箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

文字の大きさ
204 / 338
訳あり王子と秘密の恋人 第二部 第一章

7.疑惑、思惑、いい迷惑

しおりを挟む
「彼女は、手続きの不備を認めてるのか?」
「はい。フォスター女伯爵は貴族会の公的な文書を取り扱う文書室の責任者で、今回の件を執行役員が調査したところ、各委員会への出席を求めるヘインズ公爵宛ての召喚状が、文書室で止まっていたと証言しているそうです」
「証言を強要されてる可能性は?」
「ないとは言い切れませんが、それは証言が事実である可能性を否定できないのと同じです」

 エリオットは机に肘をつき、何度も両手で顔をこすった。

 どうしてこう、次から次へ飽きもせず厄介ごとが転がり込んでくるんだ。

「なぁイェオリ、おれなにかに呪われてない?」

 タブレットの上で手を組んだイェオリは、首を傾げるように苦笑した。

「女難の相、でしょうか?」
「え、なにそれ」
「女性に関するトラブルが多いことを指す言葉です」
「……大伯母さん、キャロル、フォスター女伯爵? そんなトラブルいらないんだけど」
「日本では寺や神社に行けと申しますが、西洋ではどうなるのでしょう。悪魔を払うのとは、やはり違うでしょうし」
「祈祷でもしてもらうか……」
「オールグレン大主教なら、快く引き受けてくださいそうですね」

 ウォルナットの机を挟んで話し合う若者たちに、ベイカーが「話を続けてよろしゅうございますか」とあくまで穏やかに割り込んだ。

 ちょっとくらい現実逃避したっていいじゃないか、とエリオットは唇をとがらせる。

「まさかここで、フォスターが出て来るとは思わないだろ。キャロルと貴族会だけで、いっぱいいっぱいだよ。おれの腕は二本しかないんだぞ」

 エリオットのキャパはたいして大きくない。いまだって、抱えきれずに溢れ気味になっていたバッシュのことが片付いたばかりだ。

「我々といたしましても、驚きを禁じえません。しかし対応を考えませんと。我々も微力ながらお手伝いいたしますので、まずはエリオットさまのお考えをお聞かせ願えますか」
「お考え?」
「エリオットさまの立ち位置を」
「それって要は、フォスター女伯爵を助けるか助けないかってこと?」
「さようでございます。どちらをお選びになるかで、貴族会に対する戦略が変わって参りましょう」

 ベイカーの言いかたは、とても事務的だった。

「戦略ね」

 だれがスケープゴートにされようと、それは貴族同士の政治のうち。権力のあるところに謀略ありというのは、古今東西どの世界でも共通したファクトだが、エリオットとしては、各委員会の委員長を辞任すればそれで終わりだと思っていた。化かし合いは自分のいないところでやってくれ。

「だれにどんな弱みを握られたんだか……」
「エリオットさまは、フォスター女伯爵が潔白だとお考えですか?」
「そりゃな。いくらなんでも無理があるだろ」

 三年分、不定期に発信される文書が一通も届かないなんてことがあるはずがない。そんなもの、最初からなかったと考えるほうが妥当だ。

 出せと言えば、日付を偽造したのが出て来るだけだろうけどな。

「逆、ということは考えられませんか?」

 イェオリが控えめに問いかけた。

「逆?」

 探偵の推理を飲み込めない助手みたいだな、と思いながらも、エリオットは聞き返す。まあ実際、エリオットだけでは結論を下せない。イェオリもそれが分かってるから、一緒に考えてくれているのだ。

「あぁ、いえ。逆と申しますと語弊がありますね。つまり、貴族会から首を差し出される格好となっていますが、フォスター女伯爵側にはナサニエルさまというパイプがございます」
「おれに繋がる極太のな」
「エリオットさまの助力まで見越して女伯爵が名乗り出たのでしたら、それは分からなくはありませんが」

 貴族会から切り捨てられても、息子を通してエリオットと結託すれば再起も可能だといいたいのだろうが。
 ベイカーに視線を向けられて、エリオットは首を横へ振った。

「ないだろうな。ニールはおれと親しいことを口外してないはずだし、『本邸』のほうもその範囲に含まれてる」
「では、フォスター女伯爵側にとってメリットはないのですから、やはりなにがしかの弱みに対する強要である可能性が高いと」
「そういうこと。貴族会側について、ベイカーはどう思う?」

 もしふたりが友人同士だと知っていて、フォスターを切る理由。

「おれは、ないと思うんだけど」
「おっしゃる通りです。貴族会側としても、故意にご友人の家を巻き込むことは、エリオットさまへの牽制にはなりますが、不興を買うリスクのほうが高うございます」

 事態を収拾しようとしているときに、そのいけにえにわざわざハイリスクな相手を選んだりはしない。

「彼女も貴族会も、おれたちの関係については想定外だってことだな」

 しかし難しい立場だ。このまま女伯爵が引責するとなれば、フォスター家は貴族会での立場がかなり厳しくなる。しかし彼女を助けるということは、貴族会が出した結論に意見することになり、彼ら──彼女ら──との対立姿勢を示したと受け取られる。

 ナサニエルが絡んでさえいなければ、こそこそと退場できたのに。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...