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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。
クラウディアのセンスと仲直り?
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先触れを出して返事を待つ間、クラウディアの脳内でシュヴァリエは残念な事になっていた。
お兄様もまだ十三歳。
前世だと中学一年男子なのよね。
まだまだ子供の年齢よね、まぁ…この世界は十三歳くらいの姿って前世の高校二年くらいに見た目だけなら見えるんだけど……。
ゲームの世界観だとはいえ、ゲームで語られていない部分はしっかりシビアで、貴族も幼児の段階で熱心に教育されるらしいし、前世の十三歳よりはしっかりしていかざるを得ないのかもしれないけど。
商会を見学した時に見かけた小さな子供を見て驚いて尋ねた時は、既に商会で下働きから始めてるって商会の人に説明された。
平和ボケしてる国に住んでた私が知らないシビアな世界が前世にもあったのかもしれないけど、私がイメージする十三歳というのはまだまだ子供だった。
シュヴァリエなんて見た目は大天使美少年だけど、体付きは衣服に隠れているとはいえ戦士のように強靭だし、ムッキムキではないけど腹筋はバッキバキだろう。
エリアスみたいなセクシーな腹筋してるのかな……。
と、クラウディアは考えてしまい「兄を妄想のネタにするなんてはしたない!」と脳内一人突っ込みをする。
クラウディアがシュヴァリエのことを色々考えるうちに、先触れの返事が思ったよりずいぶんと早く届いた。
政務も今すぐなら落ち着いてるとの事。
なら今行くのがベストタイミングだなと思ったクラウディアは、即向かう事にした。
「お兄様の所に行きましょう。」
護衛二人と三人娘のうち二人を連れて月の宮を出るのだった。
三人娘全員連れて行かないのは、アンナが戻った時の伝言の為である。
――執務室の隣の休憩室。
二人の前のテーブルには、お茶と焼き菓子が用意された。
今からの仲直りの話し合いの為にしっかりと準備された焼き菓子。
少ない準備時間だったというのに、焼き菓子はクラウディアの大好きなフィナンシェである。
その気遣いに、クラウディアの機嫌は更に良くなったのは間違いない。
対面ではなく、ひとつのソファに隣り合わせで座る二人。
「お兄様、朝はごめんなさい。お兄様の事情も理解せずに怒ったりして。」
「……。ディアには叶わないな。俺も、悪かった。強引過ぎたのは反省している。ごめんな。叔父上とディアが急に仲良くなったから、その……」
素直に謝罪したクラウディアにシュヴァリエの態度も軟化する。
「分かってますわ、お兄様。朝のお別れの後はしばらく私も怒ってたんですけど、冷静に考えて色々気付けましたから。もう大丈夫です、何も心配なさらないで。」
「え、気付いた……?」
「ええ、お兄様は嫉妬なされていたのでしょう? 私と叔父様の事で。」
クラウディアに指摘されて、シュヴァリエの頬が薄っすらと染まる。
その染まった頬を見たクラウディアは「図星ですね」と、自分の推理が当たった事を確信する。
「嫉妬……ああ、そうだ。叔父上とディアが仲良くなったことに嫉妬していた。
ディアと呼ばせる事を許可した事にも苛立ったんだ。」
(そうでしょう。そうでしょう。)
クラウディアはうんうんと相槌を打ちながら、シュヴァリエに慈愛の篭った眼差しを向ける。
「ディアって呼ぶのは、俺だけの特権だろう? 叔父上に許可して欲しくなど無かったんだ。だってディアは俺のディアだから。」
シュヴァリエは切ない眼差しでクラウディアを見つめ、小さな手を自分の両手で優しく包んだ。
クラウディアは少し「ん…?」と引っかかりを覚えるが、その引っかかりを追求する事はない。
「それは申し訳ない事をしました。叔父様には違う呼び名にして貰います。
そしてお兄様の事は叔父様には“ヴァリー”と呼んで貰いましょうね。」
「そこでどうして叔父上が俺の事を“ヴァリー”と呼ぶ事になるのだ?」
クラウディアの謎発言に、シュヴァリエが久しぶりにキョトンとした表情になる。
「お兄様は寂しかったんですよね。私、それに気づかなくてごめんなさい。
ずっと叔父様にお兄様は守られて仲良く過ごして来た所に、姪の私がしゃしゃり出てきたんですもの、それは寂しくなると思います。」
「守られて仲良く……? しゃしゃり……?」
クラウディアの言葉を反芻するシュヴァリエ。
「私、お兄様を寂しがらせるつもりなど一切ありませんよ。もちろん、仲間外れになんて絶対に致しません。嫉妬される事など全くないのですからね。あ、でも……私もお兄様を“ヴァリー”とお呼びしてもいいですか? お二人だけ親しい呼び名だなんて私だけ仲間外れは嫌です。それとも、ヴァリーは叔父様だけの呼び名にして、私は別のを考えましょうか。ああでも、お兄様の名前って渾名付けづらいんですよね。どうしましょう。」
「いやマテ。そもそも叔父上が何故に俺をヴァリーと呼ぶ必要が?」
シュヴァリエはクラウディアの言いたい事が謎過ぎて一欠片も理解出来ない。
これに関してはどこまでも噛み合わない二人。
「“シュー”っていうのは何だかいい響きではない気がするわ。では“リエ”? でも、それはなんだか(前世での)女の子みたいな呼び名よね……」
シュヴァリエの問いかけは、新しい渾名をああでもないこうでもないと考える事でいっぱいのクラウディアにはひとつも届かないし聞こえていない。
そのことに気付き、脱力したようにガックリと肩を落とすシュヴァリエ。
とりあえず一度落ち着こうとティーカップを手に取りお茶を口にした。
「お兄様! シュヴァティーってどうですか? 」
「……ぐっ、それは、やめてくれ。」
シュヴァリエは落ち着く為に口に含んだお茶を吹き出すところを寸でのところで飲みこみ、即座に否定する。
シュヴァティーってなんだソレはと混乱した。
「叔父上はそのようなぬいぐるみにでも付けるような呼び名で俺を呼ぶ事はない!」
「大丈夫です! 私の事も渾名で呼んでいいかって訊いて下さるくらいですから、お兄様の渾名を知れば呼んでいいかって仰って下さいます。安心してくださいね」
「安心出来る未来が全く見えないのだが」
「もうお兄様ったら。私に任せて下さい。」
頬を膨らませてクラウディアがシュヴァリエを諭す。
「任せるのが怖い。」
「大丈夫です。私がちゃんとお膳立てします!」
「……何も伝わらない時の対処の仕方が分からないな。どうでもいい存在なら首をはねるだけで済むのだが……」
小声でぼそぼそと物騒なことを口にするシュヴァリエ。
シュヴァリエは経験のない感情を落ち着かせるように、息をひとつ吐き出した。
ちょっとした尊厳の危機にあるとシュヴァリエは察している。
何一つとして理解出来ていないが、取り敢えずこれはクラウディアに任せたら大変な事になるという事だけは理解した。
「ディア、叔父上に渾名の事を話すタイミングは俺に任せてくれないか? 叔父上も俺と直接的に顔を見ながら話し、どの呼び名がしっくりくるか決めたいだろう? 俺を……あー、ヴァリーと、シュヴァティー……だったか。そのどちらかにするかもしれないし、しないかもしれない。正直、別の呼び名がいいと言われるかもしれない。結局、俺を渾名で呼ぶのはしっくり来ないかもしれない。それを決めるのは俺でもなく、ディアでもない。呼ぶ側の叔父上だろう? だから、俺に任せてくれ。いいね?」
怒涛のプレゼンをシュヴァリエに仕掛けられたクラウディアは、得体の知れぬ圧を感じて「わかりました」以外の答えは許されないと感じた。
シュヴァリエは、絶対にこの渾名を叔父上に呼ばせる訳にはいかないと決意する。
クラウディアはシュヴァリエの機嫌は治ったよね……? と何となく感じつつ、目の前で美味しそうにクラウディアに食べられるのを待っているフィナンシェをひとつ手に取り口に運ぶ。
その甘さとバターの香りを堪能しながら、仲直り出来た事が嬉しくてフィナンシェも美味しくて。思わず顔がフニャフニャっと蕩ける笑顔になるのだった。
隣でそんなクラウディアを見つめるシュヴァリエは、思わずクラウディアの頭に手を伸ばし前髪を梳くように撫でる。
優しくその柔らかな髪を撫でながら、クラウディアの先触れが届く前に感じていた暗澹とした黒い気持ちが癒され落ち着いていくのを感じる。
クラウディアがこんなに大きな存在になるとは、あの闇夜の中で妹の存在を見に行った時には想像もしなかった。
誰にも渡したくない。
誰の特別にもしたくない。
自分だけの特別。
そういう思いばかりが浮かぶ。
自分でも厄介だと思うのに、これを全て思うがままにクラウディアにぶつけたとしたら……。
きっと酷く怖がらせてしまうだろうと、内心で苦く思うのだった。
我慢するのは得意じゃない。
だが、クラウディアの全てを手に入れたいのなら、ソレを覚えなければいけないのだろう。
少しずつ、少しずつ。クラウディアの心に俺が浸食していくように。
ある日クラウディアが気付く日が来ても、すべて俺の色に染まりきったあと。
お兄様もまだ十三歳。
前世だと中学一年男子なのよね。
まだまだ子供の年齢よね、まぁ…この世界は十三歳くらいの姿って前世の高校二年くらいに見た目だけなら見えるんだけど……。
ゲームの世界観だとはいえ、ゲームで語られていない部分はしっかりシビアで、貴族も幼児の段階で熱心に教育されるらしいし、前世の十三歳よりはしっかりしていかざるを得ないのかもしれないけど。
商会を見学した時に見かけた小さな子供を見て驚いて尋ねた時は、既に商会で下働きから始めてるって商会の人に説明された。
平和ボケしてる国に住んでた私が知らないシビアな世界が前世にもあったのかもしれないけど、私がイメージする十三歳というのはまだまだ子供だった。
シュヴァリエなんて見た目は大天使美少年だけど、体付きは衣服に隠れているとはいえ戦士のように強靭だし、ムッキムキではないけど腹筋はバッキバキだろう。
エリアスみたいなセクシーな腹筋してるのかな……。
と、クラウディアは考えてしまい「兄を妄想のネタにするなんてはしたない!」と脳内一人突っ込みをする。
クラウディアがシュヴァリエのことを色々考えるうちに、先触れの返事が思ったよりずいぶんと早く届いた。
政務も今すぐなら落ち着いてるとの事。
なら今行くのがベストタイミングだなと思ったクラウディアは、即向かう事にした。
「お兄様の所に行きましょう。」
護衛二人と三人娘のうち二人を連れて月の宮を出るのだった。
三人娘全員連れて行かないのは、アンナが戻った時の伝言の為である。
――執務室の隣の休憩室。
二人の前のテーブルには、お茶と焼き菓子が用意された。
今からの仲直りの話し合いの為にしっかりと準備された焼き菓子。
少ない準備時間だったというのに、焼き菓子はクラウディアの大好きなフィナンシェである。
その気遣いに、クラウディアの機嫌は更に良くなったのは間違いない。
対面ではなく、ひとつのソファに隣り合わせで座る二人。
「お兄様、朝はごめんなさい。お兄様の事情も理解せずに怒ったりして。」
「……。ディアには叶わないな。俺も、悪かった。強引過ぎたのは反省している。ごめんな。叔父上とディアが急に仲良くなったから、その……」
素直に謝罪したクラウディアにシュヴァリエの態度も軟化する。
「分かってますわ、お兄様。朝のお別れの後はしばらく私も怒ってたんですけど、冷静に考えて色々気付けましたから。もう大丈夫です、何も心配なさらないで。」
「え、気付いた……?」
「ええ、お兄様は嫉妬なされていたのでしょう? 私と叔父様の事で。」
クラウディアに指摘されて、シュヴァリエの頬が薄っすらと染まる。
その染まった頬を見たクラウディアは「図星ですね」と、自分の推理が当たった事を確信する。
「嫉妬……ああ、そうだ。叔父上とディアが仲良くなったことに嫉妬していた。
ディアと呼ばせる事を許可した事にも苛立ったんだ。」
(そうでしょう。そうでしょう。)
クラウディアはうんうんと相槌を打ちながら、シュヴァリエに慈愛の篭った眼差しを向ける。
「ディアって呼ぶのは、俺だけの特権だろう? 叔父上に許可して欲しくなど無かったんだ。だってディアは俺のディアだから。」
シュヴァリエは切ない眼差しでクラウディアを見つめ、小さな手を自分の両手で優しく包んだ。
クラウディアは少し「ん…?」と引っかかりを覚えるが、その引っかかりを追求する事はない。
「それは申し訳ない事をしました。叔父様には違う呼び名にして貰います。
そしてお兄様の事は叔父様には“ヴァリー”と呼んで貰いましょうね。」
「そこでどうして叔父上が俺の事を“ヴァリー”と呼ぶ事になるのだ?」
クラウディアの謎発言に、シュヴァリエが久しぶりにキョトンとした表情になる。
「お兄様は寂しかったんですよね。私、それに気づかなくてごめんなさい。
ずっと叔父様にお兄様は守られて仲良く過ごして来た所に、姪の私がしゃしゃり出てきたんですもの、それは寂しくなると思います。」
「守られて仲良く……? しゃしゃり……?」
クラウディアの言葉を反芻するシュヴァリエ。
「私、お兄様を寂しがらせるつもりなど一切ありませんよ。もちろん、仲間外れになんて絶対に致しません。嫉妬される事など全くないのですからね。あ、でも……私もお兄様を“ヴァリー”とお呼びしてもいいですか? お二人だけ親しい呼び名だなんて私だけ仲間外れは嫌です。それとも、ヴァリーは叔父様だけの呼び名にして、私は別のを考えましょうか。ああでも、お兄様の名前って渾名付けづらいんですよね。どうしましょう。」
「いやマテ。そもそも叔父上が何故に俺をヴァリーと呼ぶ必要が?」
シュヴァリエはクラウディアの言いたい事が謎過ぎて一欠片も理解出来ない。
これに関してはどこまでも噛み合わない二人。
「“シュー”っていうのは何だかいい響きではない気がするわ。では“リエ”? でも、それはなんだか(前世での)女の子みたいな呼び名よね……」
シュヴァリエの問いかけは、新しい渾名をああでもないこうでもないと考える事でいっぱいのクラウディアにはひとつも届かないし聞こえていない。
そのことに気付き、脱力したようにガックリと肩を落とすシュヴァリエ。
とりあえず一度落ち着こうとティーカップを手に取りお茶を口にした。
「お兄様! シュヴァティーってどうですか? 」
「……ぐっ、それは、やめてくれ。」
シュヴァリエは落ち着く為に口に含んだお茶を吹き出すところを寸でのところで飲みこみ、即座に否定する。
シュヴァティーってなんだソレはと混乱した。
「叔父上はそのようなぬいぐるみにでも付けるような呼び名で俺を呼ぶ事はない!」
「大丈夫です! 私の事も渾名で呼んでいいかって訊いて下さるくらいですから、お兄様の渾名を知れば呼んでいいかって仰って下さいます。安心してくださいね」
「安心出来る未来が全く見えないのだが」
「もうお兄様ったら。私に任せて下さい。」
頬を膨らませてクラウディアがシュヴァリエを諭す。
「任せるのが怖い。」
「大丈夫です。私がちゃんとお膳立てします!」
「……何も伝わらない時の対処の仕方が分からないな。どうでもいい存在なら首をはねるだけで済むのだが……」
小声でぼそぼそと物騒なことを口にするシュヴァリエ。
シュヴァリエは経験のない感情を落ち着かせるように、息をひとつ吐き出した。
ちょっとした尊厳の危機にあるとシュヴァリエは察している。
何一つとして理解出来ていないが、取り敢えずこれはクラウディアに任せたら大変な事になるという事だけは理解した。
「ディア、叔父上に渾名の事を話すタイミングは俺に任せてくれないか? 叔父上も俺と直接的に顔を見ながら話し、どの呼び名がしっくりくるか決めたいだろう? 俺を……あー、ヴァリーと、シュヴァティー……だったか。そのどちらかにするかもしれないし、しないかもしれない。正直、別の呼び名がいいと言われるかもしれない。結局、俺を渾名で呼ぶのはしっくり来ないかもしれない。それを決めるのは俺でもなく、ディアでもない。呼ぶ側の叔父上だろう? だから、俺に任せてくれ。いいね?」
怒涛のプレゼンをシュヴァリエに仕掛けられたクラウディアは、得体の知れぬ圧を感じて「わかりました」以外の答えは許されないと感じた。
シュヴァリエは、絶対にこの渾名を叔父上に呼ばせる訳にはいかないと決意する。
クラウディアはシュヴァリエの機嫌は治ったよね……? と何となく感じつつ、目の前で美味しそうにクラウディアに食べられるのを待っているフィナンシェをひとつ手に取り口に運ぶ。
その甘さとバターの香りを堪能しながら、仲直り出来た事が嬉しくてフィナンシェも美味しくて。思わず顔がフニャフニャっと蕩ける笑顔になるのだった。
隣でそんなクラウディアを見つめるシュヴァリエは、思わずクラウディアの頭に手を伸ばし前髪を梳くように撫でる。
優しくその柔らかな髪を撫でながら、クラウディアの先触れが届く前に感じていた暗澹とした黒い気持ちが癒され落ち着いていくのを感じる。
クラウディアがこんなに大きな存在になるとは、あの闇夜の中で妹の存在を見に行った時には想像もしなかった。
誰にも渡したくない。
誰の特別にもしたくない。
自分だけの特別。
そういう思いばかりが浮かぶ。
自分でも厄介だと思うのに、これを全て思うがままにクラウディアにぶつけたとしたら……。
きっと酷く怖がらせてしまうだろうと、内心で苦く思うのだった。
我慢するのは得意じゃない。
だが、クラウディアの全てを手に入れたいのなら、ソレを覚えなければいけないのだろう。
少しずつ、少しずつ。クラウディアの心に俺が浸食していくように。
ある日クラウディアが気付く日が来ても、すべて俺の色に染まりきったあと。
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