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2話 王太子の不貞
しおりを挟む王太子は、側近候補たちに合図し、リヒトを会場から引きずり出し、学園の門の外へと放り出した。
「ああ… ハメられた!!」
<恐らくは、殿下の側近候補、ブラウ公爵令息とリーラ公爵令息に!!>
立たせないよう、リヒトの身体を、両脇から押さえつけていた、2人のことだ。
午前中、雨が降ったせいで、ぬかるんだ道の真ん中に、座り込み…
卒業パーティー用に母親と共に選んだ礼装のドレスコートが、泥水を吸い淡いレモン色が汚れてゆくのも気付かず、リヒトは涙がこぼれ落ちないように顔をおさえた。
子供の頃、"花の令息"の神託が下ってすぐ王太子フリーゲと婚約を交わした。
その王太子に、たった今リヒトは裏切られ捨てられたのだ。
王太子フリーゲのために、育てられたリヒトは…
王太子だけを思い、見つめ、慕い、生きて来た。
<私はどうすれば良かったの? 本当にわからないよ! 私には殿下のことがわからない!!>
学園に入学してから、生真面目で面白味の無いリヒトはフリーゲに嫌われていると、薄々だが気付いていた。
半年ほど前、生徒会の休憩室で…
だらしなく下衣だけを脱ぎ、フリーゲとギフトは乱れた息づかいで、ソファに転がり抱き合っていた。
世慣れていないリヒトは、最初2人が、何をしているのか、理解できず…
苦しそうな呼吸をしていると、心配でおずおずと、声をかけた。
『…大丈夫ですか、王太子殿下?』
『リ… リヒト!! 何て無粋な奴だ…っ!! さっさと出て行け!! 冷血人間が!!』
顔を真っ赤にして半裸で飛び起きた王太子に、罵詈雑言をあびせられ休憩室を追い出されると…
廊下で待ちぶせていた側近候補たちは、ニヤニヤと笑いリヒトを侮辱した。
『フリーゲ殿下も気の毒に… 婚約者に魅力が足りないから、こうなっても仕方ないさ!』
『本当にそうだな! 口を開けば、説教ばかりで、こんなに可愛げの無い奴を、誰が好ましく思うのさ?』
<決定的だったのは、フリーゲのキスを拒み… 婚姻前に私の身体に触れることを、許さなかった… あの時だ!>
『お前は婚約者のくせに、味見もさせない気か?! つまらない奴だ! お前と一生を共にするなど、考えただけでもウンザリする!!』
「ふふふっ… 味見だって…っ?! アハハハハ―――ッ!!」
ついに、耐えられなくなり、リヒトは狂ったように、笑い出した。
フリーゲとギフトが、淫らに腰を振る姿が、今も心に焼き付いて…
王太子に触れられることを考えると、リヒトは嫌悪感で鳥肌が立つのだ。
<吐き気がする!! どうすれば、この吐き気を止められる?!>
ことがことだけに誰にも相談できず、密かにリヒトは一人で悩み続けていた。
<王太子を嫌悪する私は、王妃にはなれない… 王太子のために、生まれて来たような人生なのにだ!!>
たった今、自分に起きた出来事は…
リヒトにとって、喜劇であり…
悪夢であった。
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