転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

iBuKi

文字の大きさ
78 / 110
第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

そうして余計なモノは排除されている。

しおりを挟む
 朝の支度の時間。

「ねぇ、アンナ、昨日言いそびれたんだけど……色々あって。
 昨日の朝、商会長の孫娘の方が私に会わせろって来ていたと思うのだけど、あれからあの人どうなったの?」

 素早く器用な手つきでクラウディアの美しい髪を編み込んでハーフアップにする。

「どなたですか? ああ、マリーン……マリーナ様でしたか。
 先日の朝そういえば不敬にも先触れもなく、いらしてましたね。
 どうなったというのかは存じませんね。
 休憩場所でもこの宿泊場所でも見かけていませんので、帰られたんではないでしょうか。」

 鏡に映るアンナの顔をジッと見るクラウディア。
 その視線を鏡越しに受けて、にっこりと微笑むアンナ。

「今日も姫様は一段と愛らしいですね。陛下から頂いた髪飾りもこちらの髪に差しておきましょうね。とってもお似合いですもの」
「うん……有難うアンナ」

 何ともしっくりこない気持ちを感じながら、それでもアンナに褒められる嬉しさに頬が染まり緩む。

「いつも可愛くしてくれて有難う」
 クラウディアがお礼を言えば、アンナもまた嬉しそうに頬を染めて「どういたしまして、姫様」と返すのだった。

 それはいつもの日常で、クラウディアもアンナがいうならそうなんだろうと違和感に蓋をした。

 クラウディアに降りかかる思惑は届く前に握りつぶされる。
 クラウディアがソレだと気付かないうちにクラウディアの世界は整えられ、
 平和な日常が恙なく続いてるように守っているのだ。
 過保護過ぎる重たい愛を持った兄を筆頭に。



 今日は視察先に着く一歩手前の街まで移動する。
 明日はいよいよ視察場所に到着する。
 朝食を済ませ、シュヴァリエのエスコートで馬車に乗る。

 昨日の色気駄々洩れ垂れ流しシュヴァリエを見てから、クラウディアは何だかおかしいのだ、心臓が。

 大天使を前にいつも興奮でドキドキしていたので、心臓が鳴るのはいつもの事なハズなのだけれど……。
 シュヴァリエと馬車で隣合って座る事だってよくある事なのだけれど……。

 何かこうシュヴァリエの一挙手一投足にキュンキュンしてたのが、今は目が合うだけでキュンキュンするのは変わらずだが、時折ギュッと心臓が握られてるような妙な感覚がする。

 その原因を探るけど、特に気になる事はない。
 あの色気駄々洩れだったシュヴァリエを思い出したら、自然と顔に熱が上がってくるけれど。
 それは、シュヴァリエが色気駄々洩れてたから仕方ない。
 あのシュヴァリエは最終兵器の戦意喪失歩くフェロモンだもん、仕方ない。

 そんなことを内心でうんうんと言い聞かせながら、シュヴァリエを横目でチラと確認してみる。

(――――!?)

 確認するだけに向けた視線が、ぴたりと視線が交じり合って驚いた。
 シュヴァリエがこちらをジッと頭ごと向けて見ていた。

 その表情は慈愛に溢れた優しい表情をしていて、大天使そのままである。
 合った視線を「私はたまたま見ていただけです」風にスッと逸らす。
 クラウディアの心臓は祭りで打ち鳴らされる太鼓の様に大きく激しく鳴った。

(なんで見てるのぉぉおお!? 何てタイミングでこっち見てるのよぉぉぉおお!)
 クラウディアは心の中で転げ回っている。

 目線をジッと前方に固定して、まだ見てるか確認はしない。
 また見ていて目が合ったらみっともなく共同不審となり狼狽してしまいそうだから。

(今日の休憩地点の街ではもう海産物はいいかな……そろそろ違うものを食べたいし)

 自分の思考を別に興味がある方へと誘導しながら、片頬に突き刺さっている気がする視線を無視する。

 食べたい物を色々思い出し、あれがあるかなこれがあるかなと思考を飛ばす。
 けれど、流石にネタも尽きてきた。

 相変わらず視線も感じる。

「お兄様、見すぎです。」
「もう考える内容が尽きたか?」

 ふてくされていうクラウディアに、シュヴァリエは笑みの含んだ声で突っ込む。

(何かバレてる)

「視察先はどのような所ですか。」
「そうか、無理矢理にでも話を変えたいか。いいだろう。可愛いお前に免じて付き合ってやる。」

「……お兄様」
 頬だけ染めた朱はもう顔全体にまで広がっている。
「ははっ、そう拗ねるな。余計に虐めたくなる」

「……っ。視察先はどのような所ですか。」

 何なんだ、何なんだ。
 私がおかしくなったのはシュヴァリエのせいではないのかと思ってくる。
 態度が何だか妙に変だから私がおかしくなったのではないだろうか!

 子供っぽい仕草だがふくれっ面になってしまう。

 そんなクラウディアの態度を見つめて、シュヴァリエはフッと破顔すると、クラウディアの耳元に唇を寄せ――――
「どんな所だと思う?」
 と、吐息交じりに囁いた。

「!?」

 サッと耳を抑え身体が無意識に座席の隅へと逃げてシュヴァリエから距離を取った。

「な、な、なにしてくれちゃってるんですか!?
 い、いくら、シスコンだっ、から、って!
 お兄様、そ、その行動は、妹に、する兄の態度ではありませんよ!」

 全身を沸騰しそうな程に染め上げて大声でシュヴァリエに抗議する。

 ギャンギャンと吠えるクラウディアを、甘やかすような表情で見つめるシュヴァリエ。

「そうだな。兄がする行動ではないな。
 これは意識させる為にやってる事だから、嫌がられても止めることはないな。」

「もう知りませんっ」
 もう何を言われても知らないで通すようにプイっと顔を逸らした。

 馬車の窓にべたりと身体を張りつかせ、限界まで距離を取るクラウディア。

 ふう、と吐息を零すシュヴァリエ。
 ちょっと急ぎ過ぎたか……? と思案する。
 まだ全てを知らないクラウディアには兄がするスキンシップにしては近すぎると思っているのかもしれない。

 シュヴァリエは、壁と同化しそうな程に張り付く様子を見て、少し落ち着く時間を与える事にした。
 内心では、どんどん俺を意識しろ、執着してくれ、と思いながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

攻略なんてしませんから!

梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです! 【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/ 閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。 此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。 *攻略なんてしませんから!別ルート始めました。 【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...