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第三章 クラウディアの魔力
閑話 シュヴァリエが反旗を翻すまで Ⅳ
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大帝国ヴァイデンライヒ。
四季はあるにせよ暑すぎる事もなく寒すぎる事もないとても過ごしやすい気候は、ヴァイデンライヒの緑豊かな広大な領地を潤した。
魔力と武力に優れた並み居る猛者が在籍する騎士団を有し、各国から畏怖の眼差しが注がれる。
名君が治めた後の次代にも期待が寄せられた。
名君の後継が名君とは限らない、そして名君が父として優秀とも限らない。
次代は享楽的な傀儡王であった。
賢王であった父が崩御した後に引き継いだのは息子である愚王。
施政に何の興味も覚えず、国や民の行く末より今の享楽を優先し続けた結果。
優秀な騎士を他国に放出し、民の不満は今にも決壊せんばかりに膨張し、他国は間者を送り込み、帝国を取り込むべく手を回されつつある。
謀反が起きるのは必然的。
まして傀儡王の次代は賢王の素質がある。
年若過ぎるとしても、今の愚王よりはマシであった。
王座に全く興味が無い王弟が貢献として付き、次代の皇帝はシュヴァリエを旗印に動く事になった。
何の情をかけられる事もかける事もなかった父と母を斬首、腹違いの妹の母には毒杯を与えた。
粛清の場での母の恨み節に何ひとつ心動く事もない。
父は光を映さない瞳でへらへらと笑っていた。もしかしたら父はとうの昔に壊れていたのかもしれない。
傀儡王――とする為に。
粛清を終えた夜。
ふと腹違いの妹の事を思い出した。
毒杯を与えた側妃の娘。
「一緒に眠らせますか…?」
「いや、何もするな。」
と答えた。
幼い子供の命を奪うのは…と生ぬるい温情を覚えた訳ではない。
ただ何となく――残す事にした。
確か、年は5歳だったな――
寂れた離宮の一室に、妹は眠っていた。
謀反で慌ただしかったとはいえ、この小さな子どもには護衛さえ付けられていない。
室内も調度品も古びた作りで、本当にこの子供は父の娘なのかと疑いたくなる。
足音ひとつ立てずにベッドに近づき無言で見下ろす。
窓から月明かりが差し、寝台の上に広がる髪が淡く輝いている。
閉じられ瞼を彩る髪と同色の長い睫毛が丸い頬に影を落としている。
(この髪色は白金なのか…?)
膨大な魔力持ちを証明する己と同じ髪色を見つめ、シュヴァリエは驚いた。
同じ次代に白金持ちが2人も産まれた事は、ヴァイデンライヒ帝国の歴史上全く無かった事はないが、往々にして早逝だ。
殆どが三歳まで成長せずに亡くなっている。
5歳まで成長出来たのなら、シュヴァリエがサポートすれば安全に成長できるだろう。
(膨大な魔力と器の均衡を保ちながら様子を見てやらなければならないかもな。)
そんな事を考えていたら、妹がパチリと目を開けた。
薄暗い月明かりだけの室内では、見下ろした先に居る妹の瞳の色は分からなかった。
自分と同じではないのだろう事はわかる。
もし同じであったのなら、妹は生きていなかった筈だから。
シュヴァリエの母親にその命を握りつぶされていたに違いない。
見つめ合い続けてどれくらいの時間が経過しただろうか。
ぼんやりとした思考で見つめ合っていたが、今のこの状態はどう考えてもマズイのではないだろうか。
よくよく考えれば分かったというのに失念していたが…
妹からすれば不審者に室内に侵入された状態ではないのか。
私が兄とは妹は知らない。
これは夢だと思わせるべき――だよな?
魔法で眠らせる事にして、そっと妹の瞼に手を伸ばした。
そっと触れるとビクリと身体が跳ねる。
怖がらせたい訳ではないのに、こんな状態ではそれも仕方ない。
「…rest in peace…」
魔法を唱えると、ふっと溜息のような呼気が漏れ、すうすうと寝息が聞こえた。
「おやすみ」
と呟いて部屋から退室しようと転移魔法を展開する。
己の魔力の残照が残ってしまうが、この部屋付きはアンナの筈だ。問題ない。
魔法の展開を終え、発動すると共にシュヴァリエの姿が消えた。
後には穏やかな寝息のみとなった。
四季はあるにせよ暑すぎる事もなく寒すぎる事もないとても過ごしやすい気候は、ヴァイデンライヒの緑豊かな広大な領地を潤した。
魔力と武力に優れた並み居る猛者が在籍する騎士団を有し、各国から畏怖の眼差しが注がれる。
名君が治めた後の次代にも期待が寄せられた。
名君の後継が名君とは限らない、そして名君が父として優秀とも限らない。
次代は享楽的な傀儡王であった。
賢王であった父が崩御した後に引き継いだのは息子である愚王。
施政に何の興味も覚えず、国や民の行く末より今の享楽を優先し続けた結果。
優秀な騎士を他国に放出し、民の不満は今にも決壊せんばかりに膨張し、他国は間者を送り込み、帝国を取り込むべく手を回されつつある。
謀反が起きるのは必然的。
まして傀儡王の次代は賢王の素質がある。
年若過ぎるとしても、今の愚王よりはマシであった。
王座に全く興味が無い王弟が貢献として付き、次代の皇帝はシュヴァリエを旗印に動く事になった。
何の情をかけられる事もかける事もなかった父と母を斬首、腹違いの妹の母には毒杯を与えた。
粛清の場での母の恨み節に何ひとつ心動く事もない。
父は光を映さない瞳でへらへらと笑っていた。もしかしたら父はとうの昔に壊れていたのかもしれない。
傀儡王――とする為に。
粛清を終えた夜。
ふと腹違いの妹の事を思い出した。
毒杯を与えた側妃の娘。
「一緒に眠らせますか…?」
「いや、何もするな。」
と答えた。
幼い子供の命を奪うのは…と生ぬるい温情を覚えた訳ではない。
ただ何となく――残す事にした。
確か、年は5歳だったな――
寂れた離宮の一室に、妹は眠っていた。
謀反で慌ただしかったとはいえ、この小さな子どもには護衛さえ付けられていない。
室内も調度品も古びた作りで、本当にこの子供は父の娘なのかと疑いたくなる。
足音ひとつ立てずにベッドに近づき無言で見下ろす。
窓から月明かりが差し、寝台の上に広がる髪が淡く輝いている。
閉じられ瞼を彩る髪と同色の長い睫毛が丸い頬に影を落としている。
(この髪色は白金なのか…?)
膨大な魔力持ちを証明する己と同じ髪色を見つめ、シュヴァリエは驚いた。
同じ次代に白金持ちが2人も産まれた事は、ヴァイデンライヒ帝国の歴史上全く無かった事はないが、往々にして早逝だ。
殆どが三歳まで成長せずに亡くなっている。
5歳まで成長出来たのなら、シュヴァリエがサポートすれば安全に成長できるだろう。
(膨大な魔力と器の均衡を保ちながら様子を見てやらなければならないかもな。)
そんな事を考えていたら、妹がパチリと目を開けた。
薄暗い月明かりだけの室内では、見下ろした先に居る妹の瞳の色は分からなかった。
自分と同じではないのだろう事はわかる。
もし同じであったのなら、妹は生きていなかった筈だから。
シュヴァリエの母親にその命を握りつぶされていたに違いない。
見つめ合い続けてどれくらいの時間が経過しただろうか。
ぼんやりとした思考で見つめ合っていたが、今のこの状態はどう考えてもマズイのではないだろうか。
よくよく考えれば分かったというのに失念していたが…
妹からすれば不審者に室内に侵入された状態ではないのか。
私が兄とは妹は知らない。
これは夢だと思わせるべき――だよな?
魔法で眠らせる事にして、そっと妹の瞼に手を伸ばした。
そっと触れるとビクリと身体が跳ねる。
怖がらせたい訳ではないのに、こんな状態ではそれも仕方ない。
「…rest in peace…」
魔法を唱えると、ふっと溜息のような呼気が漏れ、すうすうと寝息が聞こえた。
「おやすみ」
と呟いて部屋から退室しようと転移魔法を展開する。
己の魔力の残照が残ってしまうが、この部屋付きはアンナの筈だ。問題ない。
魔法の展開を終え、発動すると共にシュヴァリエの姿が消えた。
後には穏やかな寝息のみとなった。
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