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訳あり王子と秘密の恋人 第一部 第一章
12.ピクニック
料理長が作ってくれた朝食は、チーズ入りマフィン、サーモンとチキンのサンドイッチ。スコッチエッグ、キッチンガーデンで収穫したミニトマトとグリーンリフーフのサラダ。それに、カットフルーツと紅茶。
完ぺきなピクニックメニューを、広げたキルトに並べていく。レンガの壁と小道の間にある芝生は、腰を下ろして花畑を眺めるのにうってつけだ。壁の向こうに茂る木々の枝葉が、朝とは思えないほど力強い日差しを遮ってくれる。
並んで座ると、最初にサラダの容器とフォークを渡された。放っておくと手を付けないとバレている。フラットでエリオットの壊滅的な食生活を目にして以降、バッシュの『食育』はずっと続いていた。
酸味のあるドレッシングで和えた葉物野菜をもしゃもしゃ食べていると、ポットから注いだお茶を足元に置いて、バッシュが尋ねた。
「お前、庭はもう作らないのか?」
以前住んでいたフラットの屋上に、エリオットが五年かけて作った小さな箱庭を、彼が気に入っていたことはなんとなく知っている。そして、ここに引っ越して、寄せ植えのひとつも作ろうとしないのを気にかけていることも。
「ここには専属の庭師がいるし、庭を横取りできないだろ」
専門家が一番困るのは、趣味で手を出す素人だ。何代にも渡ってこの庭を守って来た庭師たちの邪魔をするつもりは、エリオットにはなかった。
「そんなこと考えてる余裕も、なくなりそうだし」
「あぁ、ファンドか。まだ決めてないんだったな」
エリオットは唸りながら、最後に残したミニトマトのヘタをむしり取って口に入れる。薄い皮に歯を立てると、果肉を突き破って果汁と種が弾けた。青くさい夏の味がする。
半年後、王子としての「仕事」を再開するまでに、エリオットに与えられた課題。もうひとつが、王族がそれぞれ顧問を務めるチャリティ団体『ロイヤルファンド』の立ち上げだ。サイラスはすでに退役軍人の支援を目的としたNGOを創設しているし、ミシェルは結婚前から児童教育に携わることを公表している。成年の王族として、エリオットもどの分野をメインに支援していくのか決めなくてはいけない。
ファンド──財団ともいうが──の運営は雇用されるスタッフが行うとしても、客寄せパンダとなって各種イベントに顔を出し、貴族や企業から協賛を集めるのはエリオットの役目だ。だから、興味のない分野を適当に選ぶわけにはいかないし、王族の中で偏りができてもいけない。なかなかに難しい選択を迫られているのだ。
ナサニエルを勧誘したのも、この厄介な課題が立ちはだかっていたからに他ならない。なにをするにしても、だれかのアドバイスが欲しかった。それに本人が言った通り、彼の人脈があればパトロンを捕まえるために貴族たちのご機嫌伺をする必要もない、と言うずるい考えもあった。
サラダを片付けて、エリオットはサンドイッチを包むペーパーを剥いた。ティンブレットに挟まれたニンジンの酢漬けとレタス、そしてローストチキンが色彩豊かな断面を覗かせている。
端からかぶりついて、指についたソースを舐めとると、すかさずペーパータオルを差し出された。そのバスケットは屋敷にでも繋がっているのか。
「大伯母さんに、探り……って言うか、面と向かって聞かれた。まだ決めてないのかって」
「女伯爵が?」
「パトロンになりたくてうずうずしてる。他の貴族たちにマウント取る隙は逃さないって感じで」
それが悪意ってわけじゃないから扱いに困る。
「悪くないが、あまり近付いてほしくはないな」
「おれだって、進んで近付きたくない」
マーガレットには悪いが、ピッツ家は叔父の身柄を預かっている。屋敷に来いとは言われなくても、これ以上距離が近くなるのはまだ避けたかった。
完ぺきなピクニックメニューを、広げたキルトに並べていく。レンガの壁と小道の間にある芝生は、腰を下ろして花畑を眺めるのにうってつけだ。壁の向こうに茂る木々の枝葉が、朝とは思えないほど力強い日差しを遮ってくれる。
並んで座ると、最初にサラダの容器とフォークを渡された。放っておくと手を付けないとバレている。フラットでエリオットの壊滅的な食生活を目にして以降、バッシュの『食育』はずっと続いていた。
酸味のあるドレッシングで和えた葉物野菜をもしゃもしゃ食べていると、ポットから注いだお茶を足元に置いて、バッシュが尋ねた。
「お前、庭はもう作らないのか?」
以前住んでいたフラットの屋上に、エリオットが五年かけて作った小さな箱庭を、彼が気に入っていたことはなんとなく知っている。そして、ここに引っ越して、寄せ植えのひとつも作ろうとしないのを気にかけていることも。
「ここには専属の庭師がいるし、庭を横取りできないだろ」
専門家が一番困るのは、趣味で手を出す素人だ。何代にも渡ってこの庭を守って来た庭師たちの邪魔をするつもりは、エリオットにはなかった。
「そんなこと考えてる余裕も、なくなりそうだし」
「あぁ、ファンドか。まだ決めてないんだったな」
エリオットは唸りながら、最後に残したミニトマトのヘタをむしり取って口に入れる。薄い皮に歯を立てると、果肉を突き破って果汁と種が弾けた。青くさい夏の味がする。
半年後、王子としての「仕事」を再開するまでに、エリオットに与えられた課題。もうひとつが、王族がそれぞれ顧問を務めるチャリティ団体『ロイヤルファンド』の立ち上げだ。サイラスはすでに退役軍人の支援を目的としたNGOを創設しているし、ミシェルは結婚前から児童教育に携わることを公表している。成年の王族として、エリオットもどの分野をメインに支援していくのか決めなくてはいけない。
ファンド──財団ともいうが──の運営は雇用されるスタッフが行うとしても、客寄せパンダとなって各種イベントに顔を出し、貴族や企業から協賛を集めるのはエリオットの役目だ。だから、興味のない分野を適当に選ぶわけにはいかないし、王族の中で偏りができてもいけない。なかなかに難しい選択を迫られているのだ。
ナサニエルを勧誘したのも、この厄介な課題が立ちはだかっていたからに他ならない。なにをするにしても、だれかのアドバイスが欲しかった。それに本人が言った通り、彼の人脈があればパトロンを捕まえるために貴族たちのご機嫌伺をする必要もない、と言うずるい考えもあった。
サラダを片付けて、エリオットはサンドイッチを包むペーパーを剥いた。ティンブレットに挟まれたニンジンの酢漬けとレタス、そしてローストチキンが色彩豊かな断面を覗かせている。
端からかぶりついて、指についたソースを舐めとると、すかさずペーパータオルを差し出された。そのバスケットは屋敷にでも繋がっているのか。
「大伯母さんに、探り……って言うか、面と向かって聞かれた。まだ決めてないのかって」
「女伯爵が?」
「パトロンになりたくてうずうずしてる。他の貴族たちにマウント取る隙は逃さないって感じで」
それが悪意ってわけじゃないから扱いに困る。
「悪くないが、あまり近付いてほしくはないな」
「おれだって、進んで近付きたくない」
マーガレットには悪いが、ピッツ家は叔父の身柄を預かっている。屋敷に来いとは言われなくても、これ以上距離が近くなるのはまだ避けたかった。
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