9 / 178
8話 別れの挨拶
しおりを挟む
頑丈そうな鎖が付いた枷を、両手、両足に付けられ、薄汚れた囚人用の服を一枚だけ着て、リヒトは処刑場へと続く、暗くて冷たい石造りの廊下を歩く。
一歩足を踏み出すごとに、太い鎖が擦れあい、ジャラジャラと耳障りな音が鳴り響いた。
プファオ公爵邸の書斎に呼ばれ、翌日公開処刑されるとリヒトが聞いたその日のうちに捕縛され、処刑場内の地下牢へ入れられた。
<母上と弟のヴァルムに別れの挨拶を早めにしておいて… 良かった>
『リヒト! 今すぐ王都から逃げなさい!! 西の港から隣国へ向かう商船に乗れるように、手配しました、あなたの世話をしてくれる人も、頼んであります!!』
<お妃教育で、強い感情は表情に出さないようにと、繰り返し教え込まれて来たから、泣くつもりなど無かったのに…>
母に泣きながら懇願され、リヒトは涙が抑えられなかった。
『私もお供します兄上!! お1人では危ないですから!』
アルファの弟ヴァルムは、リヒトや父よりも大柄な体格をしているのに、幼い子供のように泣きじゃくった。
リヒトが逃亡すれば、それはそのままプファオ公爵家に罪が跳ね返り…
下手をすると、貴族の地位を剥奪されかねない。
今の王太子フリーゲなら、それぐらいのことは平気でやるからだ。
それが分かっていて母と弟は、リヒトに本気で逃げろと言うのだ。
<ありがとうございます、神様… 私に素晴らしい家族を与えてくれて…>
神託でリヒトを"花の令息" に選んだ女神に感謝の祈りを捧げた。
父プファオ公爵は、体調不良の国王陛下に、謁見は許可されず…
減刑の嘆願さえ出来なかった。
「恐らく国王陛下には、この一連の騒ぎさえ、知らされていないのだろう」
なぜか父プファオ公爵は、リヒトと共に刑場へと出た。
「父上… 今までありがとうございました、育てて頂いた、御恩を返せず申し訳ありません」
刑場までリヒトと共に歩く、スラリと背の高い凛とした自慢の父を、心に焼き付けるように見上げた。
何時もは閑散とした刑場に…
大勢の貴族たちがリヒトの処刑を見物しに、詰め掛けていた。
刑場にリヒトが現れると、観客たちからざわざわと期待の籠った歓声が響く。
ちょっとした娯楽を、楽しみに来たという様子だ。
死刑執行の様子が一番良く見える、前方に椅子を置いて優雅にくつろぐ観客たちは…
仮面を着けて、素性を隠していた。
上位貴族の誰かで、恐らくブラウ公爵家とリーラ公爵家の家門の者たちだろう。
一番の特等席には王太子とその婚約者が着き、2人はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
王太子の後ろに立つ、名実ともに側近となった2人は…
自分たちが手掛けた初仕事の出来栄えを見て、上手く行ったと満足そうに微笑んでいる。
リヒトが犯したという、覚えの無いでたらめな罪状が読み上げられ…
綺麗に首が落ちるように、魔法を組み込んだ斧を持つ死刑執行人が、覆面を被って現れた。
執行人はリヒトを跪かせ、背中まである孔雀色の髪を払い細く優雅な項をさらすと…
ざわざわと観客たちが、興奮の声を上げる。
「お前が私より、目立つから悪いのだ! 余計な指図ばかりして、私を辱めたお前が!」
リヒトへの恨み言を、ブツブツとつぶやく、王太子の瞳には…
嫉妬と憎悪が籠っていた。
一歩足を踏み出すごとに、太い鎖が擦れあい、ジャラジャラと耳障りな音が鳴り響いた。
プファオ公爵邸の書斎に呼ばれ、翌日公開処刑されるとリヒトが聞いたその日のうちに捕縛され、処刑場内の地下牢へ入れられた。
<母上と弟のヴァルムに別れの挨拶を早めにしておいて… 良かった>
『リヒト! 今すぐ王都から逃げなさい!! 西の港から隣国へ向かう商船に乗れるように、手配しました、あなたの世話をしてくれる人も、頼んであります!!』
<お妃教育で、強い感情は表情に出さないようにと、繰り返し教え込まれて来たから、泣くつもりなど無かったのに…>
母に泣きながら懇願され、リヒトは涙が抑えられなかった。
『私もお供します兄上!! お1人では危ないですから!』
アルファの弟ヴァルムは、リヒトや父よりも大柄な体格をしているのに、幼い子供のように泣きじゃくった。
リヒトが逃亡すれば、それはそのままプファオ公爵家に罪が跳ね返り…
下手をすると、貴族の地位を剥奪されかねない。
今の王太子フリーゲなら、それぐらいのことは平気でやるからだ。
それが分かっていて母と弟は、リヒトに本気で逃げろと言うのだ。
<ありがとうございます、神様… 私に素晴らしい家族を与えてくれて…>
神託でリヒトを"花の令息" に選んだ女神に感謝の祈りを捧げた。
父プファオ公爵は、体調不良の国王陛下に、謁見は許可されず…
減刑の嘆願さえ出来なかった。
「恐らく国王陛下には、この一連の騒ぎさえ、知らされていないのだろう」
なぜか父プファオ公爵は、リヒトと共に刑場へと出た。
「父上… 今までありがとうございました、育てて頂いた、御恩を返せず申し訳ありません」
刑場までリヒトと共に歩く、スラリと背の高い凛とした自慢の父を、心に焼き付けるように見上げた。
何時もは閑散とした刑場に…
大勢の貴族たちがリヒトの処刑を見物しに、詰め掛けていた。
刑場にリヒトが現れると、観客たちからざわざわと期待の籠った歓声が響く。
ちょっとした娯楽を、楽しみに来たという様子だ。
死刑執行の様子が一番良く見える、前方に椅子を置いて優雅にくつろぐ観客たちは…
仮面を着けて、素性を隠していた。
上位貴族の誰かで、恐らくブラウ公爵家とリーラ公爵家の家門の者たちだろう。
一番の特等席には王太子とその婚約者が着き、2人はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
王太子の後ろに立つ、名実ともに側近となった2人は…
自分たちが手掛けた初仕事の出来栄えを見て、上手く行ったと満足そうに微笑んでいる。
リヒトが犯したという、覚えの無いでたらめな罪状が読み上げられ…
綺麗に首が落ちるように、魔法を組み込んだ斧を持つ死刑執行人が、覆面を被って現れた。
執行人はリヒトを跪かせ、背中まである孔雀色の髪を払い細く優雅な項をさらすと…
ざわざわと観客たちが、興奮の声を上げる。
「お前が私より、目立つから悪いのだ! 余計な指図ばかりして、私を辱めたお前が!」
リヒトへの恨み言を、ブツブツとつぶやく、王太子の瞳には…
嫉妬と憎悪が籠っていた。
16
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる