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85話 脱出4 ※流血注意
しおりを挟む寝室を抜け出し、アルセは裏庭に逃げ込み、身をひそめていると… 犬が吠える声が聞こえ、ギョッ… とする。
「・・・っ?!」
犬の鳴き声…?! それも、1匹ではなく… 何匹かいる?! 猟犬が放たれたんだ!! 最悪だ!! いくら上手に隠れていても、犬の鼻をごまかすことは出来ない!! ああ、もう…! 考えが甘かった!!
アルセは隠れるのをやめて、裏庭をつっきり屋敷の敷地を急いで出た。
「・・・くぅ」
このまま逃げ切れれば良いけれど… でも、たぶんダメだ! 騎士が相手では… 僕はいずれ捕まる!!
逃げる者を追跡する方法も、基本的な知識として騎士なら誰でも学ぶことだと、アルセは亡くなった父親から、剣技と一緒にならったことがある。
結局、見はらしの良い平原へとぬけて、少しでも遠くへ行くためにアルセはひたすら走った。
背後で猟犬が吠える声が聞こえ、走りながら後ろを振りかえると… 3匹の猟犬がアルセに向かって走って来るのがわかる。
犬を追いかけるように、馬に騎乗した騎士たちがいた。
「ああっ… 最悪だ!!」
こんなことなら、最初からこっちに逃げればよかった! 時間をむだにした!! ああ、クソッ…! こんなところで、猟犬まで飼っていたなんて?! ゲス野郎侯爵め!! クソッ…! 僕に指一本でも触れたら、絶対に骨ごと手を噛みちぎってやる!!
心の中で罵りながら、アルセは息を切らし夢中で平原を走り続けた。
少しずつ走る速度がおち… 背後から迫ってくる猟犬たちの吠え声が、近くなる。
猟犬たちが地面を蹴る音がアルセの耳に届く。
その次の瞬間、背中にドンッ…! と体当たりをされ、アルセは地面に押し倒された。
「・・・ううっ!!」
助けて、エスパーダ様! エスパーダ様! エスパーダ様!
助けて―――っ!!!
あわてて地面に手をついて、アルセが身体を起こそうとするが… 興奮した3匹の猟犬たちは、獲物の動きを止めようと、獰猛な唸り声をあげて、容赦なく腕や足に喰らいつく。
「やあああっ――!! ぐっ… ううっ!!! うわぁぁっ!! 止めろぉ―――っ!! 止めろぉ―――っ!!!! 」
殺される!! 殺される!! 狂った犬たちに、殺される!!!
猟犬たちに噛まれた激痛で、アルセは悲鳴をあげた。
学園でジャベたちに暴行を受けた時に比べても、桁違いに大きな恐怖にさらされ、アルセは半狂乱におちいる。
ドカッ… ドカッ… ドカッ… ドカッ… と馬の蹄の音がアルセの近くで止まり…
ピイィィィ――――――ッ!! と指笛を吹く音が平原に鳴り響く。
3匹の猟犬たちは、ハッ… ハッ… とあらい息をはきながら、アルセを噛むのを止めて… 激しく吠える。
「まったく、手間をかけさせるな…! オメガなら黙って私に媚びを売れば、いくらでも贅沢をさせて可愛がってやるものを! バカな奴だ!! お前も母親のカンナスのように、殺されたいのか?!」
コルティナ侯爵は馬から下り、地面に倒れてぐったりとするアルセに、忌々しそうに吐きすてた。
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