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101話 選択2
しおりを挟む従姉のマンサナから、ディグニダド伯爵邸にエスパーダが来たと聞き… アルセは動揺し、手に持っていた熱い薬湯が入ったティーカップを、絨毯の上に落としてしまう。
「うわっ…?!」
あわてて屈んで、アルセはカップをひろうが、薬湯はぜんぶ絨毯の上にこぼれ染みをつくっていた。
「ああ、もう…! どうしよう… どうしよう… どうしよう……」
「やだっ… アルセ、大丈夫?! 火傷しなかった?!」
マンサナもあわてて祖父が座る寝椅子のそばに来て、染みが出来た絨毯の上に、しゃがみこんだアルセの肩に触れる。
「どうしよう…?! どうしよう… マンサナ、どうしよう?! 本当にエスパーダ様が来たの?! 本当は、グラーシア家の他の人が、来たのではないの?!」
だって… エスパーダ様が来るわけないよ!! 僕に会いに… 来るわけがないんだから!! だって僕と会ったら… 僕のお腹に子供がいると、知られてしまうよ?! そうなったら、僕はいったい、どこへこの子を隠せば良いの?!
まっ青な顔で、アルセは自分の大きく丸くなったお腹を、守るように両手でかかえた。
「間違いなく… アルセの“エスパーダ様”だよ…? だって自分でそう言っていたし… それに、アルセが言っていた、白銀のトカゲが一緒にいたもの…?」
エスパーダが到着しマンサナが応対すると… いきなり顔の前にティエーラの竜が飛びだしてきた。
アルセと同じく、他人には見えない魔モノが視えるマンサナは、ティエーラの竜に驚いて、その場でドスンッ… と尻餅をついてしまったのだ。
「うううっ…… どうしよう?! どうしよう?! 何で来たの? エスパーダ様は… 何で…?!」
動揺するアルセを見下ろしながら… 祖父が口を開く。
「マンサナ、アルセの“番”をここへ連れて来い!」
「え?! でも、お祖父様……」
マンサナは心配そうに、動揺するアルセをチラリと見た。
「良いから、この部屋に連れて来い! アルセの“番”がどんなやつか、見てみたい! 連れて来い、マンサナ!」
「でも… アルセが……」
「連れて来い、マンサナ! “番”が来たというのなら、アルセが嫌だといっても、会わなければならんのだ! ここに連れて来い!」
「はい…」
心配そうに、もう一度アルセを見てからマンサナは、祖父の部屋を出て行く。
「どうしよう… どうしよう… エスパーダ様を苦しめてしまうよ… 僕のせいで! 僕のせいで! ううっ… ううっ… エスパーダ…様…」
薬湯で染みが出来た絨毯の上に、ペタンッ… と座り込み、アルセはグスッ… グスッ… と涙をこぼす。
妊娠をしてから身体が変化し… 以前よりもアルセは涙もろくなり、最近は少しの動揺で、泣いてしまうことが多くなった。
「アルセ、お前ひとりで… 子供と“番”の将来を勝手に決めてはいけないのだよ、わかるか? 決めるなら“番”と子供と話し合って決めなさい」
「でも… お祖父様…?」
「バカ者、子供の前でなさけなく、泣くな! いつまでそんなところに座っているんだ?!」
「ううっ……」
グスッ… グスッ… と幼子のように鼻をすすりながら、アルセはノロノロと腰をあげ、椅子の上に座った。
「私がうまく、婚姻の儀をあげられるように、話をつけてやるから、心配するな!」
祖父はシワの入った手をのばし、アルセの赤と金が混じる艶やかな髪をなでた。
「私にまかせておけ! すぐに結婚させてやるから…」
「お祖父様……」
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