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111話 その後
しおりを挟むグラーシア城の中庭で、アルセがのんびりとお茶を飲んでいると…
「奥方様! 閣下が戻られました!」
従僕の1人が、あわてて城門からの報告をアルセに伝えた。
「エスパーダ様にケガは無い?!」
出立する前に、エスパーダ様から今回は中規模の襲撃だと聞いていたから、一ヶ月はかかると言っていたのに… ずいぶん早く、終わらせたなぁ?
アルセがエスパーダに嫁いで来た後も… 以前と変わらず隣国からの襲撃が、絶えることはなかった。
「はい、閣下はご無事とのことです!」
「そう、良かった!」
ホッ… とアルセが胸をなでおろしていると… 向かいがわに座っていたマンサナも従僕にたずねた。
「私の旦那様は無事?! ケガは無い?!」
「はい、サングレ様もご無事とのことです!」
「ああ… 神様! 感謝します!」
マンサナは大きくなり始めたお腹に手をあて、目を閉じると… その場で神に祈りを捧げる。
そんな従姉の姿を微笑みながら見守り、アルセは腰を上げて、ゆり籠でパタパタと元気よく、手足を動かす息子を抱き上げた。
母親に抱き上げられた息子のロッサは、紅玉色の瞳をキラキラと輝かせて、ニコニコと機嫌良く笑う。
ディグニダド伯爵家で産まれた紅玉色の瞳を持つ子供は、オメガしかいなかったので… ロッサも将来はオメガになるだとうと、予想している。(なぜかはわからないが、紅玉色の瞳を持つアルファは生まれない)
「さてと、マンサナ! 騎士たちを出迎え行こうか…?!」
「はい、奥方様!」
妊娠して涙もろくなったマンサナは… 夫の無事の知らせに安心し、にじみ出た涙を指先でぬぐうと、アルセに続いて腰を上げる。
ディグニダド伯爵夫人は、おっとりとした印象とは裏腹に… かなりのヤリ手だった。
アルセの結婚式が終るとすぐに、ディグニダド伯爵夫人はエスパーダに……
『グラーシア公爵様、 サングレ様は奥方を亡くされたと、他の護衛騎士様に聞きました… それで、マンサナを後妻にどうでしょうか…?』
『マンサナ嬢をですか?』
『はい、残念ながら… ディグニダド伯爵家近辺の貴族たちは、マンサナやアルセが持つ紅玉色の瞳を… “血のような瞳を持つ、呪われたオメガ” …だと、忌み嫌っているため、マンサナの結婚は絶望的なのです』
ディグニダド伯爵夫人は、アルセやマンサナに対して… 礼儀正しく接することはあっても、忌み嫌うような不快な態度を見せなかった、グラーシア公爵家の騎士たちに期待した。
『ああ! その話なら、アルセから聞いたおぼえがあります… 本当に愚かなことです! あんなに美しく貴重な瞳を、嫌うなんて!』
『ありがとうございます、グラーシア公爵様! マンサナを学園で学ばせることは、できませんでしたが… 私と亡くなった義母と2人で、あの子を厳しく教育したつもりです… ですからどうか、あの子に結婚の機会を与えてやって下さい!』
ディグニダド伯爵夫人の提案は、グラーシア公爵家にとっても、良い話だった。
『ティエーラの竜と、普段から意志の疎通ができるマンサナ嬢の存在はありがたい! それに“花嫁の飾り”を所有する、ディグニダド伯爵家とは、子供や孫の世代まで、親しく交流していただければと思っています!』
そのような事情から、グラーシア公爵の仲介で、サングレとマンサナの結婚が決まる。
ちなみにマンサナとサングレも、先代当主の命令で… アルセと同じく、ディグニダド伯爵家近くの神殿で“花嫁の飾り”をつけて婚姻の儀をおこなった。
“善は急げ!”と… アルセとエスパーダの結婚の、数日後の話である。
2人の結婚を祝いマンサナの支度金がわりに、エスパーダはディグニダド伯爵家へ資金援助をし、共同事業の計画も進めている。
急に決まった政略結婚だったため、アルセは心配していたが… マンサナとサングレの夫婦仲は良く、今では『良い組み合わせかも?』 …と思うようになっていた。
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