎の尾を踏んだのではないか?と。
そんなヴァレニウス公爵の最愛の娘、長女オフィーリア・ヴァレニウス公爵令嬢。
とんでもない美貌を持つ美しい娘だそう。
まだ幼い幼女であるこの年齢から釣書が届くそうで、公爵が額に青筋を立てて私室の暖炉の火にくべているとかなんとか。
(事実は丁重なお断りの文を添えて手紙も何もかも根こそぎ全て送り返している。)
このお話は、父親を筆頭に周囲から愛され過ぎる令嬢の物語―――――
新しい朝が来た。
ほんの小さな虫にも、食物連鎖頂点の人間にも平等に朝はくる。
ヴァレニウス公爵家にも朝が――――
豪奢な天蓋付きベッドで健やかな寝息をたて眠るは、極上の美少女。
眩しい朝の光にも負けない輝きを放つ純金の様な黄金の髪は豊かに波打ちシーツに広がる。
髪と同色の長く濃い睫毛は整った形の添い彩る。
滑らかな白磁の様な肌が完璧な美を誇る人形のようであるが、それを否定するように色づき生気を宿すのは、薔薇色の頬と、その花びらを落としたような柔らかそうな紅い唇。
どこを切り取っても素晴らしく美しい容貌である。
娘を天使の生まれ変わりだと本気で信じてそうな娘バカが執着するのも同意せざるを得ない美貌がそこにある。
そんな幼い少女の瞼が震え、パチリとその瞳が開く。
髪と同じ鮮やかな黄金色の瞳を何度も瞬きする。
肌ざわりのいいシーツの上で大きな伸びをすると――――
「んーーーー。今日もいい朝ですわ・・・」
独り言を口にして、少女は驚いたように瞳を見開くとビシリと固まった。
―――ですわ・・・? 何この話し方・・・どっかのお嬢様みたいな・・・私の口から出たの?
「あーーーーー」
もう一度声を出す。
幼い声、砂糖菓子のような甘く高めの声は…絶対私の声じゃない。
どくどくと早まり始めた鼓動を抑えつけるように手で押した。
(夢? 夢の中で目覚めるというよく分かんない状態なの・・・?)
まさか・・・? いやでもそれは・・・疑問と否定を繰り返す。
疑問と否定のネタも尽きたころ、ようやくハッとして、慌てて起き上がり周りを見渡した。
(ここどこ・・・・・)
全く見覚えの無い部屋。
テレビで見たことはあるが日常の中で滞在するようなレベルの部屋ではない。
こんな部屋は外国旅番組などで紹介されるような代物だ。
ヨーロッパのお貴族様が代々受け継いで来ましたと紹介される城の一室の様な部屋だ。
何調・・っていうんだっけロココ調?
私の乏しい知識ではそれすらも適当だ。
それくらい身近にない雰囲気の室内だった。
でもさ、そもそも―――
「あれ・・・私何故ココに・・・?」
である。
寝る前の記憶を探ろうとして、突如激しい吐き気と目眩に襲われた。
身体を起こしている事も辛く、そろそろ体を横たえた。
吐き気を堪えていると、今度はまともに思考を保てない程の勢いで、数々の記憶で頭の中が満たされたのだ。
脳内をぐっちゃぐっちゃとかき混ぜられているような、ぐるぐるとした感覚。
「ふぅっっ・・・うぅ・・・きもちわるぃ・・・」
激しい吐き気は治まることなくますます酷くなる。
ベッドでは絶対に吐きたくない・・・けど、どこにお手洗いがあるかも分からない・・・
記憶が満たされると共にお手洗いの場所が分かったけれど、身体を起こせる力もない。
口を両手で抑え体を丸めた。
助けて・・・誰か・・・・
そして、私は意識を失った。
――――そんな究極の具合いの悪さから四日後経過。
あれだけ酷かった体調など一切感じず私はケロッと目を覚ました。
倒れる前のあの記憶の本流が落ち着いている。
あの時はもうひとつの記憶、所謂前世の記憶というモノだろうが、それだけが頭を占め、ただただ混乱するだけだった。
今は、前世と現世の記憶が融合して、頭の中で整頓された様だ。
前世の自分もちゃんと覚えているが、現世の自分の身分や教育など諸々もしっかりと頭の中にある。
眠った事で頭の中の記憶がいい感じに混ざったような、うまく共存してくれたようだ。
記憶が融合した事であの混乱が解消されたのはいいけれど・・・
いろいろ大変な環境だという事も思い出したのだった。
1
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
【完結】お察し令嬢は今日も婚約者の心を勝手にお察しする
キムラましゅろう
恋愛
ロッテンフィールド公爵令嬢オフィーリアは幼い頃に祖母に教えられた“察する”という処世術を忠実に守ってきた。
そんなオフィーリアの婚約者はこの国の王太子、エルリック。
オフィーリアはずっと、エルリックの心を慮り察することで彼の婚約者として研鑽してきた。
そんなある日、オフィーリアは王宮の庭園でエルリックと伯爵令嬢バネッサの仲睦まじい姿を目の当たりにしてしまう。
そこでオフィーリアは察したのだった。エルリックが真に妃として望むのはバネッサなのだと。
それを察したオフィーリアはエルリックのために婚約解消を決意するが……?
mixi2異世界恋愛作家部、氷雨そら先生主催の『愛が重いヒーロー企画』参加作品です。
完全ご都合主義。誤字脱字、ごめんあそばせ。
\_(・ω・`)ココ重要!テストデルヨ!
華麗なる表紙は、
作家のあさぎかな先生のコラージュ作品です✨
❤︎.*(ノ ˘͈ 。˘͈)ノᵕᵕ)╮アリガタヤー✨
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる