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59話 決別
しおりを挟む心を病んだ者のようにブツブツと独り言をつぶやきながら、自分の殻に閉じこもってしまったエントラーダ伯爵を、先に馬車に乗せ、伯爵邸に返すと…
長男ブラッソだけをデスチーノは執務室に引き留めた。
前もってデスチーノが用意していた、トルセールとの離婚に関する書類を出して見せ、ブラッソにサインをさせるためだ。
<あ! お義姉様のサインが先にしてある… そうか、お兄様の愛人のことをお義姉様は全部知っているんだっけ? ずっとお義姉様は、お兄様の卑劣な裏切りに耐えていたのか… 本当にひどい話だよ!>
離婚の書類を見ているだけで… 義姉のことを思うと、アディの琥珀色の瞳からまた涙がこぼれそうになった。
<ゲス野郎!! この人を、もう二度と僕の兄などとは思わないから!!>
「ブラッソ、それとこちらの書類にもサインをくれ!」
「こ… これは…!」
新たにデスチーノが出した書類を見て… 長兄は息を吞んだ。
「トルセールに、"オメガしか産めない役立たず"と何度も文句を言ったそうだな? お前には愛人との間にアルファの子がいるのだから、この書類に喜んでサインすると思ったのだが… 違うのか?」
「チッ…!」
長兄ブラッソはイライラと舌打ちをし、自分とトルセールの子供、3人をデスチーノの養子に出す書類に迷いなくサインした。
この国ではオメガは、未成年者と同様に保護されるべき弱者として扱われているため…
未婚のオメガは社会的にも地位が低く、子供に後見人がいなければ、育てる権利さえ無いのだ。
<そうか、デスチーノはあの天使たちを、自分の子供として育てるつもりなんだ! それならトルセールお姉様も安心だね! …あれ? だったら僕もあの子たちの義母になるの? だよね?! わぁ~っ… なんかすごく嬉しい!! みんなでわいわい子育て!! えへへっ…>
義姉を思い、涙ぐんでいたことなどすぐに忘れて、アディは濡れた頬を手で拭い、養子縁組の書類を眺めながら、機嫌良くニコニコと笑った。
「アディ、どうしたのだ?」
殺伐とした空気が流れる中で、満面の笑を浮かべるアディを、デスチーノは隣から不思議そうに見ていた。
「あの子たちと、ずっと一緒にいられると思うと嬉しくて!」
「そうか、君は喜んでくれるのか!」
デスチーノが、ホッ… と微笑んだ。
大切な案件にもかかわらず、騎士団の仕事があまりにも忙し過ぎて、公爵邸には帰れず…
そのため、アディには何の相談も無く、この執務室で弁護士と話し合い、デスチーノが独断で子供を養子にすると決めてしまった。
アディに事後承諾になってしまったことを、デスチーノは気にしていたのだ。
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