悪役令嬢の中身が私になった。

iBuKi

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第三十一話 便利な魔法。

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 翌朝、たっぷり寝たので元気に起床したリティシア。
 ユキとスノウはまだ眠っていたが、起きるまで待てずに揺さぶって起こす。

『『ふわぁ、おはよう、リティシア……ムニャムニャ』』
 リティシアのベッドに飛び乗りちょこんと座ったが、まだ眠いのかフラフラと揺れているユキとスノウ。

「今日の夜、深夜に冒険者ギルドに行ってみましょう!」
 深夜と訊いて、二匹は互いの顔を見合わせる。

『深夜は危なくないか?』
 ユキが不安そうにいう。
『んー、善良な人間は深夜にギルドに居ない気がするね。』

 二匹が心配するのも良く分かる。
 偏見ではなく、深夜に怖い人がうろうろしてるというのは、転生前の世界でもそうだったし。

「深夜と明け方と二つとも試してみたいんだよね。どちらが自分の生活のリズムに組み込み易いかなぁって。たまに行く訳じゃない頻度なら尚更比べてみたい。」

 少し考え込むように黙る二匹。

『ま、いいか。変なの居ても僕らがいるし。リティシアに何かしようものなら、消すよ消す消す。』

「け、消す?」
 スノウの物騒な言葉に思わず訊き返す。

『女神様のいとし子のリティシアに害を為すんでしょ? 消すよね?』
 なぁ? と同意を求めるようにユキに尋ねるスノウ。

『当然だ。』

 …何なのこういう時ばっかりやけに仲がいいんだから。
 二匹はうんうんと頷き合うのを見てリティシアは半目になった。

「じゃ問題ないってことで、今夜決行よ!」

『わかった。今夜だな』
『おっけー』



 深夜に屋敷を抜け出して街への道を行くのかと思っていたが、
 さぁ出発! の瞬間、スノウに『ちょっと待って』と止められる。

『リティシアと、ユキ。僕の身体のどこかに触れてて。』
『ああ、じゃあ遠慮なく』

「触れる……?」

 何? と思いつつ、スノウの頭に手をポフンと乗せる。
 ついでにちょっと撫でる。

『さぁ、行くよー!』
 と、スノウに掛け声をかけられたその後、ジェットコースターから降下する時の様なお腹がにぐぐっと来る感覚とぐらぐらした眩暈を感じて目をギュっと閉じた。

『着いたよ!』

 まだ目が回っているような感覚に、体がぐらぐらと揺れる。

『リティシア、すぐに動かないでいいから、僕にしばらく抱きついてていいよ。』
「ありがと…スノウ。着いたってどこに…?」
 ゆっくりしゃがんでスノウにぴったりとくっつきつかまる。

『ん、ギルドだけど。』
 スノウにしがみつく私にスノウが答えてくれる。

「えっ!?」
 閉じた瞼を開けて、周囲を見回す。


 少し手前の建物の影に移動したのか、少し離れた場所に数日前に見たギルドの建物が見えた。

「えっ、うそっ、なんで!?」
 驚くリティシアに腕の中にいるスノウは心なしか得意げだ。

『転移の魔法さ。僕は一度いった場所になら次は転移で移動する事が出来るんだよ! だから、ギルドに来たい時はすぐに来る事も戻る事も出来るんだよ!』

「これが転移魔法かぁぁ! 凄いよスノウ! …ん? あれでも、前回ギルドから屋敷に戻る時って徒歩だったような…?」

『ああー、あれ、ね。忘れてた。』
 子虎の顔には表情がないけれど、もし人化してたらテヘッと舌を出してそうな声だった。

 可愛いなスノウ…じゃなくて、転移魔法なんてファンタジーの中でも上位に入るやつ! そんな便利魔法を経験出来たなんてすごいよ!

 興奮覚めやらぬままに、少しでも時間ロスは痛いので、さっさとギルドに向かう。

 扉を開けると、そこは前回よりポツポツとしか人がおらず、静かだった。

 受付には一人だけ男性が立っていて、何かの作業をしている。

 依頼が貼りつけてあるボードに近づき、今日はモンスター討伐にしようと探す。
 …が、討伐系がない。

 うーむ…どうしよう。
 下から眺めてじっくり隅々まで探すけれど、私が受けられそうなランクの物はなかった。

 今日も採集か――――と思った所で、ガシャァァアン! とガラスが大量に割れる音がギルド内に響いた。

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