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第三章 クラウディアの魔力
閑話 シュヴァリエが反旗を翻すまで Ⅱ
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――そんな薄い情しか持たない正妃に罰が当たる。
皇帝が執着し、他国の王子の婚約者だった女を強引に奪って側室に迎えたのだ。
始めは大袈裟な噂だと誰もが思っていた。
婚姻の儀の祭壇前で待つ皇帝を見て、事実だと知る。
それ程に皇帝はあからさまに見惚れ、片時も側を離れなかったのだから。
クラウディアの母が側室として娶られると、当たり前だが正妃の機嫌は毎日のように悪くなる。
まして自分の時以上の寵愛が注がれていると知ればなおさら。
帝国程の大国ではないが、そこそこに大きな国の第一王女であった正妃は、側室を2人迎えられた事も屈辱的だというのに。
おまけにその側室は皇帝の深い寵愛を受け、正妃である己と比べても格上の眩い美貌を持っている。
儚げで可憐で愛らしい容姿の正妃、匂い立つ程の色気を漂わせ豊かな胸と細い腰と長い脚を惜しげも無く晒す側室。
正妃は二十歳で側室は十六歳だというのに、どう見ても側室の方が上に見える。
清廉な白い百合と大輪の赤い薔薇。
貴族達は事あるごとに2人を比べ優劣を語る。
己の子が次期皇帝で地位は盤石だというのに、何を焦るのか余裕のなくなった正妃はこの側室をとても厭ったが、厭われた側の薔薇の側室は気にも止めなかった。
皇帝が愛する者だけが勝利する戦いで、互いを貶めあう事に価値などない。
実りの無い事をする暇があるならば、己の容姿を磨いて媚びを売る方が現実的なのだ。
そういう所が余計に正妃の怒りを買っていたのだが。
2人の容姿に似た物が一切なければまだ良かったかもしれない。
正妃も側室2人も金の髪に青い瞳ばかりなのだから、顔の造形やスタイルの有無で優劣がハッキリしてしまうのだ。
皇帝が色狂いである為、政務の能力や貴族夫人達を纏める手腕、妃としての立ち居振る舞いなどは、寵愛に一切繋がらない。
金色の髪、水色の髪、翡翠色の髪、などなど様々に変わった髪色だったなら、それぞれに良さがある。
…と思えたのかもしれなかったが。
金髪に青い瞳が皇帝の好みの主軸なのだと嫌でも分かってしまうのだった。
皇帝には2人側室がいる。
婚姻から半年程度で迎えられた『面倒な正妃の仕事を分担して貰う役』の側室が。
その側室は、寵愛を一欠片も与えられず、初夜のみ義務的に皇帝が訪れ事を成したものの、
皇帝は事が済むと即座に部屋を退室し、慌ただしく正妃の元へと戻ったのだ。
たったの1夜すら寵愛を与えて貰えない側室に正妃は内心で嘲笑った。
その側室の容姿もやはり美しいが、正妃よりは劣る。
その事も正妃の自尊心をくすぐった。
恐れるに足らない名ばかりの側室に同情する者は多かったが、表立って口にする勇気のある者は居なかった。
シュヴァリエを出産しても愛妾通いを止めない。だが週に一度は必ず来てくれる皇帝。
愛妾の人数が多い事から寵姫と呼ばれる程にお渡りがある女もおらず。
最終的には、紙に番号を記しシャッフルした後、そのたくさんの紙の中から一枚を選び、記された番号を記入する。
そして、その番号が割り振られた愛妾の元へと翌日の夜に行くといった方法で相手を選び過ごしていたのだ。
つまり誰でもいいのである。
嫉妬する気も起こらなかった。
――そうクラウディアの母が側室として迎えられるまでは。
シュヴァリエが二歳になり、やがて三歳になった頃。
シュヴァリエがとても聡明だと気づいた者から皇帝に帝王学の早期教育をとの進言があり、皇帝は「好きにしろ」と許可を出した。
三歳になったシュヴァリエは帝王学の初歩を学ぶ傍ら、既に周りの大人達の会話を完全に理解していた。
《ぼくはあいされていないの? ぼくがすごくがんばったら、あいにきてくれる?》
正妃が自分の優位性に酔いしれてる中、親に愛されたいシュヴァリエは必死に優秀な皇子になるべく努力する。
元々が優秀というのに、さらに努力を重ねるとどうなるか。三歳とは思えない立ち居振る舞いや受け答えは、周りを驚嘆させた。
報告はされている筈だが、皇帝も正妃にも褒められる事もなく、会いに来てくれる事もない。
《まだまだ足りないのだな……もっともっとすばらしいおうじとしてどりょくしなければ》
両親が己しか愛せぬ自己中心的な人間だとは知れる程に交流を持っていないシュヴァリエは、自分の努力が足りないせいだと考える。
帝王学を学び始めて3年目。
次期皇帝として幼少時に必ず行われる指南がある。
毒殺は暗殺のポピュラーな方法の為、次期皇帝に指名されると必ずその毒指導が始まるのだ。
身体を毒に慣らす為に少量ずつ毒を服用して耐性を得る身体を作らなければならない。
その過酷で辛く下手すれば命すら危ういスレスレの毒指導が始まった。
毒指導は宰相が専任してシュヴァリエに指導した。
その傍らに学び続けている帝王学の教師は、六歳を期に更に優秀な教師が付き、たまに宰相からも毒とは他に外交に特化した特別な授業を受ける事となる。
毒を慣らす為の服用時は、宰相の優秀な息子が見守り役となりシュヴァリエ付きになった。
宰相の息子とは年が離れている為、側近候補にはならなかったが、それに近い関係ではある。
将来シュヴァリエが皇帝の座に座る時は、宰相の息子が宰相になっているからだ。
宰相の息子であるジオルド・ローデヴェイクは、毒の指導がなく見守る必要の無い時は父親の補佐をしている。
魔力の器に見合わない魔力量で体調を崩しがちだというのに、毒の指導まで入りシュヴァリエは何度か死にかけた。
毒の量は適正なのに、とても苦しむ第一王子を見てもそれが魔力の器のせいだとまで判断出来ない。
今までの王族の誰もが毒の慣らしの際、魔力関係で苦しんだ事が無かった為、前例がないのだ。
まだ六歳のシュヴァリエは属性鑑定も魔力鑑定もこれからだった。
誰もがシュヴァリエの魔力量が桁違いな事に気づいていない。
苦しんで苦しんで死にかけて、父も母も誰も助けてくれない。
幼いシュヴァリエは、自分を救えるのは自分だけなのだと認めるしか無かった。
皇帝が執着し、他国の王子の婚約者だった女を強引に奪って側室に迎えたのだ。
始めは大袈裟な噂だと誰もが思っていた。
婚姻の儀の祭壇前で待つ皇帝を見て、事実だと知る。
それ程に皇帝はあからさまに見惚れ、片時も側を離れなかったのだから。
クラウディアの母が側室として娶られると、当たり前だが正妃の機嫌は毎日のように悪くなる。
まして自分の時以上の寵愛が注がれていると知ればなおさら。
帝国程の大国ではないが、そこそこに大きな国の第一王女であった正妃は、側室を2人迎えられた事も屈辱的だというのに。
おまけにその側室は皇帝の深い寵愛を受け、正妃である己と比べても格上の眩い美貌を持っている。
儚げで可憐で愛らしい容姿の正妃、匂い立つ程の色気を漂わせ豊かな胸と細い腰と長い脚を惜しげも無く晒す側室。
正妃は二十歳で側室は十六歳だというのに、どう見ても側室の方が上に見える。
清廉な白い百合と大輪の赤い薔薇。
貴族達は事あるごとに2人を比べ優劣を語る。
己の子が次期皇帝で地位は盤石だというのに、何を焦るのか余裕のなくなった正妃はこの側室をとても厭ったが、厭われた側の薔薇の側室は気にも止めなかった。
皇帝が愛する者だけが勝利する戦いで、互いを貶めあう事に価値などない。
実りの無い事をする暇があるならば、己の容姿を磨いて媚びを売る方が現実的なのだ。
そういう所が余計に正妃の怒りを買っていたのだが。
2人の容姿に似た物が一切なければまだ良かったかもしれない。
正妃も側室2人も金の髪に青い瞳ばかりなのだから、顔の造形やスタイルの有無で優劣がハッキリしてしまうのだ。
皇帝が色狂いである為、政務の能力や貴族夫人達を纏める手腕、妃としての立ち居振る舞いなどは、寵愛に一切繋がらない。
金色の髪、水色の髪、翡翠色の髪、などなど様々に変わった髪色だったなら、それぞれに良さがある。
…と思えたのかもしれなかったが。
金髪に青い瞳が皇帝の好みの主軸なのだと嫌でも分かってしまうのだった。
皇帝には2人側室がいる。
婚姻から半年程度で迎えられた『面倒な正妃の仕事を分担して貰う役』の側室が。
その側室は、寵愛を一欠片も与えられず、初夜のみ義務的に皇帝が訪れ事を成したものの、
皇帝は事が済むと即座に部屋を退室し、慌ただしく正妃の元へと戻ったのだ。
たったの1夜すら寵愛を与えて貰えない側室に正妃は内心で嘲笑った。
その側室の容姿もやはり美しいが、正妃よりは劣る。
その事も正妃の自尊心をくすぐった。
恐れるに足らない名ばかりの側室に同情する者は多かったが、表立って口にする勇気のある者は居なかった。
シュヴァリエを出産しても愛妾通いを止めない。だが週に一度は必ず来てくれる皇帝。
愛妾の人数が多い事から寵姫と呼ばれる程にお渡りがある女もおらず。
最終的には、紙に番号を記しシャッフルした後、そのたくさんの紙の中から一枚を選び、記された番号を記入する。
そして、その番号が割り振られた愛妾の元へと翌日の夜に行くといった方法で相手を選び過ごしていたのだ。
つまり誰でもいいのである。
嫉妬する気も起こらなかった。
――そうクラウディアの母が側室として迎えられるまでは。
シュヴァリエが二歳になり、やがて三歳になった頃。
シュヴァリエがとても聡明だと気づいた者から皇帝に帝王学の早期教育をとの進言があり、皇帝は「好きにしろ」と許可を出した。
三歳になったシュヴァリエは帝王学の初歩を学ぶ傍ら、既に周りの大人達の会話を完全に理解していた。
《ぼくはあいされていないの? ぼくがすごくがんばったら、あいにきてくれる?》
正妃が自分の優位性に酔いしれてる中、親に愛されたいシュヴァリエは必死に優秀な皇子になるべく努力する。
元々が優秀というのに、さらに努力を重ねるとどうなるか。三歳とは思えない立ち居振る舞いや受け答えは、周りを驚嘆させた。
報告はされている筈だが、皇帝も正妃にも褒められる事もなく、会いに来てくれる事もない。
《まだまだ足りないのだな……もっともっとすばらしいおうじとしてどりょくしなければ》
両親が己しか愛せぬ自己中心的な人間だとは知れる程に交流を持っていないシュヴァリエは、自分の努力が足りないせいだと考える。
帝王学を学び始めて3年目。
次期皇帝として幼少時に必ず行われる指南がある。
毒殺は暗殺のポピュラーな方法の為、次期皇帝に指名されると必ずその毒指導が始まるのだ。
身体を毒に慣らす為に少量ずつ毒を服用して耐性を得る身体を作らなければならない。
その過酷で辛く下手すれば命すら危ういスレスレの毒指導が始まった。
毒指導は宰相が専任してシュヴァリエに指導した。
その傍らに学び続けている帝王学の教師は、六歳を期に更に優秀な教師が付き、たまに宰相からも毒とは他に外交に特化した特別な授業を受ける事となる。
毒を慣らす為の服用時は、宰相の優秀な息子が見守り役となりシュヴァリエ付きになった。
宰相の息子とは年が離れている為、側近候補にはならなかったが、それに近い関係ではある。
将来シュヴァリエが皇帝の座に座る時は、宰相の息子が宰相になっているからだ。
宰相の息子であるジオルド・ローデヴェイクは、毒の指導がなく見守る必要の無い時は父親の補佐をしている。
魔力の器に見合わない魔力量で体調を崩しがちだというのに、毒の指導まで入りシュヴァリエは何度か死にかけた。
毒の量は適正なのに、とても苦しむ第一王子を見てもそれが魔力の器のせいだとまで判断出来ない。
今までの王族の誰もが毒の慣らしの際、魔力関係で苦しんだ事が無かった為、前例がないのだ。
まだ六歳のシュヴァリエは属性鑑定も魔力鑑定もこれからだった。
誰もがシュヴァリエの魔力量が桁違いな事に気づいていない。
苦しんで苦しんで死にかけて、父も母も誰も助けてくれない。
幼いシュヴァリエは、自分を救えるのは自分だけなのだと認めるしか無かった。
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