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34話 アイルの浅慮
しおりを挟むフジャヌは激怒して、肩からカチャンを下ろすと、アイルの腕を引っ張り長椅子から立たせ、東屋の外に連れ出しブラヌから引き離す。
「お前は、ブラヌ嬢に無礼なマネはしないと、言わなかったか?! この愚か者!!」
「ですが、お兄様… 私は!」
フジャヌに掴まれた腕が痛くて、アイルは振り払う。
「もういいアイル、お前は子供と一緒に、向こうへ行っていろ! 私はブラヌ嬢と大切な話がある」
激怒したフジャヌは、狼狽えるアイルに、コレ以上無いほど冷たい視線を送る。
「ですが…っ!!
言うコトを聞かないアイルを、追い払おうと怒鳴るフジャヌ。
「クドイぞアイル!! 言われたコトは守れ、出来なければパダム様の所には、連れては行けぬぞ!!」
「・・・・・・っ!!」
アイルは引くしかなかった。
カチャンを連れて、渋々東屋から離れるが、2人が見える位置に留まる。
「何もあそこまで、怒らなくても! ブラヌ様はパダム様を愛しているようには…」
<でも、無礼は無礼だ…>
一気にしゅん…と落ち込むアイル。
貴族の結婚は個人の都合ではなく、家同士の契約だから、ソコに個人の感情は関係ない。
貴族なら誰でも知っている常識だ。
だからブラヌが、パダムを愛してなくても、関係ない。
ブラヌがフジャヌを愛していても関係ない。
アイルがパダムを愛していても関係ない。
「ああ、そうか!!」
<むしろ… パダム様との結婚が決まっているブラヌ様にとって、仲の良かった私がパダム様を愛しているコトを知るのは、優しいブラヌ様にとって、負担にしかならない>
「ああ、私ったら…愚かなコトを言ってしまった!!」
<重要なのはブラヌ様の気持ちの方で、私の気持ちではないのに…>
フジャヌが激怒して、当然なのだ。
東屋で長椅子に座るブラヌの前に、片膝を付くフジャヌ。
「私の無礼を… ブラヌ様に謝罪しているのね」
フジャヌはブラヌの手の甲にキスをした。
するとブラヌはまた、両手の掌で顔を隠して泣き出し、フジャヌは隣に座り慰めている。
「きっと私のせいでブラヌ様を泣かせてしまったのね… ゴメンナサイ」
『パナス・ダラム様の代理で舞踏会や、晩餐会でいつも隣にいて…』
「私が知らない事情が、何かあるのね? だから、私を追い払って2人だけで話をしている」
アイルが知らない間に、フジャヌとブラヌは、パダムを通して親交を深めていたのだ。
「狡いわ、お兄様! 何も教えて下さらないなんて…」
でもその道を選んだのはアイル自身だ。
アイルはうつむき、足元に並んで咲く、素朴な水仙の花を見つめた。
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