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1話 マッチング・アプリ
しおりを挟む"ガーランドホテルの玄関ロビー"
メールで届いた待ち合わせ場所を見て、フユメの色素の薄い大きな瞳から、心の不安がにじみ出ていた。
イギリス系の企業が経営する、最高級のサービスと贅沢な空間を提供することで有名なガーランドホテルの玄関ロビーに、びくびくとおびえながら足をふみ入れたのは良いが…
「・・・っ」
<どう見ても大学生の僕には、分不相応感がいっぱいなんだけど? やっぱりこのままくるりと回って、逃げ出してしまおうおかなぁ? どうしようか? うう~ん…>
いわゆる、マッチング・アプリでヒットした相手と、今からフユメは、初めて会おうとしているのだ。
そのマッチング・アプリが少々特殊で、国が主導で民間に委託して運営されている、希少で優秀はアルファと、その伴侶となるオメガの出生率を上げるために、相性の良い者同士を番わせる専用のアプリだ。
中学入学前の児童が受けることが義務付けられている、バース性判別検査で、フユメはオメガだと判明した。
その時、採取された遺伝子情報を元に… マッチング・アプリの登録者の中から、フユメに最適な組み合わせとなる遺伝子を持つアルファを、AIが選び出して紹介するというシステムだ。
(もちろん、マッチング・アプリへの登録は義務ではなく、個人の自由である)
「やっぱり… はやまったかなぁ? でもでも!」
<20歳の誕生日をむかえて、早速アプリに登録したのは良いけど… ホテルで待ち合わせするなんて… やっぱりセックス目的の人だったらどうしよう? なんか… 処女童貞の僕としては、すごく怖いんですけど?! 柱の陰からコッソリ相手を見てから、帰ろうかなぁ~?! んんん~?!>
性体験どころか… フユメはファーストキスも未経験なのだ。
まともな恋愛さえ未経験で、この手の話を、相談できる友人もいないフユメは、激しく迷っていた。
「うう~んん…」
<ここに来るまで散々迷ったけれど… いざ来てしまうと、もっと迷うなんて!! いや、迷うってレベルを通り越して、僕はもう、おびえているし!! 怖いよぉ! 怖いよぉ! 本当にどうしよぉ?! でも気になるしぃ?!>
緊張から眉間にしわを寄せて、フユメは一歩ずつゆっくりと進み、ドアからホテル内へと入った瞬間、心臓は爆発しそうなほどドキドキする。
スマホをにぎるフユメの手は、ぶるぶると震えていて、うっかりスポッ…?! と手のひらから抜けて絨毯の上にポテッ… と落としてしまう。
「やれやれ…」
<僕は何をやっているんだよ?! 緊張しすぎだろう?! 本当に自分でもはずかしいよぉ……>
スマホをひろってから、フユメは自分を落ちつかせようと深呼吸をした。
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