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世話焼き侍従と訳あり王子 第三章
2-5 グランディティエ
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車を止めたのは、自然公園の駐車場だった。
「具合はいかがですか」
「だいぶマシになった」
湖を周回する遊歩道に設置されたベンチで、水から引き上げたばかりのように水滴が伝うプラスチックカップを額に当てる。
ほとんど車の止まってない駐車場の一角に、色褪せたパラソルを広げていたワゴンからバッシュが買ってきたレモネードは、粉末を溶かしたチープで親しみのある味がした。
エリオットの不調が、帰りがけにナサニエルが見せたスキンシップに原因があると、バッシュは確信しているようだった。
「フォスターさまは、いささか……刺激が強すぎるかと」
言葉を選びながらの進言に、ベンチにへたり込んだエリオットは明確な否定を返す。
「ニールは、おれがいるときに他のだれかを屋敷に入れたことがないし、使用人だって姿を見せないようにしてくれる。まして、おれをベッドに誘うなんてこともしない。本当に見境なしなら、あの調子でおれにキスもハグもしないのはおかしいだろ」
ちょっと貞操観念がゆるくて変わり者だけど、少なくともエリオットに対しては誠実な友人だ。
「だから、こうなるのはおれの側の問題」
「あなたは、自分に厳しすぎます」
「引きこもりを捕まえて、なに言ってるんだか」
らしくないこと言うな。雨でも降ってきたらどうするんだ。
ゆっくり首を伸ばして天を仰ぐ。日差しは夏に近づいているけれど、木陰はまだまださわやかだ。揺れる葉の間から射す陽光にカップをかざす。溶け残った氷と輪切りのレモンに遮られながら底に届いた木漏れ日が、角度によってきらめきを変える万華鏡のようにエリオットの瞳を刺した。
「グランディディエ」
「なに?」
視線を動かすと、バッシュが逆さまに映った。
「宝石のことですね。マダガスカルで発見された青緑色の希少石で、数年前の経済紙では世界で三番目に高価な宝石と評されています」
「わざわざ調べたのか?」
「なぜあなたをそう呼ぶのか、気になりましたので」
「ニールのあれに大した意味なんてない。物珍しいって意味なら、的を得てるけど」
引きこもりの公爵なんて、そのへん探したってなかなかいるものじゃない。
ベンチのわきに姿勢よく控えたまま、バッシュは首を振った。
「なぜ気付かなかったのか驚くくらいですが、陽の下で見ると、あなたの目は確かにその色です。瑞々しく透明なブルーグリーン。この美称に関してだけは、フォスターさまのセンスを称賛いたします」
「それってつまり……おれの目が綺麗だって言ってる?」
「ええ。そう聞こえませんでしたか?」
「いや、聞こえた」
本気で?
レモネードで冷やした顔が熱をもって、体が三センチくらい浮き上がった気がした。
「雨じゃなくて槍が降るかも」
「具合はいかがですか」
「だいぶマシになった」
湖を周回する遊歩道に設置されたベンチで、水から引き上げたばかりのように水滴が伝うプラスチックカップを額に当てる。
ほとんど車の止まってない駐車場の一角に、色褪せたパラソルを広げていたワゴンからバッシュが買ってきたレモネードは、粉末を溶かしたチープで親しみのある味がした。
エリオットの不調が、帰りがけにナサニエルが見せたスキンシップに原因があると、バッシュは確信しているようだった。
「フォスターさまは、いささか……刺激が強すぎるかと」
言葉を選びながらの進言に、ベンチにへたり込んだエリオットは明確な否定を返す。
「ニールは、おれがいるときに他のだれかを屋敷に入れたことがないし、使用人だって姿を見せないようにしてくれる。まして、おれをベッドに誘うなんてこともしない。本当に見境なしなら、あの調子でおれにキスもハグもしないのはおかしいだろ」
ちょっと貞操観念がゆるくて変わり者だけど、少なくともエリオットに対しては誠実な友人だ。
「だから、こうなるのはおれの側の問題」
「あなたは、自分に厳しすぎます」
「引きこもりを捕まえて、なに言ってるんだか」
らしくないこと言うな。雨でも降ってきたらどうするんだ。
ゆっくり首を伸ばして天を仰ぐ。日差しは夏に近づいているけれど、木陰はまだまださわやかだ。揺れる葉の間から射す陽光にカップをかざす。溶け残った氷と輪切りのレモンに遮られながら底に届いた木漏れ日が、角度によってきらめきを変える万華鏡のようにエリオットの瞳を刺した。
「グランディディエ」
「なに?」
視線を動かすと、バッシュが逆さまに映った。
「宝石のことですね。マダガスカルで発見された青緑色の希少石で、数年前の経済紙では世界で三番目に高価な宝石と評されています」
「わざわざ調べたのか?」
「なぜあなたをそう呼ぶのか、気になりましたので」
「ニールのあれに大した意味なんてない。物珍しいって意味なら、的を得てるけど」
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ベンチのわきに姿勢よく控えたまま、バッシュは首を振った。
「なぜ気付かなかったのか驚くくらいですが、陽の下で見ると、あなたの目は確かにその色です。瑞々しく透明なブルーグリーン。この美称に関してだけは、フォスターさまのセンスを称賛いたします」
「それってつまり……おれの目が綺麗だって言ってる?」
「ええ。そう聞こえませんでしたか?」
「いや、聞こえた」
本気で?
レモネードで冷やした顔が熱をもって、体が三センチくらい浮き上がった気がした。
「雨じゃなくて槍が降るかも」
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