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60話 自慢の旦那様
しおりを挟む「実はトルセールにも、子供たちを私の養子にすることを、まだ話していない… きっとあいつはすねて、ふくれるだろうから… だからアディ、一緒に説得するのを手伝ってくれるか?」
小さな手を取りチュッ… とキスをして、甘えるようにデスチーノがアディに頼むと…
「お義姉様なら大丈夫ですよ! 僕とは違ってとても賢い女性ですから! ふふふっ… デスチーノ、きっと上手く行きますよ!」
<ああ、デスチーノにもっと、キスして欲しい!! こんな嬉しいことを知った後だもの~ 唇にいっぱい、キスが欲しいよぉ~!>
いつも甘えてばかりのアディは、愛する夫に頼られて、嬉しそうにふんわりと頬を染めて笑った。
「フンッ! オメガのくせに!」
新婚夫婦のイチャイチャとしたやり取りを見て… 気に入らないと、長兄ブラッソが憎々しげにアディを睨み鼻を鳴らす。
「あなたはそんな風だから、お義姉様に捨てられたのです!」
キッ… とアディは兄を睨み付けた。
以前のアディなら、青くなって口を閉じ、自分の意見を口に出すことなど無かったが…
<今日でエントラーダ伯爵家とは決別するのだから、僕が今まで言えなかったことを、全部言ってやる!! トルセールお義姉様の分もいっぱい!!>
「トルセールお義姉様ほど素晴らしい人はいないのに!! あなたは本当に愚かなゲス野郎だから、お義姉様の愛情を失ったのです! あなたには愛される資格など無い!!」
「な… 何だと?! アデレッソス、生意気な!!」
顔を怒りで、カッと赤くした兄がガタッ… と立ち上がるが…
「アナタも含めてエントラーダ伯爵家のアルファは全員ゲス野郎だ!! デスチーノや騎士団のアルファたちにあなたたちのようなゲス野郎はいない!! 僕がいつまでも無知だと思ったら大間違いだから!!」
第一、第二騎士団の騎士たちは、基本的に貴族出身のアルファたちで構成されている。
デスチーノの指導もあり、騎士たちの礼儀正しさに、アディはとても感動していた。
「この…っ!」
拳を握りブラッソは手を振り上げた…
「下の書類にもサインをしろ、ブラッソ! お前はそんな簡単なことも出来ないのか? これ以上私を挑発するな!」
甘い顔でアディを見つめていたデスチーノの態度が一変し、ブラッソを睨み付けた。
「ハッ…! 挑発だなんて、私は…ただ… 義兄上、あなたも見ていたでしょう?! オメガのくせにアデレッソスが先に、生意気なことを言って私を挑発したのです!」
慌ててブラッソは誤魔化そうとするが… 握った拳を振り上げていては、どんな言い訳もデスチーノには通じない。
「私はもうお前の義兄ではない、不愉快だ! それに私の妻は真実を口に出しただけだ!」
「そんな… しかしこのアデレッソスは…っ!」
「お前はトルセールに捨てられたゲス野郎だ! お前のようなやつが私の部下なら… 今後、悪さが出来ないよう、利き腕を折った後、去勢して放り出していただろうな… それが出来なくて残念だ!」
大きな掌を、自分の膝の上で握ったり開いたりして見せて…
剣など使わなくても、デスチーノなら拳一つで今、言ったとおりのことができると、ブラッソに態度で語った。
無表情でデスチーノは、好戦的なアルファの圧力をブラッソに放ち、自分との格の違いを感じさせたのだ。
「・・・・・・」
血の気を失ったブラッソは、再び腰を下ろして、書類にサインする。
アディとトルセールのために、必要な書類にサインをさせるまではと、デスチーノはずっと怒りを抑えていた。
本来、デスチーノは、自分の妻に暴言を吐くアルファを、笑って許せるほど寛容なアルファではない。
学園を卒業し騎士団に入団したての頃は…
"暴れ雄牛"の別称を付けられ、普段は穏やかだが、一旦怒り出すと手が付けられない乱暴者になると恐れられていた。
落ち着いたのは、父が急逝し公爵位を継いでからだ。
「ふふふっ…」
<ひゃあぁぁ~! 僕の旦那様は本当に、強い人なんだなぁ~! 素敵~っ!! デスチーノ、大好きぃ~っ! 僕の自慢の旦那様だぁ~!>
夫の攻撃的な一面に、一瞬ギョッ… としたが、そんなデスチーノに惚れ直し…
アディはふんわり幸せそうに笑って、デスチーノの大きな手を自分の膝に乗せて、指を絡ませ握りしめた。
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