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「……あれ?」
陽真は風呂上がり、バスタオルがかけてあるはずのラックの前で、素っ裸のまま立ち尽くしていた。
「ない……」
ラックの上は、ピシッと畳まれたフェイスタオルだけ。バスタオルの気配は、どこにもない。
(いや、さすがに洗濯忘れたのは俺が悪いけど……でも共有の棚、使ってもいいって言ってたよね!?)
仕方なくフェイスタオルで適当に腰を巻き、こっそり廊下に出た。
が──
「……あの」
リビングで本を読んでいた九条と、目が合った。
「……や、やあ、九条さん……いい夜ですね……」
「下着を着用していない状態で共用部を歩くのはお控えください」
「えっ、そんな細かいルールあった?」
「暗黙の了解です」
「そんな暗黙、初耳だよ……!」
思わず情けない声が漏れる。
「っていうか、バスタオルどこいったの? 共用棚、昨日までは置いてたよね?」
九条は、静かに本を閉じて言った。
「バスタオルは、乾きにくく雑菌の繁殖率も高いため、効率的な選択とは言えません」
「いや、なんで処分した!?」
「合理的判断です。文句があるなら、エビデンスを提示してください」
「合理性でタオル消される日が来るとは思ってなかったよ!」
陽真は完全に参っていた。
「……じゃあさ、もう俺、明日から自分のタオル買ってこようかな。共有に頼らず」
「それは歓迎します。共有物は管理の手間が二重になるため、リスクを孕みますので」
「その口ぶりでよく一緒に住もうと思ったね!?!?」
「僕だって、最初から歓迎していたわけではありません。ただ、家賃が一万円下がると言われたので」
「一万円のために感情すり減らされてるこっちの気持ちは!?」
「感情は自己責任で管理してください」
「いやあんたが壊してるんだよ!?!?」
リビングに、陽真の嘆き声が響いた。
⸻
夜も更け、陽真は自室で布団にもぐっていた。
フェイスタオルで頭を拭きながら、ため息をつく。
(あー……なんかもう、疲れた……)
湊は間違ってない。すべては「理屈」で動いていて、それ自体に悪意はない。
でも、だからこそ、きつい。
ちゃんと否定されたわけじゃないのに、全否定されてるみたいな気分。
「……でも、怒る気にもならないんだよなぁ……」
湊は、人を悪意で傷つけるタイプじゃない。多分、“やり方を知らない”だけなんだ。
(……不器用、って、ああいうのを言うのかな)
静かな部屋の中、ふっと笑ってしまった。
⸻
翌朝。
キッチンに入ると、冷蔵庫にまた一枚、付箋が貼ってあった。
「昨日の件、謝罪はしませんが、フェイスタオルの消費速度が上がったのは私にも不便でした。
今後はタオル類を分けて運用しましょう。なお、あなたの洗濯物は“干し方が雑”です。改善を」
「……なんだろ……うん、ちょっとずつ“暮らしてる”感じするな……」
陽真は苦笑しながら、今日も卵焼きを焼き始めた。
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