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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。
兄妹喧嘩……? 勘弁してください。マルセル side
しおりを挟むこちら、ヴァイデンライヒ帝国の皇帝が政務をされる執務室から、本日の陛下をマルセルがお届け致します。
寝起き一秒で完全覚醒されるらしい陛下(レイラン談)は、時間がある時や何か気になる事がある時はクラウディア皇女殿下の宮まで足を運び、陛下の宮の朝餐室までエスコートされ共に朝食を頂かれます。
時間がない場合は、皇女殿下の宮で摂られます。
時間が有る無しに関わらず、毎朝一緒に朝食の時間をお過ごしになられるという所は同じなのですが……
陛下の宮にて朝食を頂かれる場合……
陛下に「人に訊かれたくない話をクラウディア皇女殿下とする」事が目的である事です。
本日は陛下の宮にて朝食の時間を共に過ごされた後、こちらの執務室にお出でになられた陛下……
(ものすっごく不機嫌なんですけど! 誰かタスケテ!)
陛下が執務室に入室される前から、急に頭上から何かに圧されるような重たさがジワジワと伝わり始めまして。
「アレ? もしかして陛下ご機嫌宜しくない?」とは一瞬思ったのですが、この圧に少しでも抵抗出来る(呼吸が出来る)人員しか此処には配属される資格はないので、書類を運ぶ文官達等もそれなりに耐えられる人間が配置されているのです。
今、抵抗出来ている人員、以前は何日かに一度は嘔吐してましたからね。
陛下の執務室前に続く回廊とかで、陛下の執務室では何とか吐くのを我慢した者達が、ギリギリ持った場所がソコまででして。
ケロケロとする音がしてたものです。
最近はほぼ毎日のようにご機嫌で。
皆の職場環境が良くなったと喜んでいましたけど。
何かあったんでしょうね。ええ。
陛下が入室される際に直立不動でお出迎えさせて頂き、朝の挨拶をしたのですが。
いつもは「ああ、今日も宜しく頼む」と、(マルセル並に見慣れてないと見分けが付きにくい)ほんのり笑顔を向けてくれるんですけど。
いつも人外レベルの美しさだなーと思ってましたけど、今日は人外になってましたよね。無でしたから。
触らぬ陛下に祟りなしと、せめて仕事を早く済ませておこうと頑張っていましたが―――
慣れてる私でも、吐き気が込み上げてくる程の圧が放たれ始め。
もう、ちょっと、少し、新鮮な空気に、というか、陛下の圧から少し距離を……状態になってまして。
(皇女殿下と何があったんだーーーーー!!)
と心の中で叫びましたよ。
「陛下、少し席を外しても宜しいですか?」
気合いで吐き気の塊を喉から胃まで押し込み、許可を願いましたとも。
「ああ」
感情の全く感じられない平坦な声での許可でしたけど、それが余計に怖いというか……いや考えるのは止めましょう。許可は許可です。
不敬にならない程度の素早さで退室すると、真っすぐ宰相閣下の執務室へと向かいました。
その前に、皇女殿下専属のアレとレイランにも手紙を出しておく。
陛下の宮での朝食の席で室内に滞在する事を許されるのはアレとレイランだけだから。
他は全て人払いされると訊いている。
ハァ……。
まさか「お兄様なんてだいっきらい!」系の揉め事じゃないよな……。
そっち系だと、ものすっっっごく面倒な自体にしかならないんですけど……。
嫌な予感を感じつつ、その予感が絶対に外れるように、普段は忘れている神に祈りを捧げながら、宰相閣下の執務室へと向かったのだった。
本来であれば、先触れも無い状態での入室は、宰相閣下の執務室前に立っている騎士に自分の名を告げ入室の許可を得なければならない。
しかし、マルセルはフリーパスである。
陛下の最側近という事が大きいし、執務時間は宰相閣下の執務室と陛下の執務室をマルセルが出たり入ったりすることもあるからだ。
という訳で、先触れを送ってはいないがマルセルはアレスの執務室前へ到着後、扉前に立つ騎士は目視して頷き、各関係者ごとに使い分けている特別なノックで扉を叩いた。
室内側で待機していた騎士が扉を開け、マルセルを確認すると頷く。
いつもの遣り取りに、マルセルも頷き返し入室した。
執務机で仕事をいつものように凄いペースで捌いていたアレスの第一声が、
「陛下とディア関係でしょう?」と顔を上げる事なく断定する。
「陛下の魔力が凄い事になってます。私ですら吐き気が……何があったか分かりますか?」
情けない声でアレスに話すマルセル。
皇女殿下と喧嘩でもされたというのなら、甥を諫められるのはこの方しかいない。
「心当たりが在るような、無いような。しかし、その程度で……? とも思えるし。」
「どっちですか……死活問題なんですよ……」
情けない顔になっていたマルセルの顔が、その答えにますます情けなくなる。
「朝食の場に居たのは、手紙を出したあの二人でしょ? こちらへ来るように追加で私も手紙を出しておいたから。二人が来たら別室に移動して今朝の状況を話して貰おうか。」
いつもながら先手先手のアレスらしいやり口に、マルセルは頼もしさを感じて少しだけホッとする。
アレスが落ち着いているというのも安心材料になった。
マルセルは、少しだけ肩の力を抜くと、アンナとレイラン、二人の訪れを待つのであった。
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