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8話 パダムの身体
しおりを挟むパダムはアイルを苦し気に見つめた後… 大きなため息をつき動揺を隠す。
「分かった、この話は今は止めよう」
ホッとアイルもため息をつく。
「すまない、大声を出して… 私を助けようとした恩人に対して無礼を詫びたい」
髪をガシガシと掻きむしるパダムは、本当に心底困った様子だ。
「パダム様、私はアナタにお仕えする身ですから、どうぞお気になさらず」
上掛けで胸まで隠し、ニッコリと微笑むアイル。
「そうか…」
苦笑いを浮かべるパダム。
綺麗なのは深紅の瞳ダケではなかった。
瘴気が薄くなって、姿形がハッキリ見えるようになると、パダムの容貌の麗しさが、際立っているコトにアイルは気付いた。
キリリと凛々しい目尻に、真っ直スウッと通った鼻筋。
芸術家たちが何年もかけて彫り上げた、神々の彫刻のように、頬から顎までの鋭いラインがとても雄々しく… 無駄なく鍛え抜かれた、逞しい肉体。
きっと王都の貴婦人たちに、熱い視線を毎日送られているコトだろう。
そんな貴婦人たちに、アイルはほんの少しだけ、羨ましいと… と嫉妬した。
呪毒で肌の色はまだ灰色で、黒い痣のような呪紋が浮き出ていても、美しいのに変わりはない。
「あの、一つお願いが…」
「何だ?」
「私が服を着る間、後ろを向いていて下さいませんか?」
たとえ一夜を共にしても目の前で着替えられる程、恥知らずではない。
何より、こんなに麗しい男性のまえで、自分の貧相な身体を、さらすなんてとても辛い。
大叔母様の家で3人で暮しているときは…
毎日、朝から晩まで畑で野菜を作り、出来た野菜を村で肉や穀物、お金に交換してもらい生計を立てていた。
手や顔の肌は荒れてガサガサだし、身体も痩せていて…
王都の貴婦人たちを見慣れている人の前ではとても惨めな気分だ。
「おお! コレは失礼をした」
サッと後ろを向いてくれるパダム。
アイルはパダムの背中を見てハッと息を呑む。
「!?」
広い背中には無数の傷跡が、残っていたからだ。
「なぜ、こんなにたくさん、背中に傷跡が残っているのですか?!」
古いモノ新しいモノ、浅いモノ深いモノ、治療師が居ればすぐに跡など残らず、綺麗に消えるはずなのにだ。
「剣の腕を磨きに外国を渡り歩いていた時にだ… 治療師が居る場所に行くとは限らないからな」
「まあ…」
王族にしては珍しい… なんて剛胆な人なのだろう、兄が敬意を抱く気持ちが分かる。
<それにしても、顔色、瞳の色ダケは人の色に辛うじて戻ったけれど… 背中を見る限り呪毒のせいで、死人のような灰色に変色した部分がほとんどだわ… 瘴気もまだまだ多い>
体内に少量受入れ浄化した時の痛みを、アイルは思い出し… 眉をひそめる。
「とても…痛むのでしょうね?」
<灰色の肌に肩から胸までの怪我から広がる禍々しい呪紋が、魚の鱗のように背中や腰太腿まで広がっている>
アイルは手を伸ばし、パダムの広い背中に広がる呪紋に触れる。
「よせ、触れるなアイル、瘴気で穢れるぞ!」
慌てるパダム。
「少しだけアナタの身体の状態を、知りたいので、不快でしょうがお許しください」
掌を針でチクチクと刺すような痛みを、アイルは感じる…
呪毒を受けた怪我の裏側が、特に酷い
「不快ではないが… 君が心配だ」
「パダム様はお優しいですね」
特権階級に属する男性から、優しくされたのは久しぶりで、思わず微笑むアイル。
「身近の女性たちには、野蛮人だと陰口をたたかれているのだが?」
アイルは気付かないが、パダムの頬にサッと赤みが差す。
「私は聞いたことはありません… デビューしていないからでしょうけど」
「何故、デビューしなかったのだ?」
「その前に婚約破棄をされたので… 妹の子を育てる方が、私には重要に思えましたし」
「婚約破棄? 破棄の理由は? 相手は誰だ?」
「もう終わったことですから、どうかご容赦下さい」
「ううんんん… 気になる!」
「ふふふふっ…ああっ!! …痛っ…ううっ!!」
笑った拍子に、昨夜パダムを受け入れた場所が痛み、アイルは身体を丸める。
パダムは慌てて振り向き、アイルの身体を支えた。
「クソッ…瘴気の汚れか!」
「い…いえ…」
「アイル?」
真赤な顔でもじもじするアイル。
「ドコが痛い?!」
「いえ、瘴気では…大丈夫で…す…から… どうか…っ!」
アイルは上掛けで胸を隠しながら、痛む下腹を押さえる。
「・・・・・・っ!」
パダムは状況を察し、アイルを上掛けごと抱き上げ、ベッドの真ん中にそっと寝かせる。
眉間にシワを寄せ、パダムは…
「少しこのまま待て!!」
全裸のままバタバタと、部屋を飛び出してゆく。
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