箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

文字の大きさ
18 / 338
世話焼き侍従と訳あり王子 第二章

2-2 始まりは一粒の種

しおりを挟む
 そんなエリオットに花を育てようと提案したのは、祖父のマイルズだ。
 セラピーのつもりだったのかもしれない。人を怖がってベッドからもろくにおりられない孫に一粒の種を与え、窓際に土を入れたポットを置いた。芽を出したら水をやって、ポットが狭くなってきたら鉢植えに移し、新しい種をまたポットに植える。

 水と太陽の光だけでにょきにょきと伸び、それでいて近くで見つめる人間のことなど眼中にない。エリオットは物言わぬグリーンの虜になった。箱庭を思い出させる植物の生命力が、心の回復を助けたのだろう。窓辺にはどんどん鉢植えが増えていき、やがて「花壇を作ろうか」と誘われたのをきっかけに、屋敷の外に出ることができた。

「この花壇はお前の国で、お前は王だ。どんな花を植えてもいい。でもきちんと手入れをしてやらなければいけないよ。植物の召使になれる者しか、花壇の王になってはいけないからね」

 マイルズはそう言って、屋敷の玄関前にあった大きな花壇をエリオットの自由にさせてくれたのだ。

 自分の「国」を手に入れてから、エリオットは少しずつ世界を広げた。
 広大な庭園を管理していた庭師に植物の世話を習い、使用人とも会話ができるようになった。王宮へは戻れなかったけれど、花の研究を始めて、成人を機に都心のフラットで一人暮らしをするまでになった。屋上に作った庭園は、王宮の箱庭を模した新しい国だ。

 温室の隣に建てたプレハブの作業小屋へ入ると、エリオットは作業台にあった軍手をつけた。換気扇の音が響く室内はそんなに広くない。壁に作り付けた棚にはノートや書籍。この棚を机代わりに立ったまま書いたり読んだりするので、椅子は置いていない。道具箱が載った作業台、そして一段ずつにLEDランプが設置された、丈夫なラックが面積の半分ほどを占めている。自然光が入りづらい環境でも、十分な光を植物に与えることができる優れものだ。

「よいしょ……と」

 一番上のラックからトレーを引き出す。

 黒いポリポットが三ダースほど並び、ざらざらとした葉の上にボール状につぼみをつけた花を茂らせている。開花の時期を調整するため故意に時期をずらして種をまくから、ラックに並んだ花の成長はトレーによって違う。エリオットが引き出した中にはもう白い花弁がほころびかけている株もあるが、一番下の段はまだコウモリが羽を広げたような形の葉ばかりで茎も立ち上がっていなかった。

 ここにあるものはすべてが同じ品種だ。満開になっても直径二センチほどしかない白い小さな花。これこそ、エリオットが唯一情熱を注ぐものだった。

 室温、湿度、土の乾き具合から葉の裏側まで細かくチェックし、全てをノートへ記録する。

 トレーに水をやるころには、気持ちは落ち着いていた。バッシュのことはしばらく様子見だ。最初にはっきり断っている以上、エリオットにできることはないし、言いつけを守れなくて衣装係に戻されたとしても知ったことではない。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...