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第三十二話 酒は呑んでも呑まれるな。
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ガッシャァァン!!
ギルド内にガラスが粉砕される甲高く硬質な音が響き渡った。
物凄い騒音にリティシアの肩がビクンとひとつ飛び跳ねる。
ギュンっと心臓が苦しくなるほど締め付けられた後、全力疾走の後のように動悸が早い。
「……もういっぺん言ってみろ!!」
「もう、お前は終わりだって言ってんだよ。何度も言わせんなや」
背中越しからリティシアの耳へと届く会話から、怒号混じりに叫ぶ声、その後に相手を嘲ってバカにするような不快さが滲んだ声が続く。
厄介事の空気を感じて、リティシアは振り向くかどうか悩む。
このまま動かずに風景と化すのは可能だろうか。
幸いこちらに気付いていないようだ。
そもそもギルド内で起こったトラブルであるし、先程受付には男性職員が居たような気がする。
仲裁か、もしくはギルド内で争うのは止めて外でやれと追い出してくれるか。
あのガラスの音からしても、ギルド内の物を壊したんだろうし、弁償の上厳重に注意されるだろう。
チラリと受付へと視線を見遣り、アレ? と目線だけ動かし周囲を探す。
職員が居ない。
こんな音がしていたなら、受付からたまたま離れていたとしても、慌てて戻ってくるはずだが…。
あの音がしてから言い争う声までしているというのに、争っている二人以外の声がしていない。
( もしかしなくても逃げました? )
そんな気がした。
何て事だ…という事はこのままここで大乱闘も有り得るのではないだろうか。
動かないでやり過ごそうと思っているのに、このままではバレてしまいそう。
取り敢えず、この場から動いてギルドから一度出て、少し遠目から様子を伺いたい所なのに。
がなり立てるような言い合いに発展しているようだし、もっと酷くなってきたら感情的になって周囲の動きになんて注視しないだろう。
扉までの移動中に万が一バレて難癖でも付けられたら堪らないので、息を殺すようにして耳から入ってくる情報だけで様子を伺う。
「SランクどころかAランクすら成れない半端者が、俺をバカに出来ると思ってんのか? 売られた喧嘩は買って倍にして売りつける主義なんでね、お前が言うように俺が終わったのかどうか確かめさせてやるよ。さっさとギルドの外へ出ろ。たっぷり可愛がってやる」
「ハッ、口だけは強気だなぁ? 怪我で療養中だとか言ってるような腑抜け野郎にSランクは荷が重いんじゃねーか? さっさとギルドカードを返して隠居しろ。可愛がられるのはダレの話だ? どうみてもお前だろ?」
「てめぇ……!」
ひぃ怖い。
前世の性質の悪そうなチンピラしか使わなさそうな巻き舌でのドスの効いた声の応酬は心臓に悪い。
『弱い犬程よく吠えるっていうけどさ、ユキはどっちが勝つと思う?』
『俺は狼だ。スノウお前わざと弱い犬って言葉遣っただろう、俺はな誇り高き銀狼だぞ。犬と一緒にするな!』
『えぇー!? そんなつもりで言った事じゃないけどー? 怒るのは図星なの?
ねぇねぇ?』
『貴様………!』
ユキとスノウとの間にも喧嘩が勃発しそうなんですけど……勘弁して欲しい。
このまま静かにしていれば、相手が最高潮に感情的になった瞬間が逃げられるチャンスだというのに、目立つ行動取らないで欲しい。
飼い主の足引っ張ってどうするんだって話だ。
頭の中で念話をイメージしてユキとスノウに脳内に話しかける。
『ユキもスノウも止めて! 喧嘩されたらあの喧嘩してる二人にバレちゃうじゃないの!』
『あ、ごめん。そういう理由で動かず静かにしてたんだね、一緒に静かにするよ!』
『すまぬ、犬という言葉を使われるだけでバカにされてる気になってしまう。リティシアに迷惑をかけるつもりはなかった。本当に申し訳ない。』
『…分かればいいのよ、静かにしててね?』
『うん、わかった!』
『了解した……もうバレてる気がしないでもないが』
「なぁ、さっき、頭の中で声がしたんだが。お前は?」
「あ? さぁな、頭の中が気持ちわりぃ…」
「バッチリ聴こえてんじゃねーか。」
さっきまでの険悪な空気が消えて、少し落ち着いて会話しているような二人。
というか頭の中で声をしたって…まさか。
「ああ、深酒し過ぎたらしい。いつもの半分も今日は呑んでねぇけど…ちょっとばかし珍しい酒だって話だったからな、もしかして、あの酒呑むと幻聴が聴こえんのか?」
「なぁ、お前も俺も聴こえたんならよ、それは幻聴じゃなくないか?」
喧嘩してる場合じゃねーな! さっきまでの険悪さは何処へやら、さっきの会話から呑み過ぎて酔って絡んでただけ? 急に仲良くなった感じ。
酒に酔って喧嘩してたのかな。にしては応酬していた話は結構物騒だったけど。
ああ良かったって…
『ユキ、スノウ……さっきのって全部垂れ流してたんじゃないの!?』
『わかんない』
『スノウに犬と言われて苛々していたからな…』
『僕、犬ってハッキリいったっけ? 言ってなくない?』
また険悪な空気になってきた。
『ストップストーップ! 取りあえずギルドを出よう!依頼じゃなくてもただ魔物を狩るのは出来るだろうし、そのまま狩りに行こう!』
鬱憤晴らしに丁度良さそうだ、すぐに口げんかするからこの場に居るのは良くない。
―――その時、
「なあ、嬢ちゃん。こんな時間に外出てちゃあぶねーよ?」
肩にポンっと手を乗せられ、喧嘩していた男の人達のどちらかに話しかけられる。
ひえっ!
びくぅっと身体が飛び跳ねた。
恐る恐る振り返ると、目の前にはお腹。
お腹から視線をどんどん上げて行くにつれ、盛り上がる胸筋が見えさらに上を見ようと見上げるようと顔を上げて行く。
凄い身長差で近い距離だからなのか、このままでは顔まで見上げられない。
数歩後ろに下がってしっかりと顔を見上げると、顔の半分が髭で覆われた眼光鋭い男の人が見降ろしていた。
やば……見つかってる。
グルルルルッ!
キシャーーーッ!
ユキとスノウの威嚇する音が聴こえた。
いつもより凶暴さを増した威嚇音。
目の前には悪人面の大男。
面倒事の予感しかしない。
ギルド内にガラスが粉砕される甲高く硬質な音が響き渡った。
物凄い騒音にリティシアの肩がビクンとひとつ飛び跳ねる。
ギュンっと心臓が苦しくなるほど締め付けられた後、全力疾走の後のように動悸が早い。
「……もういっぺん言ってみろ!!」
「もう、お前は終わりだって言ってんだよ。何度も言わせんなや」
背中越しからリティシアの耳へと届く会話から、怒号混じりに叫ぶ声、その後に相手を嘲ってバカにするような不快さが滲んだ声が続く。
厄介事の空気を感じて、リティシアは振り向くかどうか悩む。
このまま動かずに風景と化すのは可能だろうか。
幸いこちらに気付いていないようだ。
そもそもギルド内で起こったトラブルであるし、先程受付には男性職員が居たような気がする。
仲裁か、もしくはギルド内で争うのは止めて外でやれと追い出してくれるか。
あのガラスの音からしても、ギルド内の物を壊したんだろうし、弁償の上厳重に注意されるだろう。
チラリと受付へと視線を見遣り、アレ? と目線だけ動かし周囲を探す。
職員が居ない。
こんな音がしていたなら、受付からたまたま離れていたとしても、慌てて戻ってくるはずだが…。
あの音がしてから言い争う声までしているというのに、争っている二人以外の声がしていない。
( もしかしなくても逃げました? )
そんな気がした。
何て事だ…という事はこのままここで大乱闘も有り得るのではないだろうか。
動かないでやり過ごそうと思っているのに、このままではバレてしまいそう。
取り敢えず、この場から動いてギルドから一度出て、少し遠目から様子を伺いたい所なのに。
がなり立てるような言い合いに発展しているようだし、もっと酷くなってきたら感情的になって周囲の動きになんて注視しないだろう。
扉までの移動中に万が一バレて難癖でも付けられたら堪らないので、息を殺すようにして耳から入ってくる情報だけで様子を伺う。
「SランクどころかAランクすら成れない半端者が、俺をバカに出来ると思ってんのか? 売られた喧嘩は買って倍にして売りつける主義なんでね、お前が言うように俺が終わったのかどうか確かめさせてやるよ。さっさとギルドの外へ出ろ。たっぷり可愛がってやる」
「ハッ、口だけは強気だなぁ? 怪我で療養中だとか言ってるような腑抜け野郎にSランクは荷が重いんじゃねーか? さっさとギルドカードを返して隠居しろ。可愛がられるのはダレの話だ? どうみてもお前だろ?」
「てめぇ……!」
ひぃ怖い。
前世の性質の悪そうなチンピラしか使わなさそうな巻き舌でのドスの効いた声の応酬は心臓に悪い。
『弱い犬程よく吠えるっていうけどさ、ユキはどっちが勝つと思う?』
『俺は狼だ。スノウお前わざと弱い犬って言葉遣っただろう、俺はな誇り高き銀狼だぞ。犬と一緒にするな!』
『えぇー!? そんなつもりで言った事じゃないけどー? 怒るのは図星なの?
ねぇねぇ?』
『貴様………!』
ユキとスノウとの間にも喧嘩が勃発しそうなんですけど……勘弁して欲しい。
このまま静かにしていれば、相手が最高潮に感情的になった瞬間が逃げられるチャンスだというのに、目立つ行動取らないで欲しい。
飼い主の足引っ張ってどうするんだって話だ。
頭の中で念話をイメージしてユキとスノウに脳内に話しかける。
『ユキもスノウも止めて! 喧嘩されたらあの喧嘩してる二人にバレちゃうじゃないの!』
『あ、ごめん。そういう理由で動かず静かにしてたんだね、一緒に静かにするよ!』
『すまぬ、犬という言葉を使われるだけでバカにされてる気になってしまう。リティシアに迷惑をかけるつもりはなかった。本当に申し訳ない。』
『…分かればいいのよ、静かにしててね?』
『うん、わかった!』
『了解した……もうバレてる気がしないでもないが』
「なぁ、さっき、頭の中で声がしたんだが。お前は?」
「あ? さぁな、頭の中が気持ちわりぃ…」
「バッチリ聴こえてんじゃねーか。」
さっきまでの険悪な空気が消えて、少し落ち着いて会話しているような二人。
というか頭の中で声をしたって…まさか。
「ああ、深酒し過ぎたらしい。いつもの半分も今日は呑んでねぇけど…ちょっとばかし珍しい酒だって話だったからな、もしかして、あの酒呑むと幻聴が聴こえんのか?」
「なぁ、お前も俺も聴こえたんならよ、それは幻聴じゃなくないか?」
喧嘩してる場合じゃねーな! さっきまでの険悪さは何処へやら、さっきの会話から呑み過ぎて酔って絡んでただけ? 急に仲良くなった感じ。
酒に酔って喧嘩してたのかな。にしては応酬していた話は結構物騒だったけど。
ああ良かったって…
『ユキ、スノウ……さっきのって全部垂れ流してたんじゃないの!?』
『わかんない』
『スノウに犬と言われて苛々していたからな…』
『僕、犬ってハッキリいったっけ? 言ってなくない?』
また険悪な空気になってきた。
『ストップストーップ! 取りあえずギルドを出よう!依頼じゃなくてもただ魔物を狩るのは出来るだろうし、そのまま狩りに行こう!』
鬱憤晴らしに丁度良さそうだ、すぐに口げんかするからこの場に居るのは良くない。
―――その時、
「なあ、嬢ちゃん。こんな時間に外出てちゃあぶねーよ?」
肩にポンっと手を乗せられ、喧嘩していた男の人達のどちらかに話しかけられる。
ひえっ!
びくぅっと身体が飛び跳ねた。
恐る恐る振り返ると、目の前にはお腹。
お腹から視線をどんどん上げて行くにつれ、盛り上がる胸筋が見えさらに上を見ようと見上げるようと顔を上げて行く。
凄い身長差で近い距離だからなのか、このままでは顔まで見上げられない。
数歩後ろに下がってしっかりと顔を見上げると、顔の半分が髭で覆われた眼光鋭い男の人が見降ろしていた。
やば……見つかってる。
グルルルルッ!
キシャーーーッ!
ユキとスノウの威嚇する音が聴こえた。
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目の前には悪人面の大男。
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