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第一章
29、スード辺境領への誘い
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「じゃ、スード辺境領に帰るか!」
「んん?」
輝く笑顔でそう言ってユーリアシェの手を取ったまま立ち上がる。
「もう用意してんだろ、王族除籍届。向こうも王太女褫奪書を用意してるだろうし、さっさとサインして帰ろうぜ!」
満面の笑顔でさっさと書類を出せと手を差し出す。
ユーリアシェは何故自分も一緒に行くのかわからずに、焦ってカーティスと握っていた手を振りほどいた。
「何言ってるのよ!私が一緒に行ける訳ないじゃない!!」
王太女であったユーリアシェが一緒に行けばスード辺境領に爆弾を抱えるようなものだ。
それはカーティスが一番よくわかっているはず。
「なんで?」
「スードの皆に迷惑をかけることになるわ!最悪国とスード辺境領が争うことになるのよ!!」
(自分のせいで誰かが傷付くなんて絶対に嫌だ!)
顔を手で覆い全身で拒絶する。
カーティスはユーリアシェの両手をそっと外し抱き締めた。
「大丈夫、誰も傷付かない。あっちからユリィの手を離したんだ。名分がないし、スードも名分を作らせるような緩い所じゃねえよ。」
「でも・・・」
「お前は迷惑だのなんだの言うけどな。親父はともかく母上にはユリィを攫ってでも連れ帰れって厳命されてるし、エリオルとフィルはお前が来るのを楽しみに待ってんだぜ」
「・・・」
「親父だって、ユリィが王太女じゃなきゃアラミス公爵に王家簒奪されて、ハスターバルの属国になるから阻止しろって言ってたけど、本音はユリィを王家から解放してやりたかったんだよ」
「伯父様が?」
使者としてスード辺境領に行っても挨拶しかせず、いつも無愛想なテバンを思いだし怪訝な声音になってしまう。
「まあユリィとは挨拶しかしないし、いつも仏頂面だから信じられないだろうけどな。
毎年使者として来て帰った後はいつも泣きながら『あんな小さい子になんてことしてんだー!くだばれ国王!!』って叫んでんだよ。」
初めて聞いた辺境伯の実態に驚きすぎて目も口も開いたままになった。
その顔を見てカーティスは吹き出し、笑いが止まらない。
「ブハッ!何だよその顔!ユ、ユリィも、ブフッそんな顔、グフッで、できたん、アハハハハッ」
「笑いすぎだから!
だっていつも眉間に皺寄せて挨拶したらすぐ出ていってたから、嫌われてるって思ってたのよ!!」
自分が間抜けな顔をしていたのに気付き真っ赤になって言い返す。
「あれはユリィ見るたびに6才の熱でてんのに無理矢理引っ張られて出ていこうとしてた時を思い出して泣くからすぐに離れてたんだよ。」
「えっ」
「王城では違うかも知れんが、スードの皆には愛されてんだよ。それぐらいわかってただろ。」
また優しく抱き締められ、心に開いた穴が塞がっていくのを感じる。
知っていた。
けれどここから出られないと思っていたから見ないふりをしていた。
もう目を背けなくてもいい。
「んん?」
輝く笑顔でそう言ってユーリアシェの手を取ったまま立ち上がる。
「もう用意してんだろ、王族除籍届。向こうも王太女褫奪書を用意してるだろうし、さっさとサインして帰ろうぜ!」
満面の笑顔でさっさと書類を出せと手を差し出す。
ユーリアシェは何故自分も一緒に行くのかわからずに、焦ってカーティスと握っていた手を振りほどいた。
「何言ってるのよ!私が一緒に行ける訳ないじゃない!!」
王太女であったユーリアシェが一緒に行けばスード辺境領に爆弾を抱えるようなものだ。
それはカーティスが一番よくわかっているはず。
「なんで?」
「スードの皆に迷惑をかけることになるわ!最悪国とスード辺境領が争うことになるのよ!!」
(自分のせいで誰かが傷付くなんて絶対に嫌だ!)
顔を手で覆い全身で拒絶する。
カーティスはユーリアシェの両手をそっと外し抱き締めた。
「大丈夫、誰も傷付かない。あっちからユリィの手を離したんだ。名分がないし、スードも名分を作らせるような緩い所じゃねえよ。」
「でも・・・」
「お前は迷惑だのなんだの言うけどな。親父はともかく母上にはユリィを攫ってでも連れ帰れって厳命されてるし、エリオルとフィルはお前が来るのを楽しみに待ってんだぜ」
「・・・」
「親父だって、ユリィが王太女じゃなきゃアラミス公爵に王家簒奪されて、ハスターバルの属国になるから阻止しろって言ってたけど、本音はユリィを王家から解放してやりたかったんだよ」
「伯父様が?」
使者としてスード辺境領に行っても挨拶しかせず、いつも無愛想なテバンを思いだし怪訝な声音になってしまう。
「まあユリィとは挨拶しかしないし、いつも仏頂面だから信じられないだろうけどな。
毎年使者として来て帰った後はいつも泣きながら『あんな小さい子になんてことしてんだー!くだばれ国王!!』って叫んでんだよ。」
初めて聞いた辺境伯の実態に驚きすぎて目も口も開いたままになった。
その顔を見てカーティスは吹き出し、笑いが止まらない。
「ブハッ!何だよその顔!ユ、ユリィも、ブフッそんな顔、グフッで、できたん、アハハハハッ」
「笑いすぎだから!
だっていつも眉間に皺寄せて挨拶したらすぐ出ていってたから、嫌われてるって思ってたのよ!!」
自分が間抜けな顔をしていたのに気付き真っ赤になって言い返す。
「あれはユリィ見るたびに6才の熱でてんのに無理矢理引っ張られて出ていこうとしてた時を思い出して泣くからすぐに離れてたんだよ。」
「えっ」
「王城では違うかも知れんが、スードの皆には愛されてんだよ。それぐらいわかってただろ。」
また優しく抱き締められ、心に開いた穴が塞がっていくのを感じる。
知っていた。
けれどここから出られないと思っていたから見ないふりをしていた。
もう目を背けなくてもいい。
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