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訳あり王子と秘密の恋人 第二部 第一章
7.疑惑、思惑、いい迷惑
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「彼女は、手続きの不備を認めてるのか?」
「はい。フォスター女伯爵は貴族会の公的な文書を取り扱う文書室の責任者で、今回の件を執行役員が調査したところ、各委員会への出席を求めるヘインズ公爵宛ての召喚状が、文書室で止まっていたと証言しているそうです」
「証言を強要されてる可能性は?」
「ないとは言い切れませんが、それは証言が事実である可能性を否定できないのと同じです」
エリオットは机に肘をつき、何度も両手で顔をこすった。
どうしてこう、次から次へ飽きもせず厄介ごとが転がり込んでくるんだ。
「なぁイェオリ、おれなにかに呪われてない?」
タブレットの上で手を組んだイェオリは、首を傾げるように苦笑した。
「女難の相、でしょうか?」
「え、なにそれ」
「女性に関するトラブルが多いことを指す言葉です」
「……大伯母さん、キャロル、フォスター女伯爵? そんなトラブルいらないんだけど」
「日本では寺や神社に行けと申しますが、西洋ではどうなるのでしょう。悪魔を払うのとは、やはり違うでしょうし」
「祈祷でもしてもらうか……」
「オールグレン大主教なら、快く引き受けてくださいそうですね」
ウォルナットの机を挟んで話し合う若者たちに、ベイカーが「話を続けてよろしゅうございますか」とあくまで穏やかに割り込んだ。
ちょっとくらい現実逃避したっていいじゃないか、とエリオットは唇をとがらせる。
「まさかここで、フォスターが出て来るとは思わないだろ。キャロルと貴族会だけで、いっぱいいっぱいだよ。おれの腕は二本しかないんだぞ」
エリオットのキャパはたいして大きくない。いまだって、抱えきれずに溢れ気味になっていたバッシュのことが片付いたばかりだ。
「我々といたしましても、驚きを禁じえません。しかし対応を考えませんと。我々も微力ながらお手伝いいたしますので、まずはエリオットさまのお考えをお聞かせ願えますか」
「お考え?」
「エリオットさまの立ち位置を」
「それって要は、フォスター女伯爵を助けるか助けないかってこと?」
「さようでございます。どちらをお選びになるかで、貴族会に対する戦略が変わって参りましょう」
ベイカーの言いかたは、とても事務的だった。
「戦略ね」
だれがスケープゴートにされようと、それは貴族同士の政治のうち。権力のあるところに謀略ありというのは、古今東西どの世界でも共通したファクトだが、エリオットとしては、各委員会の委員長を辞任すればそれで終わりだと思っていた。化かし合いは自分のいないところでやってくれ。
「だれにどんな弱みを握られたんだか……」
「エリオットさまは、フォスター女伯爵が潔白だとお考えですか?」
「そりゃな。いくらなんでも無理があるだろ」
三年分、不定期に発信される文書が一通も届かないなんてことがあるはずがない。そんなもの、最初からなかったと考えるほうが妥当だ。
出せと言えば、日付を偽造したのが出て来るだけだろうけどな。
「逆、ということは考えられませんか?」
イェオリが控えめに問いかけた。
「逆?」
探偵の推理を飲み込めない助手みたいだな、と思いながらも、エリオットは聞き返す。まあ実際、エリオットだけでは結論を下せない。イェオリもそれが分かってるから、一緒に考えてくれているのだ。
「あぁ、いえ。逆と申しますと語弊がありますね。つまり、貴族会から首を差し出される格好となっていますが、フォスター女伯爵側にはナサニエルさまというパイプがございます」
「おれに繋がる極太のな」
「エリオットさまの助力まで見越して女伯爵が名乗り出たのでしたら、それは分からなくはありませんが」
貴族会から切り捨てられても、息子を通してエリオットと結託すれば再起も可能だといいたいのだろうが。
ベイカーに視線を向けられて、エリオットは首を横へ振った。
「ないだろうな。ニールはおれと親しいことを口外してないはずだし、『本邸』のほうもその範囲に含まれてる」
「では、フォスター女伯爵側にとってメリットはないのですから、やはりなにがしかの弱みに対する強要である可能性が高いと」
「そういうこと。貴族会側について、ベイカーはどう思う?」
もしふたりが友人同士だと知っていて、フォスターを切る理由。
「おれは、ないと思うんだけど」
「おっしゃる通りです。貴族会側としても、故意にご友人の家を巻き込むことは、エリオットさまへの牽制にはなりますが、不興を買うリスクのほうが高うございます」
事態を収拾しようとしているときに、そのいけにえにわざわざハイリスクな相手を選んだりはしない。
「彼女も貴族会も、おれたちの関係については想定外だってことだな」
しかし難しい立場だ。このまま女伯爵が引責するとなれば、フォスター家は貴族会での立場がかなり厳しくなる。しかし彼女を助けるということは、貴族会が出した結論に意見することになり、彼ら──彼女ら──との対立姿勢を示したと受け取られる。
ナサニエルが絡んでさえいなければ、こそこそと退場できたのに。
「はい。フォスター女伯爵は貴族会の公的な文書を取り扱う文書室の責任者で、今回の件を執行役員が調査したところ、各委員会への出席を求めるヘインズ公爵宛ての召喚状が、文書室で止まっていたと証言しているそうです」
「証言を強要されてる可能性は?」
「ないとは言い切れませんが、それは証言が事実である可能性を否定できないのと同じです」
エリオットは机に肘をつき、何度も両手で顔をこすった。
どうしてこう、次から次へ飽きもせず厄介ごとが転がり込んでくるんだ。
「なぁイェオリ、おれなにかに呪われてない?」
タブレットの上で手を組んだイェオリは、首を傾げるように苦笑した。
「女難の相、でしょうか?」
「え、なにそれ」
「女性に関するトラブルが多いことを指す言葉です」
「……大伯母さん、キャロル、フォスター女伯爵? そんなトラブルいらないんだけど」
「日本では寺や神社に行けと申しますが、西洋ではどうなるのでしょう。悪魔を払うのとは、やはり違うでしょうし」
「祈祷でもしてもらうか……」
「オールグレン大主教なら、快く引き受けてくださいそうですね」
ウォルナットの机を挟んで話し合う若者たちに、ベイカーが「話を続けてよろしゅうございますか」とあくまで穏やかに割り込んだ。
ちょっとくらい現実逃避したっていいじゃないか、とエリオットは唇をとがらせる。
「まさかここで、フォスターが出て来るとは思わないだろ。キャロルと貴族会だけで、いっぱいいっぱいだよ。おれの腕は二本しかないんだぞ」
エリオットのキャパはたいして大きくない。いまだって、抱えきれずに溢れ気味になっていたバッシュのことが片付いたばかりだ。
「我々といたしましても、驚きを禁じえません。しかし対応を考えませんと。我々も微力ながらお手伝いいたしますので、まずはエリオットさまのお考えをお聞かせ願えますか」
「お考え?」
「エリオットさまの立ち位置を」
「それって要は、フォスター女伯爵を助けるか助けないかってこと?」
「さようでございます。どちらをお選びになるかで、貴族会に対する戦略が変わって参りましょう」
ベイカーの言いかたは、とても事務的だった。
「戦略ね」
だれがスケープゴートにされようと、それは貴族同士の政治のうち。権力のあるところに謀略ありというのは、古今東西どの世界でも共通したファクトだが、エリオットとしては、各委員会の委員長を辞任すればそれで終わりだと思っていた。化かし合いは自分のいないところでやってくれ。
「だれにどんな弱みを握られたんだか……」
「エリオットさまは、フォスター女伯爵が潔白だとお考えですか?」
「そりゃな。いくらなんでも無理があるだろ」
三年分、不定期に発信される文書が一通も届かないなんてことがあるはずがない。そんなもの、最初からなかったと考えるほうが妥当だ。
出せと言えば、日付を偽造したのが出て来るだけだろうけどな。
「逆、ということは考えられませんか?」
イェオリが控えめに問いかけた。
「逆?」
探偵の推理を飲み込めない助手みたいだな、と思いながらも、エリオットは聞き返す。まあ実際、エリオットだけでは結論を下せない。イェオリもそれが分かってるから、一緒に考えてくれているのだ。
「あぁ、いえ。逆と申しますと語弊がありますね。つまり、貴族会から首を差し出される格好となっていますが、フォスター女伯爵側にはナサニエルさまというパイプがございます」
「おれに繋がる極太のな」
「エリオットさまの助力まで見越して女伯爵が名乗り出たのでしたら、それは分からなくはありませんが」
貴族会から切り捨てられても、息子を通してエリオットと結託すれば再起も可能だといいたいのだろうが。
ベイカーに視線を向けられて、エリオットは首を横へ振った。
「ないだろうな。ニールはおれと親しいことを口外してないはずだし、『本邸』のほうもその範囲に含まれてる」
「では、フォスター女伯爵側にとってメリットはないのですから、やはりなにがしかの弱みに対する強要である可能性が高いと」
「そういうこと。貴族会側について、ベイカーはどう思う?」
もしふたりが友人同士だと知っていて、フォスターを切る理由。
「おれは、ないと思うんだけど」
「おっしゃる通りです。貴族会側としても、故意にご友人の家を巻き込むことは、エリオットさまへの牽制にはなりますが、不興を買うリスクのほうが高うございます」
事態を収拾しようとしているときに、そのいけにえにわざわざハイリスクな相手を選んだりはしない。
「彼女も貴族会も、おれたちの関係については想定外だってことだな」
しかし難しい立場だ。このまま女伯爵が引責するとなれば、フォスター家は貴族会での立場がかなり厳しくなる。しかし彼女を助けるということは、貴族会が出した結論に意見することになり、彼ら──彼女ら──との対立姿勢を示したと受け取られる。
ナサニエルが絡んでさえいなければ、こそこそと退場できたのに。
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