転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

iBuKi

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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

馬車内は春、外は冬。

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「出せ。」
「え? 出せ? 何を出せばいいのですか?」

 今まで隣に静かに座ってた人が突然話し出した言葉が「出せ」である。
 そして馬車内に居るのは私だけ。
 つまり、私に何か出せと……いう事、ですよね?

「お兄様、私、飴とか持ってないんですよね。何か口寂しい感じでしょうか……」

 シュヴァリエがキョトンとした顔でクラウディアを見る。

「出せ。と言ったのだが?」
「はい。何もありません。アンナならもしかしたら持ってるかもですけど、まだ来られないようですから。それより、いつ出発するんでしょうか?」

「……もう出発している。アンナは馬で移動している。」
「えっ? 出発してる? 動いてます……? 何も揺れを感じませんけど……」

「ああ、外と馬車の境界を遮断しているからな。これには結界魔法と時空魔法と守護魔法の重複魔法が必要で―――」
 複数属性を掛け合うには、魔術陣を重ねるように展開させて、合わさった陣に違和感があると発動しないから書き換えが必要で、それは魔術陣を細部まで完璧に再現出来てないと無理な話でうんたらかんたら―――

 うん、無理。

 昔から理数系はムリだった。
 魔術って絶対理数系強くないと無理だと思う。
 記憶力で丸暗記でカバーできるものもあるだろうけど、書き換えだとか複数だとか理論値的にはこうだとか言われても、チンプンカンプンである。

「お兄様、難解過ぎて凡庸な私の頭には理解が出来ません!」と、最早お経のように感じる語りを止めたい所であるが、常になく瞳をキラッキラさせて語るシュヴァリエを止めるのも忍びない。

「お兄様、流石です! 何重も魔術を重ねられるだけでも規格外でしょうに、それを全て同時発動であっさり展開させるなんて、きっとクルス魔術師団長も吃驚すると思います!」
 これはもう褒め殺ししてさっさと終わらせるしかない。
「やっぱりお兄様は凄いです。優しくて強くて頭も良くて、公務も政務もいつも努力されていますし、ほんのちょっとだけ物騒な時もありますけど、大体すぐ落ち着いてくれますし――――」
「…………」
「お顔も大天使様のようで神々しい以外の言葉が浮かびませんし、髪もサラサラ艶々で瞳も宝石のように輝いていて、あ、お兄様の瞳って朝焼けの色なんですよ知ってましたか? その朝焼けの景色が一番好きで、お兄様の瞳の色だと気付いたらもう毎朝早起きして見なくちゃって――――」
「…………」

 あれ、やけに静か……?

「お兄様?」
 前を真っすぐに向きながらペラペラ話していたけど、そういえばシュヴァリエが聞いてたかどうかまで見てない。
 何だか無言にさせる事には成功したようだけれども。

 隣にいる兄を確認すると、手を目元に当てて天を仰いでいた。

 ―――えっ?

「お兄様?」

 もう一度呼びかける。

「ハァ……身体が熱い。」

「えっ? 熱があるのですか!?」
 体調不良とか病気とか一生縁の無さそうな人なのに!

「違う。病気じゃないけど死にそうだ。」
「病気じゃないけど死にそうって病気ですよソレ! 大丈夫なんですか…っ、あ、アンナを呼ばないと、お兄様この外からの――――」

「ちょっと黙っててくれ」
 シュヴァリエはそう早口で言うと、クラウディアの口を片手で塞いだ。
「むぐ……お、ふいはま…」
「シーッ、静かにしてくれ。今、自分の中で色々と滾るものを落ち着けてるから。」
「ふぁひ……」

 そう返事をしたクラウディアの眼前にはとんでもない顔をしたシュヴァリエがいた。

 眦と頬を薄っすらと赤らめて、瞳は潤んでいる。
 ハァと時折吐き出す吐息を零す仕草もヤバイ、物凄い甘い空気。

(とんでもないド級の色気を………盛大に垂れ流されていらっしゃる)

 大天使かくやの美貌の少年の色気駄々洩れな姿はひたすらに艶めかしい。
 この状態のシュヴァリエを一目みた人達が、色気に当てられて血迷い、老若男女問わず道を踏み外してフラフラと襲ってきそうである。
 指先ひとつで返り討ちにされるだろうけど。

 シュヴァリエさんには早く落ち着いて貰わないと……。
 目的地に着いて馬車から降りる事にでもなったら、周囲を強制魅了するんじゃないのこの人。

 クラウディア自身もさっきから動悸が致死レベルになりそうな程速い。
 喉から心臓が飛び出るんじゃないかと、バックバック鳴っている。
 顔だって真っ赤であろう、もう頬が熱すぎてシュヴァリエの手が冷たいくらいだもの―――――

 いや、同じくらい熱いな。

「ああ、もう。ハァ……視察中にはもうあんな事は言うなよ? 城に戻ったらいくらでも言ってくれ。」

 まだ熱いな……とボソリと言いながら、シュヴァリエはクラウディアの口を塞いでいた手を外す。
 さっきほどではないが、眦も頬もまだ湯上り後のようにほんのりと赤い。

「ハイ、イイマセン。イゴ、キヲツケマス」
「何で片言なんだよ」
 笑いながらシュヴァリエがクラウディアの頬を軽く摘む。

「ヒイ、ヤメテクダサイ」
「ん、ディアも熱いな。やっぱり体調良くないのか?」
「イイエ、オニイサマ、ダイジョウブデス」

 手をクラウディアの額に当て熱を計る……が、良く分からなかったのか首を傾げた。
 そして次は額と額を当てようとクラウディアに顔を近づけて――――

「今コレはまずいか。我慢できる気がしない。」
 と呟いて、近づけようとした顔を元の位置へと戻す。

「休憩地点に着いたらアンナに看て貰え。我慢はするなよ?」
 そう言って、カッカッと熱くなる頬に両手を当てたクラウディアの頭をヨシヨシと撫でてくれたのだった。






 ―――― 一方その頃。

「身柄は確保した。次の休憩地点である街でこの者の処遇について陛下に指示を仰ごう。」

 ブリザードを吹き散らしながらマリーナの身柄を確保し、拘束した後に護衛騎士の乗る馬に縛り付けて移動している。
 緊縛、猿轡付きで。
 流石のアンナも不敬な手紙だけでも赦されそうになかったというのに、とうとう突撃訪問である。
 大商会の会長の孫とはいえ、平民である。
 皇女相手にする振る舞いではない。
 アンナのリミッターはとうに外れており、容赦がなくなってきている。

 緊縛して猿轡をされて馬に縛り付けられ、激しく上下に揺さぶられているマリーナは大量の涙を垂れ流している。
 猿轡から何か滴っているが胃液だとしても問題ない。

「予定時刻に間に合わせるぞ。急げ!」
 冷たい相貌を僅かに顰め、アンナは馬の腹を蹴った。
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