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第二章 婚約者はやり手。
第十話 誓いの婚約式。
しおりを挟む――――婚約式を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。
婚約式の舞台である大広間は、王族や貴族たちの視線で満ちている。
ざわめきは天井の高い空間を揺らし、人々の期待と好奇の入り混じった熱を孕んでいた。
ティアローザが入場すると、その場の空気が一瞬で変わった。
藍に染め上げられたドレスは彼女の白い肌を際立たせ、編み込まれた髪に散らされた真珠は星のようにきらめく。
「夜の女神」と讃えられたその姿に、ため息混じりの声が幾重にも重なった。
そして、その隣に立つルカリオンを見た途端、再びどよめきが広がる。
痩せて蒼白な彼の姿は、華やかな場に似つかわしくないと感じる者もいた。
だが、その眼差しは一点、ティアローザにのみ注がれて揺るぎなく――まるで彼女以外のすべてがルカリオンからは霞んで見えているかのようだった。
形式に従い、教皇が祝福の祝詞を口にし、王が二人を前に誓いの言葉を述べよと促す。
その後に続くのは、互いの誓いの宣言。
ティアローザは真っ直ぐにルカリオンを見据えた。
静かな広間に、彼女の澄んだ声が響く。
「わたくし、ティアローザ・ルシアンナは――いかなる時もルカリオン・コルベールと共にあり、ルカリオンと共にコルベールの地の繁栄に尽力し、ルカリオンだけを唯一とし、守り愛し続けることを誓います」
その言葉に、人々のざわめきがぴたりと止んだ。
姫が政のためではなく、ひとりの人として誓いを捧げたことを、誰もが悟ったのだ。
続いてルカリオンが前へ進み出る。
やせ細った肩を震わせながらも、彼の声は澄んでよく通った。
「我が名はルカリオン・コルベール。生涯をかけ、ティアローザ様をお守りし、その美しい魂と御身すべてを守り愛し抜くことを誓います。コルベールの地を共に盛りたてると共に、ティアローザ様が幸福が生涯に渡り続くよう約束します。
たとえ命を失おうとも――この誓いだけは揺るぎません」
真剣な声に、大広間が静寂に包まれる。
その一瞬、誰もが彼を“弱々しい公爵令息”ではなく、姫を守る誓いを立てた一人の騎士のように見た。
そして二人が互いの手を取り合った瞬間。
天井のステンドグラスから差し込んだ陽光が二人を包み込み、まるで天もその誓いを祝福しているかのようだった。
大広間に差し込んだ光が二人を照らし出す中、参列者たちは息を呑んでその姿を見つめていた。
最初は、痩せ細った公爵令息が姫の婚約者と聞き、失望や嘲りを抱いていた者も少なくなかった。
けれど今、ティアローザの真摯な誓いと、ルカリオンの揺るぎない眼差しと誓いを前に、その誰もが言葉を失っていた。
「……あれほどの決意を……」
「公爵令息が、あのように……」
囁きが次々に生まれ、やがて小さな拍手となって広がり、大広間を満たしていく。
それは祝福と共に、二人の誓いを確かに認めた証だった。
「ティアローザ・プルーストと、ルカリオン・コルベールの婚約の誓いを認め、プルースト国王の名の元において、二人の未来を寿ぎ、最上の祝福を与えよう」
国王の宣言後、パンッと破裂音がすると、大広間の天井から白と淡いピンク色の花びらが舞い降り注ぐ。
幾重にも重なり降り注ぐ花びらを見上げ、ティアローザが美しく微笑む。
ルカリオンはそのティアローザの微笑みに見惚れたように頬を染めた。
式典は厳かに幕を閉じた。
――そして。
人々の視線から解き放たれ、ティアローザとルカリオンは静かな回廊を並んで歩いていた。
夕暮れの光が差し込む窓辺、賑やかな祝宴のざわめきは遠く、ここにはふたりだけの時間が流れていた。
ティアローザは小さく息を吐く。
「……緊張いたしましたわ」
ルカリオンは、微笑を浮かべて彼女を見つめた。
「けれど……とてもお美しかったです。大勢の前で凛とした声で誓いを述べられるお姿に、私はまた深く心を奪われてしまいました」
その言葉に、ティアローザの胸が柔らかく温まる。
式典での誓いは形式に過ぎない――そう思っていた。
けれど今、こうして二人きりで言葉を交わすことで、本当の意味で互いの心が結ばれていくのを感じていた。
「……ルカリオン様」
彼女はそっと立ち止まり、彼の手を取った。
白い指先に触れた瞬間、ルカリオンの喉が小さく震える。
「わたくしは、幸せです。政ではなく、心で結ばれたことが。……本当に」
ルカリオンはその手を大切そうに包み込み、静かに頷いた。
「私もです。今日の誓いは、人々に向けたものではありません。……ただ、あなたにあなただけに向けたものですから」
夕陽が二人の影を長く伸ばし、寄り添うように重なっていった。
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