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1話 覚えの無い罪
しおりを挟む世界の東方に位置する地、オーステン大陸。
その広大な東方大陸を支配する、"4人の女神の国"と呼ばれる、シュメッターリング王国の王都ブルーメで…
とある公爵令息の細やかな人生を左右する、愚かな茶番劇が、繰り広げられようとしていた。
貴族の子弟が通う歴史ある王立学園の卒業パーティーで、シュメッターリング王国、王太子アルファのフリーゲは…
幼い頃からの婚約者、プファオ公爵家長男オメガのリヒトを断罪した。
「プファオ公爵家の長男リヒト! 私の大切な友人であるドウルヒファル男爵家令息ギフトに対しての、陰湿な嫌がらせと、暴力行為、君が犯したこの2つの罪を、今ここで告発し断罪する!!」
王太子の周りを友人たちが囲み…
隣にはドウルヒファル男爵家令息、オメガのギフトがいる。
「王太子殿下、私には身に覚えの無いことです、何かの間違いではありませんか?」
屈辱的にもリヒトは、両脇に立つ王太子の側近候補のアルファの友人たちに、オメガ特有のスラリと細身の身体を押さえ付けられていた。
冷たい床に両膝をつき、目に掛かる孔雀色の髪を払うことも許されず、リヒトは赤金色の瞳で、王太子を見上げながら、冷静にたずねた。
「黙れリヒト!! 王太子の私が、間違っていると言うのか?! 不敬であるぞ!!」
カッ… と王太子は、怒りをあらわにする。
「ねぇ、フリーゲ様ぁ? 許してあげて下さい~ だって、リヒトさんは少し動揺しているだけでしょうから」
王太子の隣りに立つ、ドウルヒファル男爵家令息ギフトは、肩でフワリと切り揃えた、桃色を帯びた淡い金の髪を揺らしながら、王太子フリーゲの腕を無作法に撫でた。
「君は本当に優しいなギフト、だから余計にリヒトが許せないのだ!!」
王太子は宝物を護るように、ギフトの細い腰を抱き寄せ丸い頬に触れた。
その光景にリヒトは息を呑み、次の瞬間…
自分の置かれた状況をすっかり忘れ、生真面目に王太子を諫めた。
「王太子殿下! このような人の多い場所で、特定の生徒を特別扱いしてはなりません!」
結婚した妻ならともかく、気安く未婚のオメガの腰を抱くなど…
婚約者が相手でも許されない行為だった。
未来の王妃になる為に、15歳の時から王宮で暮し厳しい妃教育を受けて来たリヒトには、王太子フリーゲのしていることは、暴挙以外の何物でも無かった。
「黙れと言ったのが、聞こえなかったのか?! やはりお前は、シュメッターリング王国の、重責を担う王太子妃には不適格だ!! 犯罪者であると言う事実からも、婚約破棄を言い渡す!!」
王太子は怒鳴り声で、リヒトの体面にとどめを差すように、宣言した。
「お待ちください、王太子殿下!! 私は何も犯してはおりません!」
青ざめた顔でリヒトは言い募るが・・・
「見苦しいぞ、リヒト!! "花の令息"の称号を持つ者なら、その名に恥じぬ行いをしろ!! ギフトへ謝罪の1つでもしたのなら、少しは見直してやったものを!! 犯した罪の証拠は揃えてあるし証人もいるのだ、言い逃れは許さないぞ!!」
"花の令息" とは、女神の神託により選ばれる、王妃候補に与えられる称号である。
「そんな…っ!」
「お前はプファオ公爵邸へ帰り謹慎せよ!! 処罰の内容は追って通知する、今後王宮への立ち入りも禁止する!!」
王太子は側近候補たちに合図し、リヒトを会場から引きずり出し、学園の門の外へと放り出した。
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