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174話 2人の愛 ーENDー
しおりを挟む「義父上には私から話してみる… 私だって周りからうるさく言われても、リヒトと出会うまで少しも結婚したいとは思わなかったからな、お前の気持ちはよく分かるよ」
プファオ公爵の命令で花嫁を探しにヴァルムはシュナイエン王国の社交シーズンに参加しているが…
どうやらサッパリらしい。
「本当に?! さすが義兄上!!」
財産も名誉もある、夫候補としては魅力的な名門プファオ公爵家の後継者でも…
結婚後は魔獣退治の最前線で暮すとなると、適齢期の若いオメガたちは尻込みするようだ。
3国で"花の令息"3人が定期的に祭祀をとり行っているおかげで、魔窟の森の拡大も抑えられ、瘴気の被害もそれほどひどくは無い。
城塞自体が、"花の令息" たちの力が及ぶ境界ギリギリ内側に築かれたからだ。
「お前が一生独り身で通すというのなら良くないが… リヒトが2人目を身籠ったから、いざとなれば、その子をプファオ公爵家の養子にと義父上を説得してだな… まぁ、少しばかり時間稼ぎをしてやるよ」
慣れた手つきで熟睡するシュベールトを片手に抱いて、シルトは反対側の手で、リヒトのお腹に掌を当てた。
愛し気にリヒトはシルトの背中に腕を回す。
ヴァルムが上手く結婚相手を見つけられないのは、何時までも新婚のように仲睦まじい兄夫婦を見続けているのが原因である。
自分が伴侶を持つときは、兄夫婦のようになりたいと手本にしている為に、ヴァルムが求める理想が高くなっているのだ。
「ヴァルムの"運命の番" は夜会では見つからないかも知れないね」
賢者のように、リヒトは口を開いた。
「え? 何でだよ兄上?!」
苦労して苦手な夜会に参加するヴァルムの努力を、引っくり返すようなリヒトの意見に、ムッとする。
「だって夜会とか、社交活動とかヴァルムは嫌いでしょう? そういう場所に着飾ってくる子では、たぶん魔力交換をしても合わないよ?」
「ううっ… それはそうかも知れないけど?」
渋い顔で認める義弟にシルトは、逞しくなった背中をバンッ…! バンッ…! と叩いた。
「アルファは30歳を過ぎても結婚は出来るからな… そう焦るな、ヴァルム! とりあえず魔獣退治で30前に死なない用に、もっと腕を磨け!」
「ウグググッ…! 早く恋人が欲しいなぁ…」
喉の奥からヴァルムは変なうめき声を出す。
結婚はまだ早くても、ヴァルムはイチャイチャできる恋人は欲しいと思っているのだ。
ヴェステン城塞へシルトが視察に出掛けた時、ちょうど小規模な魔獣の襲撃があり、ヴァルムと共に参戦して…
『確かに以前と比べると、格段に強くなったがまだまだ魔力操作が甘い! それではすぐに魔力切れを起こすぞ?』
と、力押しで戦う傾向が強いヴァルムに、シルトは釘を刺した。
プファオ公爵とリヒトの魔力操作が巧みなだけに、シルトにはヴァルムの使い方が雑に見えるのだ。
リヒトとシルトは顔を見合わせ…
「ヴァルムはまだまだだね!」
リヒトが言うと…
「まだまだだな!」
息ピッタリでシルトが答える。
2人は、ふふっ… と笑い、チュッ…! とキスを交わす。
やれやれと、ヴァルムは仲の良い兄夫婦に憧憬を抱きつつ、苦笑いを浮かべた。
リヒトとシルトが愛し合うきっかけになった馴れ初めは、けっして恵まれた状況ではなかった。
むしろ危機的状況下で2人は出会い、お互いのことをほとんど知らないまま情交を重ね…
奇跡的にお互いが、唯一無二の存在となったのだ。
2人が愛し合ったのは…
女神の導きか…?
それとも女神からのご褒美なのか?
単なる偶然か?
理由は不明だ。
だが、2人の愛情が歴史を変える程の、影響を及ぼしたのは確かである。
- END -
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