ラストで死ぬ主人公に転生したけど死なないから!!

as

文字の大きさ
30 / 63
第一章

29、スード辺境領への誘い

しおりを挟む
「じゃ、スード辺境領に帰るか!」

「んん?」

輝く笑顔でそう言ってユーリアシェの手を取ったまま立ち上がる。

「もう用意してんだろ、王族除籍届。向こうも王太女褫奪ちだつ書を用意してるだろうし、さっさとサインして帰ろうぜ!」

満面の笑顔でさっさと書類を出せと手を差し出す。
ユーリアシェは何故自分も一緒に行くのかわからずに、焦ってカーティスと握っていた手を振りほどいた。

「何言ってるのよ!私が一緒に行ける訳ないじゃない!!」

王太女であったユーリアシェが一緒に行けばスード辺境領に爆弾を抱えるようなものだ。
それはカーティスが一番よくわかっているはず。

「なんで?」

「スードの皆に迷惑をかけることになるわ!最悪国とスード辺境領が争うことになるのよ!!」

(自分のせいで誰かが傷付くなんて絶対に嫌だ!)

顔を手で覆い全身で拒絶する。
カーティスはユーリアシェの両手をそっと外し抱き締めた。

「大丈夫、誰も傷付かない。あっちからユリィの手を離したんだ。名分がないし、スードも名分を作らせるような緩い所じゃねえよ。」

「でも・・・」

「お前は迷惑だのなんだの言うけどな。親父はともかく母上にはユリィを攫ってでも連れ帰れって厳命されてるし、エリオルとフィルはお前が来るのを楽しみに待ってんだぜ」

「・・・」

「親父だって、ユリィが王太女じゃなきゃアラミス公爵に王家簒奪されて、ハスターバルの属国になるから阻止しろって言ってたけど、本音はユリィを王家から解放してやりたかったんだよ」

「伯父様が?」

使者としてスード辺境領に行っても挨拶しかせず、いつも無愛想なテバンを思いだし怪訝な声音になってしまう。

「まあユリィとは挨拶しかしないし、いつも仏頂面だから信じられないだろうけどな。
毎年使者として来て帰った後はいつも泣きながら『あんな小さい子になんてことしてんだー!くだばれ国王!!』って叫んでんだよ。」

初めて聞いた辺境伯の実態に驚きすぎて目も口も開いたままになった。
その顔を見てカーティスは吹き出し、笑いが止まらない。

「ブハッ!何だよその顔!ユ、ユリィも、ブフッそんな顔、グフッで、できたん、アハハハハッ」

「笑いすぎだから!
だっていつも眉間に皺寄せて挨拶したらすぐ出ていってたから、嫌われてるって思ってたのよ!!」

自分が間抜けな顔をしていたのに気付き真っ赤になって言い返す。

「あれはユリィ見るたびに6才の熱でてんのに無理矢理引っ張られて出ていこうとしてた時を思い出して泣くからすぐに離れてたんだよ。」

「えっ」

「王城では違うかも知れんが、スードの皆には愛されてんだよ。それぐらいわかってただろ。」

また優しく抱き締められ、心に開いた穴が塞がっていくのを感じる。
知っていた。
けれどここから出られないと思っていたから見ないふりをしていた。

もう目を背けなくてもいい。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...