ラストで死ぬ主人公に転生したけど死なないから!!

as

文字の大きさ
53 / 63
第一章

52、帰れる場所

しおりを挟む
「はっ、馬鹿馬鹿しい!王族を抜けてまでしたい事が神に一生を捧げることなのか!」

カーティスが目を眇めユーリアシェを見下ろす。
冷酷ともいえるその瞳にユーリアシェは一歩後ずさる。
それすら許さないと両腕を掴み引き戻した。
ユーリアシェは初めてカーティスに恐怖を感じる。

「国王の前で言ったはずだ。お前を娶ると。冗談だとでも思ったのか。」

目を逸らせない程の強さで見据えられ小さく震えながらユーリアシェは反論する。

「私がスードにいれば王家やアラミス公爵家が何をするかわからない!あの襲撃でわかったでしょう。今度は軽傷で済むわけない!」

高貴な血を持つだけのお荷物をスードが背負う必要はない。
大巫女になれば二度と俗世には戻れないが命の保証はある。

「ユリィは自分が約立たずのお荷物だって思ってんのか?
辺境や王都間の街道を整備し国内間の流通を円滑にして、連絡網も発展させ国力を上げたのに?」

「王女の権力があったからよ!今は何もない。
権力がなければ何一つ出来ない。」

努力もしたが王族の権威があったからこそ皆が従ってくれた。
平民としてやっていけると思っていたが、贅沢に慣れた体は数日の野営をしただけで肌が赤くなり手は手網を握り続けて豆が潰れた。

情けなくて誰にも言えなかった。

前世での経験でやっていけると思っていた自分が恥ずかしかった。

「ユリィがそう思ってるなら次期辺境伯夫人の地位をやる。
そしてスードを一緒に守ってくれ。」


背けていた顔をカーティスに向け力なく微笑む。

「兄様に犠牲になって欲しくないの。」

その言葉に苛立ったようにユーリアシェを抱きしめた。

「犠牲じゃない!
ユリィを愛してるからだ!
お前を手に出来るなら何でもする。
ずっと兄じゃなく、男としてユリィの前に立ちたかったんだ。」

ユーリアシェは目を見開いて固まった。
国王との話し合いでも言っていたが、その場を収める為だと思っていたし、兄妹としての情で助けてくれていると思っていた。

「兄様、兄様のそれは私を妹として、その·····」

前世、今世でまともな恋愛をした経験がなく、何をどう聞けばいいのかわからない。

「妹のように思っていたのは最初だけだ。
美しく危うくなっていくユリィに女性として惹かれていったが、お前には婚約者がいたし初恋にしがみついてたろ。
だから、兄としての立場を崩す訳にはいかなかった。」

ランセルドの事はぼかしていたのに知られていたのが恥ずかしく顔が赤くなる。

「今はハルク伯爵の事はふっ切れてんだろ。
少しづつでいい。俺を兄としてじゃなく男として見てくれ。」

切ない表情でユーリアシェに希う。
今度はカーティスの言葉に体温が上昇した。

家族のように愛していたのに、いきなり恋愛相手にできるだろうか。

この胸の高鳴りはどんな感情からなのか。

ユーリアシェは混乱しながらも言わなければいけない大事な事があった。

「兄様、私はユーリアシェだけど兄様の知ってるユリィじゃないの。」

どう説明しようか迷っているとカーティスが頬にそっと触れる。

「お前の何かが変わっても根幹は一緒だ。今のお前も俺の愛しいユリィだよ。」

慈しむように頬を撫でる手に更に体温が上がり真っ赤になる。

「約立たずだと思うなら、それを自分の力で覆せばいい。
もし疲れて逃げたいなら一緒に逃げてやる。
少し位の贅沢な暮らしならさせてやれるから。」

服の上から腕を優しく摩られ赤くなっているのがばれていた。

「迷っているなら俺を選べ。神になんぞ絶対に渡さねえからな。」

痛いくらいの抱擁に躊躇いながらもカーティスの背に手を回した。
不安も恐怖もあるがこの温かさを離したくない。

「ティス兄様の傍にいたい。恋かわからないけど、兄様が大事なの。」

今はこの思いが正直な気持ちだ。
カーティスは嬉しそうに笑い顔をどんどん近づける。

(えっ?)

気づいたら唇が重なっていた。
驚いて叫びそうになり口を開いたら悲鳴ごと舌に絡め取られた。
上顎を舐め舌を擦り絡められユーリアシェは息も出来ずに口腔内を蹂躙される。

背筋がゾクゾクして体から力が抜けたところでやっと唇が離れた。

唾液が口端から零れそれを舐められる。
ユーリアシェは羞恥と少しの熱が体内で渦巻き泣きそうになった。

「さて、朝飯食って本邸に帰るか。」

カーティスはそんなユーリアシェを意に介さず横抱きにして上機嫌で邸内に入っていく。

カーティスの腕の中で真っ赤な顔を埋め、スードに帰れる・・・のが嬉しかった。

「ティス兄様、私に帰れる場所を作ってくれてありがとう。」

ずっと迷い子のようだったユーリアシェ。
王城で愛を求め続けるだけでそこから動こうとしなかった。
飛鳥になっても王城から逃げる事しか考えなれなかった。

もう逃げなくてもいい。
カーティスと一緒なら立ち向かえる。

この気持ちはいつか恋に変わるとユーリアシェは確信した。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

一旦ここで区切ります。
処女作で右往左往しながら書いてました。
読んでくださった皆様に感謝です(*´ω`人)

この後番外編を入れようと思います。
よろしくお願いします (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)




しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...