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番外編 重ねる日々
いい夫婦の日(Xログ)
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イェオリが送って来たスケジュールの中にそれを見つけて、エリオットは首を傾げた。
「『いい夫婦の日ポートレート撮影』」
「はい。来週末の午後にハウスで予定されております」
なるほど?
「あー、知らなかったとしたら申し訳ないんだけど、じつはおれまだ結婚してないんだ」
「さようでしたか。どうりでベストマンを頼まれたという自慢を、フォスター氏から聞かないはずですね」
ハハハハハ、と茶番を笑いあってから、「それで?」エリオットは尋ねた。
「毎年、『いい夫婦の日』に国王夫妻のポートレートが公開されておりますが、ことしのテーマがご夫妻の軌跡だそうです。ご結婚から現在まで年代別に、話題になった写真をスライドにすると」
「それ、おれと関係なくない?」
「直接的には」
イェオリがいつもの微笑みで頷く。
「間接的には?」
「王妃陛下が、夫婦の軌跡は家族の軌跡でもあると仰せになったそうで、現在──つまりスライドの最後の写真に、ご家族でのポートレートをご希望です」
「その撮影が、来週にあると」
「さようです」
エリオットはタブレットを投げ出して両手を上げた。
「夫婦の日なんだから夫婦だけでいいじゃん!」
「ことしはサイラスさまとミシェルさまのお写真も出ますから、エリオットさまの不在が際立ってしまうと思われたのでは」
「シングルだから夫婦のイベントに不在なのは当たり前~」
というか、おれを引っ張り出したいから屁理屈こねたんだろうな。
「調整は、可能かと」
うんうん唸る主人を不憫に思ったのか、イェオリが言う。しかし交渉の成果が望み薄なのは息子のエリオットが一番よく分かっていた。
「いや、大丈夫」
ロイヤルファミリーは人気商売。ネットニュースに『王室はエリオット王子の話題に触れず』『別居から亀裂が生まれたか』などと書かれるよりは、国民から『家族仲よすぎ』とコメントがつく方がマシだ。
好感度を上げて、ついでに親孝行もできるなら、写真一枚の費用対効果は高い。
「でもさぁ」
「はい」
「これを受けたら、今後どんなイベントにも理由を付けて巻き込まれる気がする」
「エリオットさまが了承なさる、ギリギリを攻めて来られる気がいたします」
イェオリの観察眼もなかなかのものだ。
「そのへんの見極め、異様にうまいよな」
「お母君ですからね」
「止めない父さんも父さんなんだけど」
「それが、ご夫婦円満の秘訣かもしれません」
さすが、いい夫婦ってか?
「『いい夫婦の日ポートレート撮影』」
「はい。来週末の午後にハウスで予定されております」
なるほど?
「あー、知らなかったとしたら申し訳ないんだけど、じつはおれまだ結婚してないんだ」
「さようでしたか。どうりでベストマンを頼まれたという自慢を、フォスター氏から聞かないはずですね」
ハハハハハ、と茶番を笑いあってから、「それで?」エリオットは尋ねた。
「毎年、『いい夫婦の日』に国王夫妻のポートレートが公開されておりますが、ことしのテーマがご夫妻の軌跡だそうです。ご結婚から現在まで年代別に、話題になった写真をスライドにすると」
「それ、おれと関係なくない?」
「直接的には」
イェオリがいつもの微笑みで頷く。
「間接的には?」
「王妃陛下が、夫婦の軌跡は家族の軌跡でもあると仰せになったそうで、現在──つまりスライドの最後の写真に、ご家族でのポートレートをご希望です」
「その撮影が、来週にあると」
「さようです」
エリオットはタブレットを投げ出して両手を上げた。
「夫婦の日なんだから夫婦だけでいいじゃん!」
「ことしはサイラスさまとミシェルさまのお写真も出ますから、エリオットさまの不在が際立ってしまうと思われたのでは」
「シングルだから夫婦のイベントに不在なのは当たり前~」
というか、おれを引っ張り出したいから屁理屈こねたんだろうな。
「調整は、可能かと」
うんうん唸る主人を不憫に思ったのか、イェオリが言う。しかし交渉の成果が望み薄なのは息子のエリオットが一番よく分かっていた。
「いや、大丈夫」
ロイヤルファミリーは人気商売。ネットニュースに『王室はエリオット王子の話題に触れず』『別居から亀裂が生まれたか』などと書かれるよりは、国民から『家族仲よすぎ』とコメントがつく方がマシだ。
好感度を上げて、ついでに親孝行もできるなら、写真一枚の費用対効果は高い。
「でもさぁ」
「はい」
「これを受けたら、今後どんなイベントにも理由を付けて巻き込まれる気がする」
「エリオットさまが了承なさる、ギリギリを攻めて来られる気がいたします」
イェオリの観察眼もなかなかのものだ。
「そのへんの見極め、異様にうまいよな」
「お母君ですからね」
「止めない父さんも父さんなんだけど」
「それが、ご夫婦円満の秘訣かもしれません」
さすが、いい夫婦ってか?
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